PLAY LIFE -無責任な俺の異世界進化論-

有河弐電

文字の大きさ
上 下
36 / 51

釣りをするぞ!

しおりを挟む
 塩を手に入れた俺は、いそいそと釣りの準備を始めた。

 新鮮な焼き魚は塩だけで絶品だ。口の中に唾がたまる。

 色々やりたいことも知りたいこともあるが、とりあえず後回しだ!

 体が塩分を欲している!


 果樹の近くの川は幅が広いのに、透明度は高かった。

 日本ではあまり見かけない水底に水草が茂っているタイプだ。

 釣果もおそらく違うだろう。

 透明度が高い川が釣れにくいのは経験済みだ。

 気合が入る。


 森に落ちてた手ごろな長さの枝を拾ってくる。

 竿にしようと思ったが、湿気ってるしシナリもないし、強度も不安だ。

 しゃあない。手釣りでいくか。

 どのみち五歳児ボディだと、魚に力負けするかもしれないから、木か岩にでもライン繋げて、中途の部分を板に巻いて調節する感じがいいかもな。


 イヴに頼んだ方が早いのは分かってる。

 それでも俺は、のび太になりたくないので、やれるとこまで自分でやる。



 うん。頼りっぱなしはよくないからな。




「イヴー。丈夫で細くて長い糸ってないかな?」

 ……しょうがないだろ。釣り糸なんて持ってないし。



「あと小さな金属のフックみたいなのとかない?」

 ……釣り針だって持ってない。

 木を削って作る方法はあるが、そもそも削る刃物もない。



 のび太だって映画の時は、めっちゃ頑張るし。

 俺にはまだ映画化のターンが来てないだけだ。



 一応イヴにも説明したけど、食うっていう概念すらないなら、釣りだって知るわけがない。

 でも希望以上に応えてくれた。

 あの滑らかな布を織る糸だと思うが、糸巻に巻かれた絹のような糸を貰う。強度を確認したところ、かなり頑丈だ。

 釣り針は、もっとすごかった。

 イヴが地面から金属を抽出(多分)して、それを形成してくれた。

 地中から水銀のように煌めく小さな雫が、イヴの手に集まる様子は、不思議だった。

 "まるで魔法みたいだ"っていう感想が通じない世界だから、相応しい表現が見つからない。

 金属の精錬には、高出力のエネルギーと排水が必須だ。

 抽出と過熱と形成を一気にこなしてしまう、そのイヴの魔法は、簡単に見えて複雑なのかもしれない。

「すっごいな。魔法でなんでも作れるの?」

「地中にあったものを取り出しただけです。存在しないものを作るのは少し難しいです」

「いや、存在しないものを作り出すのは、俺の基準では不可能って言うよ……」

 多分、この世界で"難しい"と"難しくない"の差は、地球での可能か不可能で分かれてる気がする。

 地中から金属を抽出することは、地球でだって不可能じゃない。

 イヴがやったことは魔法によって、その手順を簡略化しただけだ。

 "難しい魔法"は、地球で言うところの"不可能"。

 魔法の存在で"可能"になるわけだ。

 イヴが作ってくれた釣り針を、まじまじと見る。

 俺の要望通り、糸を通す穴も、かえしまでちゃんと付いてる。

 単一金属ではないと思う。強度が高く少し銅のような色味が入ってる。

「完璧だよ!ありがとうイヴ!」

「はい」

 意気揚々と川へ向かうと、イヴも付いてきた。

 そんな遠くないから一人でも平気と思ったけど、心配されてるのかな。




 じゃあ、いっちょ俺の釣りテクをご披露しちゃいましょうか。


 この世界で、助けられたり頼ってばかりだったから、俺にも出来ることがあるって知ってほしい。


 川岸の石をめくり、河原虫を探す。

 平べったいタイノエみたいなのがいたから、それを釣り針にセット。長持ちしそうな餌だ。

 手頃な石をラインに結んで錘代わりにして、投げ縄の要領で川へ投げ込んだ。

 使い慣れた釣り具じゃないが、この川の魚はスレてないのは確実だ。


 釣ってやるぜ。



 ……



 ………



 ……釣れない。


 どれだけ時間が経っただろうか。

 え?なんで?ガルナって魚が存在しないの?

 餌を変えたり、キャストポイント変えたりもしたが、ぴくりともしない。

 釣りは待ち時間を楽しむスポーツだ。それは分かってる。

 むしろそれを楽しむために、忙しいバス釣りをやらなかったくらいだ。

 でもここまで長時間、まったく反応がないのは辛い。

 少し離れた大きな岩の上に、イヴは座って俺を眺めてる。

 俺が釣り始めてから微動だにしてない。


「おっかしいなぁ。まぁ慣れてない場所だからなぁ」


 ラインをくいくいしながら、俺は独り言のように言う。


「まぁ地球じゃないからなぁ。魚の習性とかも違うのかもなぁ」


 イヴに聞こえるように言ってる。かっこ悪い言い訳を。


「何をしているのですか?」

 分かってなかったんかい。一応さっき説明した気がするけどな。

「釣りだよ、釣り。魚釣るの。この糸の先の針に魚が掛かったら引っ張り上げる」

「それに関して、もっと聞いてもいいですか?」

 妙にかしこまって聞いてくるんだな。と不思議に感じたが、思い出した。

 リマを埋める時、俺の行動にいちいち質問を挟んできた彼女を、怒鳴ってしまったんだった……。


 イヴにとって"釣り"も不可解な行動なんだろう。

 スーリに記憶を読まれた後、俺の行動で分からないことがあれば、ちゃんと聞いて欲しいって言ったことを守ってくれてるんだな。


 いいよ。もちろん答えるよ。

 釣りのテクニックから道具の説明、なんなら川魚のレシピだって教えてあげよう。

「うん。なんでも聞いて」

「魔法を使わない理由はなんですか?」

「………」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

150年後の敵国に転生した大将軍

mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。 ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。 彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。 それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。 『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。 他サイトでも公開しています。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...