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空の覇者
しおりを挟む試行錯誤を繰り返し、試運転までこぎつけたのは数日後だった。
出来上がったものを、まず二人にお披露目だ。
設計デザイン制作"俺"による、"ガルナ式リニア魔力シャトル"
スピード重視の為に、短い列車のように棒状だ。
万能紐で骨組みを作り、布ガラスでボディを覆っている。
全体が浮いているので車輪はない。
揚力を得る為に収納式の翼を付けてあるから、露出範囲とフラップで高度変更と方向転換に対応できるはずだ。尾翼も同じ。
翼を出すとスペースシャトルに近い形だ。
数日かかったとはいえ、それでも早く作れたと思う。
なんせ仮組みがしやすい。材料も無駄にならないし、クラフトゲームのような楽しさだった。
最初は飛行機を作ろうと思ったんだが、魔力の消費が現実的じゃなかったんだ。
その点リニアなら、浮かせるだけの魔力があればいい。
摩擦によるエネルギーの消費も機体の消耗もなく、一度加速しちまえば慣性運動で魔力も少なく済む。
「新幹線!!スーリはこれに乗る!!」
スーリがリニアの周りを飛び跳ねながら、奇声をあげて喜んでいる。
確かに新幹線っぽい面構えになったが、高速移動する乗り物は、だいたい顔がとんがってるもんだ。
お前の為じゃないが、そこまで喜ばれるなら悪い気はしない。
イヴも表情こそないけど、その視線は釘付けだ。
「たくさん材料をありがとう」
「はい」
これの材料である万能紐や布ガラス(とりあえずそう呼ぶ)に至るまで、全部イヴが用意してくれたんだ。
どっちもあの蜘蛛の糸を編んで作ってた。
「二人のお陰でこれを作れたよ」
「はい」
「スーリはなにもしてない」
そんな謙遜するなよ。一番大事なことをしてくれた。
「お前は邪魔しなかった」
俺が制作に掛かりっきりだった間、お前は万能紐の魅力に取りつかれて、およそ俺には想像も出来ない、謎の造形を延々作り出してたもんな。
「二人とも乗ってみて」
搭乗部分は、長期間の移動を想定してかなり大きくとった。
イヴだけは少しか屈まないと駄目だが、俺とスーリは完全に直立できる高さ。
棒状だから奥行きは10メートル近くて余裕がある。
乗り込んだスーリが、早速ごろごろ転がっている。まぁ好きにしろ。
転がる幼女に、ガンガンぶつかられながらも、イヴは平然とあれこれ観察しているようだ。
「じゃあ、試運転してみようと思うんだけど、二人とも準備はいい?」
「はい」
「はやく!はやく!」
俺はコクピットに乗り込んだ。
ここだけドアで仕切って独立させてある。
何故なら高速を想定してるリニアだ。わずかな操作ミスでとんでもないことになりかねない。
運転中にスーリに、じゃれつかれたら大事故だ。
地球のあらゆる乗り物が、操縦席を隔離させてることには、ちゃんと理由がある。
機体に魔力を送ると、音もなく樹上へ上昇し、目的方向に舳先を向ける。
「それではお客様方、ご着席のうえシートベルトをお締めください」
「シートベルトってなんだ?ない!なんだ!」
「わりぃ、付け忘れたわ。どっかに掴まっとけ!」
レバーを引くと一気にGを感じた。
「なーーー!」
後ろから、スーリの妙な悲鳴と転がった音がする。
──加速が思ったより早い!
眼下の森が枝葉の濃淡から緑一色に塗りつぶされる。
正面を向くと、はるか彼方まで続く緑と青のグラデーション。
空気抵抗のせいで、ガタガタと揺れが始まった。
さらに加速する。森の木々が遅れて揺れて、その葉を散らした。
低く飛んでいるせいで周囲の全ての景色が一瞬で後ろに流れていく。
「こっからが本番」
両サイドに翼を引き出す。
一気にコントロールを持っていかれそうになる。
水平儀を取り付けておいて良かった。
空気をはらんだフラップによって、更に上昇したリニアは、もう完全に戦闘機レベルの速さだ。
──そして音の壁を超えた。
地上にはきっとソニックブームが轟いたはずだ。
俺たちはもう音を置き去りにしてるから、それを聞けなかったのは残念だな!
「wooooooo!!hooooooooo!!」
考えてもみろよ。
地球では限られた一部の人間しか、味わったことのないスピードを今、俺の力で出してるんだ!
わずかな操作で思い通りの進路が取れる。
大きくカーブを描くと、大気をかき分ける抵抗をかすかに感じる。
断熱膨張で急冷された、水蒸気の凍結雲が機体にまとわりつく。
強烈なG。
内臓が押しつぶされて呼吸がしにくい。
座席と同化するんじゃないかってくらい、俺の背中は張り付いてる。
決して生身では味わえなかった、空を切る感覚。
はるか遠くに見えた景色が、瞬きする間に後ろに流れる。
この空は、今俺のものだ。
いや、この程度なわけがない。
もっと早く出来るはずだ。
自然に口角が上がる。
感じる振動とGは、この全身に膨れ上がる高揚感を、抑えるどころか増長させてくる。
"最っ高"の気分だ!
もっともっと早く。
大気中なら光の速度を超えることだって、理論的には可能なはず。
俺なら出来る──!
自分の中で沸き立つ熱さを感じる。
これも魔力か?これを送り込んだらもっと…
「アベル」
イヴの声に、はっと我に返る。
「…あ、イヴ」
急速に熱が冷めるのを感じる。
後部に二人がいることすら、忘れかけてた。
「戻りましょう」
振り向く彼女の視線を追うと、後部の壁にスライムが張り付いてた。
「スーリ!?」
俺はゆっくりレバーを戻すと、コクピットから出た。
加速をやめても、ゆっくり下降して森の木々の上に着陸するだけだ。
気付くと機内の温度が、かなり下がってる。
「どうしたスーリ!大丈夫か?」
ぶるぶると震えるスライム状のスーリが俺に触手を伸ばしてくる。
(すごい!)(疲れた)(楽しい!)(大地に行きたい)(アベルはすごい!)(降りたい)(寒い!)
感情がしっちゃかめっちゃかになってるぞ。
でも大したことなさそうでよかった。
触れた手から魔力を吸い取られたらしく、俺の疲労感と引き換えにスーリが幼女姿に戻った。
「寒い!新幹線すごい!強い!これは嵐だ!空の嵐だ!スーリは空は嫌いだ!もっと早く!」
喋れるようになっても、言ってることは支離滅裂だった。
俺はリニアを小屋に向けて旋回させた。
当初目的地にしていた湖は、とっくに通り過ぎてた。
上空には俺たちが描いた飛行機雲が長く尾を引いている。
ほぼ直線に進んだから迷うことはないが、青い空の向こうに見えなくなる、その軌跡を辿って帰ろう。
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