PLAY LIFE -無責任な俺の異世界進化論-

有河弐電

文字の大きさ
上 下
17 / 51

俺、別世界から来たんだ

しおりを挟む
 誰だって矜持の一つや二つあると思うけど、俺にもある。
 

 信用と借金は同じだと思ってる。


 金を貸す時は、返済を期待せず貸す。
 信用する時は、裏切られてもいいと思って信じる。

 要するに、あげても構わないと思える相手なら金を貸すし、裏切られても許せる相手は信用する。

 「金返せ」って催促したくもないし、「信じてたのに」って相手をなじりたくもないからだ。

 世知辛い考え方だけど、そうやって俺は、金と心を守ってきた。お陰で金のトラブルもないし、誰かに騙されたこともない。

 そんな俺が、イヴのことは信じようと思ったんだ。

 ここに転生してからまともに関わったのが、イヴだけだったから心細くて拠り所を求めただけかも、って自分でも何度も自問自答したさ。

 その結果ちゃんと冷静に考えて出した答えだ。

 正確には彼女を信じた、というより、彼女になら裏切られても構わないと俺は結論を出した。
 
 それくらいの恩は、もうもらってる。
 
 まぁ、イヴが私利私欲の為に、俺を裏切ることが想像出来ないのも、当然理由の一つだ。

 だから俺はイヴを信じる。信じてるから、全てを話そうと思う。


 かすかにと水音がした。イヴが起きて風呂に入ってるらしい。
 
 しばらく後にイヴが出てきた。長くて真っ黒な髪が、まだ濡れたまま横に流してある。

「食事にしますか?」

 顔合わせてすぐに俺の世話しようとするって、もう尽くしすぎじゃない?俺居候だよ?

 この世界の5歳児って、そんなにマメにエサあげないと死んじゃうとかなの?

 完全放置されたと思ったら、次の日にはかいがいしく世話してくれるイヴは、根本的にマイペースなんだよな。

「まだ大丈夫。先に髪乾かしちゃいなよ」

 イヴは椅子に腰かけて、髪を荒い布と櫛で整えはじめた。乾いててもツヤッツヤだけど洗い髪ってやばいな。

 いつも見えないうなじとか見えちゃって色っぽい。

「…コホン。話があるんだけど」

 妄想を振り払うように俺はイヴに声を掛けた。

「はい」

 普段どおり無機質で人形みたいなイヴの顔。

「えーと…」

 どうやって話そうかある程度考えておいたはずなのに、イヴの色気で全部吹っ飛んでた。

 俺の脳みそスペック低すぎない?5歳児だから?

「俺、別の世界からきたんだ」

 もういいや。回りくどく言ってもしょうがないし。

 じっと目を合わせたまま、イヴの反応を待つ。

「だから不思議な喋り方をするんですか?」

「えっ」

 予想以上に斜めな反応だった。

 驚く風もなく、いつも通り平然としてるイヴにこっちがびっくりしたよ。

 こういうことって、この世界でそう珍しくもないのか?

「ふ、不思議な喋り方って?」

 ていうか今更気づいたけど、なんで普通に会話出来てるんだ?日本語通じる世界なの?

「唇の動きと発声が、伴っていません」

 なんですと!?どういうこと!?

 慌ててバスルームに駆け込み鏡を覗き込む。

 使った直後とは思えないほど綺麗に片づけられたそこのほのかな残り香に、俺の鼻腔は敏感に反応したが今はとりあえず確認だ!

 鏡を睨みつけるととりあえず喋ってみた。

「…こんにちは」

 普通に俺の唇は"こんにちは"と動いた。
 
 なんだよ。普通だよ。不思議ってどういう‥‥‥

 そこで気付く。俺が今喋っているのはガルナ語なのか!?

 唇は日本語をつむぐ動きをするが、吐き出される言語はガルナ語になってるなら、そりゃちぐはぐだわ。

 吹き替え映画みたいなもんだ。

 口の動きと声が別。俺の耳には、日本語として聞こえてるから、これは自分自身じゃ絶対気付けなかったことだ。


 え、これをずっとイヴは気付いてたの?
 不思議な喋り方だな~って軽く流してたの!?
 
 大丈夫?君の違和感生きてる?

 でもおかしいな。

 イヴもガルナ語を話しているはずだけど、唇の動きは日本語に見える。そうじゃなきゃ俺だって気付いたはずだ。

 頭が疑問符で埋め尽くされながら、イヴのいる部屋に戻った。

 イヴはいつものようにポットに暖かいお茶を淹れてくれていた。

「……イヴは言語翻訳する魔法って知ってる?」

 魔法でいいんだよな?だって地球にはなかった能力だし。

「いいえ」

 イヴの答えはいつも簡潔で、情報量は多くない。

「え…っと、俺その言語翻訳?の魔法?を女神から?かけられたっぽい?多分?」

 俺も理解出来てないからハテナだらけだ。

「‥‥‥」

「‥‥‥」

 どう説明を続けていいか分からなくて黙ってしまった。

 イヴも黙ってるから沈黙が重い。

「本来のアベルは、ガルナ語を話せないということですか?」

「…うん」

「私の唇は、アベルが理解出来る言語の通りに動いているのですか?」

「うんうん!」

 すぐそこに機知がいくとは、さすがイヴだよ。

 出してくれる情報量少ない癖に、自分は少ない情報量で察しすぎだよ。

「おそらくですが、人間固有ではない魔法だと思います」

「どういうこと?」

「人間の言語を発声できない造形の口を持つ者も多くいます。そのような種族が持つ魔法ではないでしょうか」

 確かにね。

 安直に想像するけど、魚とか虫タイプの種族いるなら、人間の言葉をあの口で喋るのは無理だよね。

 うん!よーくわかった!

 あのクソ女神、俺に動物用の魔法かけやがった!

「相手の唇の動きが、アベルの言語の発声に見えるのは、声が無い時でも、理解する為かもしれません。ジェスチャーの一種として"翻訳"されているのだと思います。対話はいつも音が伴うとは限らないです」

 ふむ。その付加効果は悪くないな。

 上手く使えば声の届かない距離でも、情報を得られる。

 そりゃ便利だ。でもそれってスパイ?とかあんまりよくない行為に使われそうだ。


 え?でもそれはまずくない?

 ただでさえ別世界から来ましたーとか言っちゃったあとに、動物だかスパイだかの魔法持ってるとか、確実に危ない奴だろ。

 おそるおそるイヴを伺うと、目の前に異世界のスパイかもしれない5歳児がいるのに、ゆったりお茶飲んでる。

 感情どころか、違和感も危機感も仕事してないよ、この子。

 それにしても欠陥ひどくない?この魔法。

 イヴみたいに色んな意味で無関心な子じゃなかったら、絶対変に思われてたよね?

 俺の唇も、ちゃんと言語に合わせて動いてくれてたらいいのに。

 いや魔法だろうがなんだろうが、勝手に自分の体動かされるのは、ちょっとキモいな‥‥‥。


 ていうか、イヴ以外のこの世界の他の人間たちと交流したいし、このままはちょっとまずい気がする。

 思い返せば、言葉少ないイヴの言葉にもほんの少し違和感があった。

 例えば"微生物"や"ジェスチャー"なんて言葉だ。

 日本人ではないイヴが、生物学的用語や日本で使われる外来語を使うのは、ちょっとおかしいと思う。


 これは多分、言語翻訳の魔法がイメージを言語に変換するタイプだからだ。

 俺の記憶の中の似ている物や、ニュアンスが近い言葉に自動で置き換わっているんだと思う。

 そういえば、イヴとの最初の会話の時、その言葉の意味を理解するのにちょっとラグがあった気がする。


 イヴがすっと立ち上がった。タオル代わりの布を畳んで裏に行こうとしてるから洗濯でもする気かな。

 っていうかかなり大事な話してたはずなんだけど。

 会話が途切れたら終了、とすぐ思っちゃうのどうかと思うよ!?

 なんかもっとこう好奇心とか興味持って欲しい。俺に。俺との会話に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...