PLAY LIFE -無責任な俺の異世界進化論-

有河弐電

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死んだはずの君

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「ねーイヴ。見て。俺かなり上手く使えるようになったよ」

 お茶を淹れてるイヴに、テーブル越しに声を掛ける。

「はい」

「他の属性の魔法も、これくらい使えるようになるかな?」

「属性とはなんですか?」

「ほら、水とか土とかの魔法。えっもしかして、火魔法と修復魔法しかないの?」

 俺の返事を聞いて、イヴは少しだけ首を傾げた。

「あらゆる種類の魔法があります。水も土もイメージすれば使えるのではないではないですか?」

「えええ?」

「どうぞ」

 皿にに乗せた果物を差し出される。今日も盛沢山。

 わがままは言わないつもりだが、実は流石に飽きてきている。

「あっうん。いただきます」

 とはいえ、これしか食べるものはない。

 近くに川があるらしいから、そのうち釣りでも行こうかな。頼りっきりじゃなく自分で食糧調達頑張ってみるか。

 テーブルの上に食事が揃ったので、とりあえず俺たちは食べ始めた。

 イヴはいつも通り、お茶と小さな果物(なんだこれ?キイチゴかなんかか?)数粒だけだ。

 俺にはちょっと酸っぱすぎた。

「この世界には魔法属性ってないの?」

「魔法属性、と振り分けることはないです」

「じゃあ他の魔法使う時は、どうやるの?」

「火と同じです。イメージするだけです」

「‥‥‥うーん」

 また壁にぶち当たったぞ。

「現象である火と、物質の混合物である水や土と同列に扱い、属性で分けるなんて面白いです」

 そんなこと言ったって‥‥‥ファンタジーの王道設定だもん。そういうもんだと思ってたもん。

 でも確かに火や風なんかは物質ですらないもんなぁ。

 なんかこの世界の魔法が、俺が知ってた魔法と違うみたいでちょっと悲しい。

「他にはどんな属性があるんですか?」

 珍しくイヴから食いついてきた。自発的な質問もらったの初めてじゃないか?

「えーと、俺の世界に魔法はなかったって話したよね?だから俺が知ってる魔法っていうのは、全部架空のものなんだ」

 果物を飲み込みながら俺は答えた。

「架空の物語が沢山あって、それぞれ色んな魔法が出てくるんだけど、属性ってのは当たり前のようにどの物語にも存在してて…」

 魔法が存在しない世界出身の俺が、魔法の世界で、魔法の説明してるってなんかおかしくね?

「よくあるのは、火、水、土、風、とかかな。あとそれ以外でも、雷や氷、闇属性とか聖属性とか」

「分かりました」

 えっ分かっちゃったの?俺全然分かんないんだけど。

 ていうか何が分かったの?

「使った魔法によって及ぼされる結果で、区分されている気がします」

「なるほど」

 分かってないが、分かったふりをしてみた。

「土の中には水や金属も含まれます。それらを除外した土というものは存在しません。全て含んでいる状態での"土"を操作することを土属性というのではないですか?」

「土を操るから土属性、そんな単純な話だったのか」

 今度はちゃんと理解した。

 良かった。前世でワクワクして読んだファンタジー小説の設定が、テキトーってわけじゃなく、ちゃんと考えればきちんと答えがあった。

 ‥‥‥ってか、多分俺以外の人は、みんなそう理解してた気もする。

 俺は、ずっと土や水を元素みたいなニュアンスで勘違いしてたよ。

「ただ、私には聖と闇が理解出来ません」

 むしろそれ以外は理解出来ちゃってるのすごいよ?

「ははは。俺も理解出来ないよ。いつか使えるようになったら教えてあげる」

「はい」

「そういえば、俺がイヴと手を重ねてた時、魔法が使えたのはなんで?」

「魔力は、空間に放出するよりも、触れている方が操作しやすいです」

 そういえば、イヴの手でも壊れたポットでも、触れている時は発動した。

 イヴはテーブルに手を、ぺたっとつけた。

「触れると触れた部分が、自分の体温で温まるのを感じませんか?」

 イヴの真似して俺もやってみた。ぺたっと。

 木製のテーブルは、自然な冷たさだったが、手を置いたところがどんどん手を同じ温度になってくるのが分かる。

「熱も魔力もエネルギーです。触れていれば魔力の移動を、イメージしやすいのだと思います」

 確かに。また少し、魔法について分かった気がする。

 血と置き換えてイメージしてたけど、そうか、熱でイメージすればもっと理解出来るかもしれない。

 でも血と違って、熱は少量でも全身から発せられてるものだ。


 なまじ熱でイメージすると、全身から魔力が出てしまう気がする。やっぱりしばらく血のイメージでいこう。

 ちゃんとそこらへんを考えたうえで"血"でイメージすることをまず教えてくれたんなら、イヴすごいな。

「でも森の燃えた木は一人じゃ治せなかった。触ってたのに」

「魔法を使う対象が生命体の場合、多少の拒絶反応があります」

「さっき言ってた保有している魔力による魔法への抵抗力?」

「少し違います。修復魔法に関わらず、全ての魔法に対しての防御のようなものです。それは反射反応に近いので、そう強いものではありません」

 痛みにびくっとなったり、眩しさに瞳孔が閉じる的な、脊髄反射みたいなもんかな?

「アベルはセーブしながら魔力を与えようとしたので、その防御反応に阻まれたのかもしれません」

「あーなるほど分かった。だってまた燃やしちゃったら嫌だから、俺もおっかなびっくりだったんだ」

 一日講義を受けた程度で、魔法を全部理解出来るもんじゃないと思った。

 日本にガルナ人が転生してきたとして、科学の仕組みを一日で教えきれる気もしないから当然だろう。

 しかもガルナは医療にも魔法が食い込んでる。医療のみならずあらゆる分野の基盤が魔法かもしれない。

 そうだとしたら自分が知りたい分野だけピックアップして学ぶ方がいいな。

 俺たちは、その後も喋りながらゆっくり食事を続けた。

 イヴは、俺の前世の架空の魔法設定が面白いらしく、何度か質問してきた。

 既に持ってる俺の"翻訳魔法"ついても、俺たちなりに仕組みを推測しあったりもした。

 なんとなくだけど、イヴと距離が縮まった気がした。





 食事を終えて、イヴがテーブルを片付け始めた。

 俺も皿を運ぶ。

 当たり前だが、居候としてなるべく日常の雑事は手伝うようにしてる。

 まぁ体がガキだから、出来ることも限られてる上、そもそもやること自体多くない。

 こんな森の中の小屋での生活だから、地球なら薪割りや食糧調達で忙しいもんなんだろう。

 でもイヴは火を全く使わないし狩りもしない。

 よく縫物してるが、それは俺が手伝うようなもんじゃない。

 だから掃除と、こうやって食器を片付けるくらいしか手伝うことがないのだ。

 手伝うと言っても、運ぶだけ。渡したらイヴが魔法で綺麗にしてすぐしまわれちゃう。使う食器も少ないから30秒くらいでお手伝い終り。

 そういえば皿なんかは魔法で綺麗にするけど、洗濯や風呂はなんで魔法使わないのかって聞いたら、表面が複雑なものは、かなり緻密な魔法になるって言ってた。


 特に生物になると無機物との境界が曖昧で、難しいらしい。

髪や爪には生気が通ってないから、汚れとの差が見分けにくいし、皮脂なんかも全部取り除いてしまうと、人体にもよくないから、普通は魔法で綺麗にしないそうだ。

 イヴが以前聞いた話によると、汚れを取り除こうとして毛皮を革にしてしまった人や、肌がミイラみたいにカサカサになっちゃった人とかがいるらしい。

 操作に慣れたら可能だし、イヴも魔法で綺麗にする時はあるけど、飽くまでよく分かってる自分の体しか出来ないって。


 毎日風呂に入るのがめんどくさいから、是非風呂いらずな魔法が欲しかったが、難しいなら後回しだ。

 てか毎日入る必要なくね?果物ばかり食べてるせいか、子供の体だからか、体臭がほとんどなくなったんだ。

 加齢臭が気になりだす歳だったから、ちょっと嬉しかったりする。


 それにしても、具体的にイメージしたわけじゃないのに、なんで俺は炎の魔法を使ったんだろう。

 だいたいのヒーローものの主役ってコンセプトカラーは赤が多いし、モチーフも火で似合ってると思うから別にいいけど。
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