PLAY LIFE -無責任な俺の異世界進化論-

有河弐電

文字の大きさ
上 下
13 / 51

癒しの魔法

しおりを挟む
 あの子で腹を満たした獣は、しばらく新たな餌を求めないんだろう。

 動物は無駄に殺生をしない。

 だとしてもスカベンジャータイプの動物がいる場合は、更に強い捕食動物がいる場合が多いはずだ。

 ここの森はとても怖い場所なのは変わらない。

 きっと俺が知る以上に。

「あれ、どういう意味?炎を抑えろって」

「魔法の暴発を抑えるには、落ち着くのが一番だと思いました」

「いや、ちょ、待って。あの炎って俺のせい?」

「はい」

「俺、どうやったの?」

 自分のことを相手に聞かなきゃいけない現状。

 あまりに無知すぎるよ俺。

「分かりません」

ですよね。

 イヴの黒いワンピースの袖が、少し焦げてるのに気づいた。

 反射的に腕を取ってしまう。白いその手首に火傷があった。

「…これ、俺のせい…」

「はい」

「ごめん!」

「はい」

「俺、なんかぼーっとしててまともに思い出せないんだけど、イヴはあの炎の中に入ってきたよね?」

「はい」

 なんで?あの炎の渦に巻かれて、これだけの傷で済んだの?って聞きたかったけど、女性の肌を傷つけてしまったことを"これだけ"なんて言うのは申し訳ない気がして言えなかった。

「これも、ちゃんと治せる?」

「はい」

「良かった……。でも、俺全然どうやったか思い出せないんだ。また同じことやって、君を傷つけてしまったらどうすれば……」

「大丈夫です」

「いや、大丈夫って…」

「私が側にいます」

「……さっき…いなかった」

「アベルの外套を取りに戻ろうとしてました」

「マントより、こんな子供が森に一人でいる方が重要だと思う」

 そうだ。その点は、イヴが悪い。

「アベルは疲れて眠っていました。結界を張ったのであの場所は安全でした」

 結界。また魔法かよ。

 そんなん言ってくれなきゃ、分かるわけないじゃん。

 いやむしろ知ってたとしても、あんな恐怖の夜を過ごした森に、一人で置いてくなんて……。

「ですが、軽率でした。すみません」

 イヴの素直な謝罪に、俺の中のもやもやが収まっていく。

 俺はこの世界に関してひどく無知だ。

 同じように、イヴだって完璧じゃない。一方的に責めるのはアンフェアだ。

「……うん」

 うん、じゃないだろ俺。軽率だったのは俺だよ。

「俺こそ、ごめん」

「はい」

 イヴが俺の着替えを持ってきてくれる間、新しく出来た皮膚を確認した。

 完璧には治ってない。出血やただれはなくなったけど、痛みも残ってるし跡もある。

「痛みがひどければ、もう一度かけるので言って下さい。」

 傷の具合を確認してた俺に気付いたのか、イヴがそう言った。

「大丈夫。歩けるし」

 安心させるように俺は立ち上がってみせた。

 せっかく治してもらったのに、不満げに見えたなら悪いし。

 イヴが手首の火傷を自分で治してる。自分を後回しにしてくれてたんだな。

「俺もそれ覚えられる?」

 俺は怪我ばっかしてるし、自分で治せるようになった方がいい気がする。

「魔力があるなら誰でも出来ます。ただ、生体でも無機物でも、破壊より修復の方が多く魔力を消費します」

 そういうルールの世界なのか。

 いや、前世でだって壊すのは一瞬ででも、直すのは手間が掛かるもんだった。

 仕事で使う建築模型を飼い猫に破壊された時、全てを投げ出したくなったことを思い出した。


 怪我や病気だってそうだ。治すには時間と手間が掛かる。


 いくら魔法とはいえ、そういう自然のルールは同じなんだなと納得しつつ、魔法のある異世界なら、さくっと完全治癒して欲しかった。

 魔法のあるファンタジー世界に、こんなリアリティ求めてないよ。

「病気も治るの?」

「治せるだけの知識と魔力があれば可能です」

「知識?」

「魔法医学です。魔法薬学もありますが、こちらは魔力が少なくても知識で補えます」

 なんかややこしい。

 っていうか地球と大差ないんじゃ?

「魔法薬は偽物も出回るので、信用はあまり高くないそうです」

「ぱーっと完全治癒できる魔法とかはないの?」

「可能です」

「それはどうやって覚えるの?」

 食いつくように聞いてしまった。

 さっき森を破壊したばかりなのに、ゲンキンだと思われたかな。

 それともイヴの治療じゃ不服だったと思われたか。

 イヴはいつも通り表情のない目で、じっと俺を見ていた。


 な…なんかまずいこと聞いたんだろうか。

 不穏な沈黙に、ちょっと固まってしまう。


「修復魔法は、自分の魔力を相手の体に流して治療するものです。どれだけの魔力を流し込むかによって、回復量は決まります。魔力量がその結果の大小を表す。当然の結果です」

「‥‥‥」

 俺の無知に、あきれてただけか……。

 しょうがないだろ!この世界来たばっかだから常識とか分かんないんだよ!

 そう暴露出来たらどんなに楽か……。


 ……まぁ、つまりイヴの魔力量だと俺の怪我は完治しなかったけど、もっと大きな魔力を流し込めば、完全治癒は可能ってことだ。

「魔法医学を学んでいない場合、傷病者の体内で魔力をどう発動させるかを制御出来ないので、修復が難しいです」

 イヴは魔力があまり多くなくて魔法医学の知識があるわけでもないんだろう。

 どっちも足らず完全な治療が出来なかったってことかな。

 俺の火傷は体内じゃなく体表だったから、修復しやすかったのかもしれない。

「やっぱ魔法って言っても、水晶玉とか持って呪文唱えて何でもできる~ってわけじゃないんだなぁ」

 はっ!またやってしまった。

 "魔法なんか知らないやつ"の発言。

 イヴは何も言わなかったけど、流石に怪しんでる気がする。

「あ、風呂借りていい?」

「はい」

 用意してもらった着替えを持ってそそくさと風呂に行くことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

150年後の敵国に転生した大将軍

mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。 ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。 彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。 それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。 『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。 他サイトでも公開しています。

処理中です...