だから堕ちて、溺れて

御厨カイト

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だから堕ちて、溺れて

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彼氏にフラれた。
1年以上付き合って、そろそろ同棲を始めようかと思っていた矢先フラれた。


どうやら他に好きな女の子が出来たらしい。


そんな訳で私は今日、お酒に飲まれる。
というか、今日ぐらいはお酒の力で溺れさせて欲しい。
でなきゃ、眠れそうにもない。

多分、いや絶対明日は二日酔いだな。
……明日は1コマ目から講義か。
ハハッ……頼む、世間よ死んでくれ。


乾いた笑いが1人しかいないこの部屋に寂しく響く。
そんな状況になんだか虚しくなってきた私は、さっき持ってきた缶チューハイを開ける。
かき消すように勢い良く。


プシュッ


気持ち良い音が鳴った半面、少し机に飛び散ってしまった。
それでも、私は気にせず1口ゴクリと飲む。
さっさと酔いたくてアルコール度数の高い奴を選んだからか、パッと体が熱くなるのを感じる。

さぁ、早く私を堕としてくれ。

女としてお酒に強いのは良い事だとは思うが、こういう時は自分の体質が腹立たしい。
こんな時こそ冷静なんかで居たくないのに。


それにしても……何故、今なんだろう。
付き合って1年経って、同棲の話も出て、ゆくゆくは結婚……みたいな感じだったのに。
一緒に住む部屋を探してみたり、その部屋に置く家具とかもお店で見たりしたはずなのに。

何で今なんだろう。


てか、他に好きな子が出来たって何?
君の好きな子は私だったんじゃなかったの?
それなのに……


今日1日での情報が多くて、頭がこんがらがりそうになる。
それなのにお酒の進むスピードは速い。
もう1缶が終わる。


「はぁ……」とため息をつき、頭をガシガシと掻きながら冷蔵庫へと向かう。
取り敢えず1本だけと思ったが多分まだ飲むだろうからもう1本、追加で持って席に戻る。
何か胃に入れたいがお酒しか買ってこなかったからしょうがない。


……もっと相手の子について聞いておけば良かったな。
いや、多分彼も話してくれていたと思うが、あまりのショックの大きさに私が耐え切れなくて聞けてなかっただけか。
最初に言われた「別れよう」という言葉を聞いた後から、視界が真っ白になって自分の心臓の音しか聞こえなかったから。
それこそ、ホント悪い酔い方をした時みたいに動悸が酷かった。

なのに、そんな状況にも拘わらず淡々と話してくる彼に対して凄く苛立ったのは覚えている。


知らないうちに力が入っていたのか、手に持っていた缶チューハイがベコッと鳴った。
……やっぱり何もつままずに飲むのは味気ないと思った私はおつまみを探しに冷蔵庫へ向かう。
開けてみるとウインナーなど多少食材はあったが、どれも手を加えないと食べれないものだった。
流石の私も何か調理するほどの気力は無かったので、またため息をついて冷蔵庫を閉める。

胡坐を組んで、また1本開ける。


……私の一体どこがダメだったんだろう。
ちゃんと『彼女』として振舞っていたはずなのに。
一緒に学校に行って、デートして、一夜を共にして。
何がダメだったと言うのだろう。

というか、ダメなところがあるのなら言って欲しかった。
別の女に乗り移ったりするんじゃなくて。

そんな事で意思表示をして欲しくなかった。


頬に流れてきた涙を親指で拭い、また缶を開けながら私はそう考える。
「ふぅ……」と息を吐いて、チラッとスマホを見る。


いつもは少しウザいなと思うほどたくさん彼からのメールが来るのに、今日からはもう来ない。
折角、いつもは切っている通知を今日だけはオンにしているのに何も鳴らない。
……つまらないな。

私はポイッとスマホをベットに投げる。


あぁ、どうせ変な所で真面目な私の事だ。
明日は目覚ましでいつも通り起きて、大学へ向かうのだろう。
二日酔いの所為で青白くなっている顔で。
でも、そんな吐きそうになっている顔で彼に会いたくはないな。
……もう、関係は無いはずなのに。


……サボってしまうか。
いや、今まで休んだことすら無かったのにアイツの所為で休んでしまうのも何だか癪だ。
最早、色々考えるのも面倒臭い。

はぁ、このまま何もかもお酒の力でぐちゃぐちゃになってしまえばいいのに。
私もこのまま堕ちて、溺れてぐちゃぐちゃにドロドロになってしまいたい。


……明日の事は明日の自分に任せよう。


ベットにもたれかかりながら、私はゆっくりと目を閉じる。







スマホの画面の時計は丁度0時を示したところだった。












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