18 / 51
マシンガン自分語り
しおりを挟む
「俺!スパイじゃないよ!」
「はい」
とりあえず引き留めようと、また変な発言しちゃったよ。
「この世界に来る時に、女神が勝手にかけた魔法だから……」
「はい」
「‥‥‥」
えっまた会話終わっちゃう?
女神ってほんとにいるの?とか元いた世界はどんなとこ?とか質問ないですか?
「もしかして別世界から来る人って、珍しくない?」
「わかりません」
「えっとじゃあ女神っているの?この世界の信仰の対象だったりする?」
「わかりません」
俺はイヴとの会話のキャッチボールは諦めた。
そのまま小屋を出て行ったイヴを追いかけて、裏の井戸の縁に腰かけた。すぐ横でイヴは洗濯してる。会話下手のコミュ障でも綺麗好きでマメな子だよ。
「俺の元居た世界はさ、ここと全然違うんだ」
キャッチボールしようとするからダメなんだ。イヴはお喋りは下手でも、俺が話せば聞こうとしてくれる。
きっと何か、とっかかりがあれば質問を投げかけてくれるはず。
怒涛のように、俺は話し続けた。イヴが用事を済ませて別の場所に移動する度に、追いかけて側でずっと話してた。
地球のこと、女神のこと、俺のこと。全部だ。
あまりの反応の薄さにヤケになっていた気もする。
イヴは黙ったまま、俺の話を静かに聞いていてくれたが、手はずっと動かし続けていた。窓の外を眺めながら、お茶を淹れながら、たまに俺に視線を向けてくれた。
それがなかったら、流石にガン無視されてると思ってたよ。
ただ、視線をくれた時話していたことは、"ガキの頃近所に住んでた爺さんが飼っていた九官鳥の話"とか"女神が履いてたサンダルが金属っぽくて履き心地悪そうだった"とかだったから、話題自体に興味があったわけじゃなく、イヴなりに「聞いている」ということを表現してくれただけだと思う。
やけっぱちも相まってめちゃくちゃ話し続けたけど、5歳児の体力にはちょっときつかったみたいだ。
喋るって結構体力使う。
縫い物をしているイヴの横に座って、高校時代にやってた部活のことを話しながら、まだ明るい窓の外を眺めていたら、いつの間にか瞼が重くなっていた。
そっとイヴの手が俺の背中に回されて、抱き上げられたことはうっすらと分かったけど、睡魔に負けて意識を手放した。
-------------------------------------------------------------------------
目が覚めた時、まだ陽は昇ってなかった。
早寝しすぎて、起床タイミングがそうとうずれこんだらしい。 簡単に睡魔に負ける5歳の体が憎い。若さは罪だな。
窓の外の暗い森を見ながら、昨日のことを反芻した。
‥‥‥
‥‥‥
ものすごく、どうでもいい話ばかりした気がする。
行きつけの牛丼屋のおっちゃんの、オデコのほくろに生えてる毛の本数のくだりとか、必要な話だったかな?
完全に調子乗ってた。昨夜は正体なくして寝落ちしたけど、今夜辺りに思い出し羞恥で、枕を殴ってしまいそうだ。イヴと顔合わせるのが、ちょっと気恥ずかしい。
でも、それ以上になんかスッキリしてるんだよね。隠し事がなくなったせいかな。
それとも、誰かに自分の話をこんなに聞いてもらうのが、初めてだったせいかな。
‥‥‥厳密には一つのこと以外。
前世の俺、阿部陽一は35歳で死んで転生したけど、そこはぼかしてしまった。明確に言わなかっただけで嘘をついたわけじゃない。
うら若い女性が、おっさんと二人暮らしっていう状況を知ったら、イヴ自身の心境的にも戸惑うかもしれないし、いつかは言うとして今はやめておこう。
精神年齢は成長してない気がするし、少年漫画大好きだったし。心は少年だったし。俺の言動や行動で、おっさんと思われることはない気がする。
翻訳魔法の会話の不自然さは、今後困りそうだから、本当に悩みどころだよ。一番いいのはさ、多分ちゃんとガルナ語を学ぶことだな。
5歳なら脳味噌も柔らかいだろうし、案外なんとかなるんじゃないかなぁ。出来ればなんとかしたい。
だって"布団"ていう固有名詞も、"吹っ飛んだ"っていう動詞も違うってことは、「ふとんがふっとんだ!」が意味をなさない世界だぞ。そんなのつまらない。
ていうかおっさんに片足突っ込んでる俺は、ダジャレの引力に逆らえないんだよ。
それに今のままだとどんな言語の相手も、勝手に翻訳されちゃうから、相手の出身国が分からなかったりしそうだ。
良い事なのかもしれないけど、言語や習慣は国それぞれに色があって面白いと思うタイプだから、全部一色になってしまうのはつまらない。
言語も文化だ。
この世界に、どれだけの国や民族や言語があるのか知らないけど、出来れば全部味わう方向でいきたい。
その件に関しては、そのうち考えよう。
覚悟を決めてイヴに話したけど、リアクション薄かったなぁ。
あの反応がこの世界準拠──なんでもありの魔法世界だから別世界出身があろうが驚かれない──なのか、単純にイヴがすべてに興味がない人間だからなのかすら分からない。
それでも得たものはあった。"隠し事をしている"っていう罪悪感を持たなくて済むようになったことだ。俺的にこれだけでも収穫は充分だ。
次の目標は魔法を試すことかな。
魔力を送り出す感覚は、木の修復である程度掴めた気がする。暴発は怖いけど、あれはパニックによるものだ。落ち着いている今は起こらないはず。
森ではイヴと手を重ねて魔力を注いだけど、なんで俺一人では出来なかったのかも知りたい。
イヴの手柔らかかったな…。俺は5歳児だから全然手がちっちゃいんだけど、イヴの手はほっそりしてて大きく感じなかった。
よし、とりあえず試してみるか。
リビングとして使われてる部屋に行って、イヴがいつもお茶を淹れてくれるポットを手に取った。万が一ってこともあるし、外でやった方がいいだろう。
まだ真っ暗だったので、部屋の明り取りのランタンもそのまま外へ持って行った。
「はい」
とりあえず引き留めようと、また変な発言しちゃったよ。
「この世界に来る時に、女神が勝手にかけた魔法だから……」
「はい」
「‥‥‥」
えっまた会話終わっちゃう?
女神ってほんとにいるの?とか元いた世界はどんなとこ?とか質問ないですか?
「もしかして別世界から来る人って、珍しくない?」
「わかりません」
「えっとじゃあ女神っているの?この世界の信仰の対象だったりする?」
「わかりません」
俺はイヴとの会話のキャッチボールは諦めた。
そのまま小屋を出て行ったイヴを追いかけて、裏の井戸の縁に腰かけた。すぐ横でイヴは洗濯してる。会話下手のコミュ障でも綺麗好きでマメな子だよ。
「俺の元居た世界はさ、ここと全然違うんだ」
キャッチボールしようとするからダメなんだ。イヴはお喋りは下手でも、俺が話せば聞こうとしてくれる。
きっと何か、とっかかりがあれば質問を投げかけてくれるはず。
怒涛のように、俺は話し続けた。イヴが用事を済ませて別の場所に移動する度に、追いかけて側でずっと話してた。
地球のこと、女神のこと、俺のこと。全部だ。
あまりの反応の薄さにヤケになっていた気もする。
イヴは黙ったまま、俺の話を静かに聞いていてくれたが、手はずっと動かし続けていた。窓の外を眺めながら、お茶を淹れながら、たまに俺に視線を向けてくれた。
それがなかったら、流石にガン無視されてると思ってたよ。
ただ、視線をくれた時話していたことは、"ガキの頃近所に住んでた爺さんが飼っていた九官鳥の話"とか"女神が履いてたサンダルが金属っぽくて履き心地悪そうだった"とかだったから、話題自体に興味があったわけじゃなく、イヴなりに「聞いている」ということを表現してくれただけだと思う。
やけっぱちも相まってめちゃくちゃ話し続けたけど、5歳児の体力にはちょっときつかったみたいだ。
喋るって結構体力使う。
縫い物をしているイヴの横に座って、高校時代にやってた部活のことを話しながら、まだ明るい窓の外を眺めていたら、いつの間にか瞼が重くなっていた。
そっとイヴの手が俺の背中に回されて、抱き上げられたことはうっすらと分かったけど、睡魔に負けて意識を手放した。
-------------------------------------------------------------------------
目が覚めた時、まだ陽は昇ってなかった。
早寝しすぎて、起床タイミングがそうとうずれこんだらしい。 簡単に睡魔に負ける5歳の体が憎い。若さは罪だな。
窓の外の暗い森を見ながら、昨日のことを反芻した。
‥‥‥
‥‥‥
ものすごく、どうでもいい話ばかりした気がする。
行きつけの牛丼屋のおっちゃんの、オデコのほくろに生えてる毛の本数のくだりとか、必要な話だったかな?
完全に調子乗ってた。昨夜は正体なくして寝落ちしたけど、今夜辺りに思い出し羞恥で、枕を殴ってしまいそうだ。イヴと顔合わせるのが、ちょっと気恥ずかしい。
でも、それ以上になんかスッキリしてるんだよね。隠し事がなくなったせいかな。
それとも、誰かに自分の話をこんなに聞いてもらうのが、初めてだったせいかな。
‥‥‥厳密には一つのこと以外。
前世の俺、阿部陽一は35歳で死んで転生したけど、そこはぼかしてしまった。明確に言わなかっただけで嘘をついたわけじゃない。
うら若い女性が、おっさんと二人暮らしっていう状況を知ったら、イヴ自身の心境的にも戸惑うかもしれないし、いつかは言うとして今はやめておこう。
精神年齢は成長してない気がするし、少年漫画大好きだったし。心は少年だったし。俺の言動や行動で、おっさんと思われることはない気がする。
翻訳魔法の会話の不自然さは、今後困りそうだから、本当に悩みどころだよ。一番いいのはさ、多分ちゃんとガルナ語を学ぶことだな。
5歳なら脳味噌も柔らかいだろうし、案外なんとかなるんじゃないかなぁ。出来ればなんとかしたい。
だって"布団"ていう固有名詞も、"吹っ飛んだ"っていう動詞も違うってことは、「ふとんがふっとんだ!」が意味をなさない世界だぞ。そんなのつまらない。
ていうかおっさんに片足突っ込んでる俺は、ダジャレの引力に逆らえないんだよ。
それに今のままだとどんな言語の相手も、勝手に翻訳されちゃうから、相手の出身国が分からなかったりしそうだ。
良い事なのかもしれないけど、言語や習慣は国それぞれに色があって面白いと思うタイプだから、全部一色になってしまうのはつまらない。
言語も文化だ。
この世界に、どれだけの国や民族や言語があるのか知らないけど、出来れば全部味わう方向でいきたい。
その件に関しては、そのうち考えよう。
覚悟を決めてイヴに話したけど、リアクション薄かったなぁ。
あの反応がこの世界準拠──なんでもありの魔法世界だから別世界出身があろうが驚かれない──なのか、単純にイヴがすべてに興味がない人間だからなのかすら分からない。
それでも得たものはあった。"隠し事をしている"っていう罪悪感を持たなくて済むようになったことだ。俺的にこれだけでも収穫は充分だ。
次の目標は魔法を試すことかな。
魔力を送り出す感覚は、木の修復である程度掴めた気がする。暴発は怖いけど、あれはパニックによるものだ。落ち着いている今は起こらないはず。
森ではイヴと手を重ねて魔力を注いだけど、なんで俺一人では出来なかったのかも知りたい。
イヴの手柔らかかったな…。俺は5歳児だから全然手がちっちゃいんだけど、イヴの手はほっそりしてて大きく感じなかった。
よし、とりあえず試してみるか。
リビングとして使われてる部屋に行って、イヴがいつもお茶を淹れてくれるポットを手に取った。万が一ってこともあるし、外でやった方がいいだろう。
まだ真っ暗だったので、部屋の明り取りのランタンもそのまま外へ持って行った。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

150年後の敵国に転生した大将軍
mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。
ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。
彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。
それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。
『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。
他サイトでも公開しています。
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-
一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。
ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。
基本ゆったり進行で話が進みます。
四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?!
異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。
#日常系、ほのぼの、ハッピーエンド
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/08/13……完結
2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位
2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位
2024/07/01……連載開始
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる