PLAY LIFE -無責任な俺の異世界進化論-

有河弐電

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強くてマヌケな地球人

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「世界を構成しているのは、"時間、粒子、意識、力"の四つです」

 確かに基礎からって言ったけど、世界の構成から講義が始まっちゃったよ。

 『車がどう動くのか知りたい』って言ったら、部品のネジの作り方レクチャーが始まった気分だ。

 いや、ネジ大事だけどね?ネジ一個の為に、地球からアンドロメダに旅した少年とかいるしね?

 俺は椅子に座って優等生然として、イヴ先生の授業を聞いている。

 イヴが何も無い空間にちょんちょんと指を弾くと、四色の光る球が現れた。

 その球は、それぞれ付かず離れずゆっくりと輪を描き回り始める。

 3D映像みたいだ。これだけ見ると魔法っていうよりSFだな。

「四つの要素が影響し、私たちが存在している"領域"を形作っています」

 輪を描く四つの球と球の間に、小さな電気のような光がチカチカと線を引いた。

「これが前提です。魔法に関わらず、世界における真理は全てこの4つによって変化します」

 ……既に俺は話にあまりついていけてない。でもイヴは知識を持っている。それを引き出せばいいだけだ。

 すなわちこの授業は、俺の技量が試されているッッ!!

「その四つは、相互関係どうなってんの?力は時間に弱いとか、粒子は意思に強いとか、そういう関係?」

 そういう仕組みなら、よくある魔法属性の関係みたいで分かりやすい。

「いいえ、単純な一方通行の作用はありません」

 そっかー!単純ではないかー!

「魔法学の本の冒頭には、必ずこの言葉が書かれています。
"領域は混沌を織る
意識はその中に法則を求める
時間と力はそれを成す機会を与える"」

なるほど分からん。

「時間と意識があれば、力を生み出し粒子を変化させられます。この場合、粒子は初めから存在するものとします」

 おいおい物理の講義じみてきたぞ…。

 魔法の基礎って、火属性とか水属性とかそういうもんじゃないの?

 魔法ってそんな量子力学みたいな話なの?

「粒子ってなに?」

「アベルの言語で、どう翻訳されているか私には分かりませんが、意思、時間、力に分類されないもの全てを、暫定的にまとめて"粒子"と呼びます」

 また言語の壁か‥‥‥。早急になんとかしたいな。

 でもこれは言語の違いというより、法則自体の差が問題な気がする。

 前世で魔法がなかったように、俺の知る世界に"粒子"とやらが存在してないかもしれない。

「粒子には、沢山種類があります。それは形も作用も様々です。おそらく私たちが認識出来ないものも、多くあると思います。ですから、大まかに世界の全てを形成している小さな粒のようなもの、と思って下さい」

 原子みたいなもんか?でも形も作用も様々ってことは、違うかもな。

「そのうちの一つが、"魔粒子"です」

 待ってました!やっと魔法世界っぽくなってきた!

「魔粒子も、他の粒子と同じくあらゆる場所にあります。呼吸や飲食はもちろん、肌からも微量に吸収されます。そして魔粒子は生物に長く留まる習性があります」

 ふむふむ。

「生物──例えば、私たちのような人の中に留まった魔粒子は、魔力になります」

 なるほど!分かってきた!


 イヴがまた空中に指を弾くと、人間のシルエットのような光が現れた。

 そしてさっきからずっとぐるぐる回ってた光の球の一つが細かく砕け、小さな粒になって散らばった。

 多分魔粒子を表現してるんだろう。

 その小さな粒が、人間シルエットにバラバラと吸い込まれた。

「人体に入った魔粒子は蓄積します。個人によって蓄積できる魔粒子量は異なり、魔法として使用しない限りは、体内に留まり続けます」

 水銀みたいだな。

「勝手に入ってくるのに勝手に出て行かないの?」

 ゆるゆる動き回る魔粒子模型を見ながら俺は質問した。

「はい。人は自己と他の境界を、はっきり認識しているせいです。例えば火に当たって体を温めた時、その熱をそのまま体から取り出せないことと似ています」

「それって、俺が魔法を上手く使えない理由と繋がってる気がする」

「私もそう思いました。アベルは個としての自我がとても強いです。それは魔粒子を多く留めるのに必要な素質ですが、そのせいで体外に魔法として放出することも難しくなっているのだと思います」

「なんとなくわかった。だからパニくった時に暴発したんだね」

「そうだと思います。あの炎の魔法はとても強大でした。アベルの魔力量が多い為です」

「強いって言っても使いこなせないんじゃ意味ないよ」

 イヴは褒めてくれるけど自嘲しか出ない。意識しっかりしてると、ちゃんと魔法が使えないって、すげぇ無意味。

 正気を失って狂暴化するバーサーカーにでもなれってか?

「あれだけの炎の中で、アベルは怪我で済みました。死んでいてもおかしくない威力だったはずです」

 そういえば…言われてみれば確かにそうだ。あんな広範囲を焼き尽くした炎の中で俺が無事だったのはおかしい。

 もうほとんど消えた火傷の跡を無意識にさする。

「体内の魔力量は魔法への抵抗力に比例します」

「じゃあ助かったのは俺の中の魔力のお陰だったのか……。それにしたって自分の魔法で大怪我するとか、マヌケにもほどがあるよね」

「はい」

 ……うん。いつでも正直な君は素晴らしい。

 女神が言っていた"特別な力"っていうのは、大量の魔力のことだったんだろうか。お陰で大怪我しましたけど?

 魔法完全素人に、そんな力を授けられても困る。幼児にマシンガン持たせるようなもんだ。

「ここまでの説明は人の魔法です」

「へ?」

「肉体を持たず周囲の魔粒子を魔粒子のまま利用する者もいます。肉体があっても魔粒子を取り込まず、他の生物から魔力を奪うことで命を維持する者もいます」

肉体を持たないって幽霊?魔力を奪うって吸血鬼ならぬ吸魔力鬼?魔法の世界だから、ありえないなんて言うつもりはないけど、ちょっと理解が追い付かない。

「全部は覚えきれなそうだ。とりあえず今は人間用の魔法知識だけでいいかな…」

そして、俺も一つ気付いたことがあった。
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