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樹齢なんぜんねん?
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それから二日ほど、俺は安静にしていた。
怪我と痛みの具合からすると、全治数か月レベルかと思ってたけど、意外と回復は早かった。
子供の体だから痛みに弱くなってたのかもしれない。
骨はどこも折れていなかったみたいだから、それが幸いしたのかも。
細かな切り傷があちこちにあったけど、もう塞がってる。
イヴと色々話したかったけど、俺の飯とか包帯やシーツを変える時以外は、別の部屋で何かしているようで、あまりその機会がなかった。
裁縫が得意なのかな。
俺のパジャマを数着作ってくれたし、ごわごわだったシーツを肌触りのいい柔らかなものに交換してくれた。
その生地が、トイレットペーパー代わりに差し出されたものと同じと気づいて、ちょっと複雑な気持ちになったけど、未使用なら問題ない。
もう問題なく動けるようになって、小屋の外でストレッチしてたらイヴが声を掛けてきた。
「明日、森へ行きますか?」
「うん。もう大丈夫そうだから連れてって」
「はい」
「イヴ、あのさ」
「はい」
会話ワンターンで、小屋に戻ろうとしてたイヴを引き留める為に、呼びかけたけど、話す内容を考えてなかった。
二人で住んでるんだから、単純にコミュニケーション取りたい。
でもいざ話そうとすると、聞きたいことが多すぎる。
「イヴって年いくつ?」
「分かりません」
「え、自分の年が分からないの?」
「はい」
出会った時に確実に年下だと思ってたから、俺ずっとタメ口なんだよね。
冷静に考えると敬語の女性にタメ口する5歳児っておかしくない?
「言葉遣いが生意気でごめんね」
「いいえ」
特に気にしてないらしい。
「ずっと一人で住んでるの?いつから?」
「以前はお婆さんと住んでいました。いつからかは分かりません」
「お婆さんは今…」
聞きかけて、なんとなく答えが分かった。
「死にました」
「そうか。悲しいこと聞いて、ごめん」
「はい」
イヴの会話の法則は、ちょっとややこしい。
謙遜や社交辞令が含まれない。謝罪やお礼の言葉じゃなく、その内容にフォーカスしてるんだと思う。
不愛想に思えてもそこに悪意はない。
"言葉遣いが生意気"とは思わないから"いいえ"。
"お婆さんが死んで悲しい"のは事実だから"はい"。
それが分かれば単純明快なんだけど、上っ面の付き合いに慣れてた現代日本人は慣れるまでちょっとかかりそうだ。
「森の中でお婆さんと二人で住んでたって、なんか童話みたいな話だね」
眠れる森の美女なんて、イヴにぴったりだと思うよ。
「童話は好きです」
「女の子は童話好きだよね。白馬に乗った王子様的な」
「乗らなくていいです」
「ははっまぁメインは王子様だよね」
イヴの頓珍漢な答えに思わず笑ってしまう。
この世界に来て初めて笑ったよ。
心身ともにどん底に落ちてたのに、まだ笑えることにびっくりだ。
まぁイヴは相変わらずノーリアクションだけど。
「ここはいい場所だね」
なんとか会話を続けたくて、何気なく言う。
「はい」
イヴの返事は簡潔だから、キャッチボールにならない。
「なんでここに住んでるの?」
「住む場所は、選ぶものですか?」
聞き返されて、思わず考えてしまった。
日本では住みたいからって好きな場所に住めるわけじゃなかったけど、ある程度の場所は選べた。
ここは事情が違うんだろうか?
森しかないけど、それなら逆にどこにでも住めるんじゃ?
「もし留まる理由がないなら、自由に選んでいいと俺は思うけど」
どういう意味でイヴが聞いてきたのか分からないから、俺も曖昧に答えた。
「はい」
短くそう答えた後、イヴは小屋を見上げた。留まる理由を探してるみたいに。
ずっと住んでたならきっと思い出も多い場所だろう。色々思い出してるのかもしれない。
そのままイヴは小屋に戻っていった。本日も会話継続ならず。
俺も改めてイヴの住む小屋を見る。最初に見た時は驚いた。
住居部分全部、まるっと包み込むだけの老木が、この小屋の屋根だ。
折れたのか上部はない。葉もなく太い枝が2本突き出してるだけだ。
歪で巨大な切り株の、これまたぶっとい根の間にドアや窓がある。
室内の床が継ぎ目の見えない木製で不思議に思ってたんだけど、切り株をくりぬいて作ったスペースだったからだと分かった。
一度くりぬいてから内部の壁や仕切りを組み込んだんだろう。
ところどころ白く風化しているその切り株は、命を失ってもう長いようだ。
死してなお、どっしりと大地に根を張る貫禄。
切り株のお家ってメルヘンなイメージが湧きそうだけど、このデカさと樹皮の荒々しさに、小人や妖精の住処というよりモンスターの寝床だ。
地球には存在しないレベルだろうな。この切り株一つで家が建てられそうだ。
中に住んでいるのが、あんな可憐な女性っていうのがまたギャップある。
周囲の森は鬱蒼としてる。
小屋の切り株ほどではないけど、どれも立派な木だ。
森という言葉のイメージが変わってしまうほど、俺が住んでた日本と違う。
落ち葉を拾って眺めても、少なくとも俺が知ってるどの樹木とも違う形だった。
たまに鳥の声がする程度で、生き物の気配はない。
でもこの森にあの恐ろしい獣がいるともう知ってる。
おいそれとピクニック気分で入っていく気にはなれない。
ここにずっと住んでて、イヴは心細かったのかな。
だから快く俺がここにいることを許してくれたのかもしれない。
怪我と痛みの具合からすると、全治数か月レベルかと思ってたけど、意外と回復は早かった。
子供の体だから痛みに弱くなってたのかもしれない。
骨はどこも折れていなかったみたいだから、それが幸いしたのかも。
細かな切り傷があちこちにあったけど、もう塞がってる。
イヴと色々話したかったけど、俺の飯とか包帯やシーツを変える時以外は、別の部屋で何かしているようで、あまりその機会がなかった。
裁縫が得意なのかな。
俺のパジャマを数着作ってくれたし、ごわごわだったシーツを肌触りのいい柔らかなものに交換してくれた。
その生地が、トイレットペーパー代わりに差し出されたものと同じと気づいて、ちょっと複雑な気持ちになったけど、未使用なら問題ない。
もう問題なく動けるようになって、小屋の外でストレッチしてたらイヴが声を掛けてきた。
「明日、森へ行きますか?」
「うん。もう大丈夫そうだから連れてって」
「はい」
「イヴ、あのさ」
「はい」
会話ワンターンで、小屋に戻ろうとしてたイヴを引き留める為に、呼びかけたけど、話す内容を考えてなかった。
二人で住んでるんだから、単純にコミュニケーション取りたい。
でもいざ話そうとすると、聞きたいことが多すぎる。
「イヴって年いくつ?」
「分かりません」
「え、自分の年が分からないの?」
「はい」
出会った時に確実に年下だと思ってたから、俺ずっとタメ口なんだよね。
冷静に考えると敬語の女性にタメ口する5歳児っておかしくない?
「言葉遣いが生意気でごめんね」
「いいえ」
特に気にしてないらしい。
「ずっと一人で住んでるの?いつから?」
「以前はお婆さんと住んでいました。いつからかは分かりません」
「お婆さんは今…」
聞きかけて、なんとなく答えが分かった。
「死にました」
「そうか。悲しいこと聞いて、ごめん」
「はい」
イヴの会話の法則は、ちょっとややこしい。
謙遜や社交辞令が含まれない。謝罪やお礼の言葉じゃなく、その内容にフォーカスしてるんだと思う。
不愛想に思えてもそこに悪意はない。
"言葉遣いが生意気"とは思わないから"いいえ"。
"お婆さんが死んで悲しい"のは事実だから"はい"。
それが分かれば単純明快なんだけど、上っ面の付き合いに慣れてた現代日本人は慣れるまでちょっとかかりそうだ。
「森の中でお婆さんと二人で住んでたって、なんか童話みたいな話だね」
眠れる森の美女なんて、イヴにぴったりだと思うよ。
「童話は好きです」
「女の子は童話好きだよね。白馬に乗った王子様的な」
「乗らなくていいです」
「ははっまぁメインは王子様だよね」
イヴの頓珍漢な答えに思わず笑ってしまう。
この世界に来て初めて笑ったよ。
心身ともにどん底に落ちてたのに、まだ笑えることにびっくりだ。
まぁイヴは相変わらずノーリアクションだけど。
「ここはいい場所だね」
なんとか会話を続けたくて、何気なく言う。
「はい」
イヴの返事は簡潔だから、キャッチボールにならない。
「なんでここに住んでるの?」
「住む場所は、選ぶものですか?」
聞き返されて、思わず考えてしまった。
日本では住みたいからって好きな場所に住めるわけじゃなかったけど、ある程度の場所は選べた。
ここは事情が違うんだろうか?
森しかないけど、それなら逆にどこにでも住めるんじゃ?
「もし留まる理由がないなら、自由に選んでいいと俺は思うけど」
どういう意味でイヴが聞いてきたのか分からないから、俺も曖昧に答えた。
「はい」
短くそう答えた後、イヴは小屋を見上げた。留まる理由を探してるみたいに。
ずっと住んでたならきっと思い出も多い場所だろう。色々思い出してるのかもしれない。
そのままイヴは小屋に戻っていった。本日も会話継続ならず。
俺も改めてイヴの住む小屋を見る。最初に見た時は驚いた。
住居部分全部、まるっと包み込むだけの老木が、この小屋の屋根だ。
折れたのか上部はない。葉もなく太い枝が2本突き出してるだけだ。
歪で巨大な切り株の、これまたぶっとい根の間にドアや窓がある。
室内の床が継ぎ目の見えない木製で不思議に思ってたんだけど、切り株をくりぬいて作ったスペースだったからだと分かった。
一度くりぬいてから内部の壁や仕切りを組み込んだんだろう。
ところどころ白く風化しているその切り株は、命を失ってもう長いようだ。
死してなお、どっしりと大地に根を張る貫禄。
切り株のお家ってメルヘンなイメージが湧きそうだけど、このデカさと樹皮の荒々しさに、小人や妖精の住処というよりモンスターの寝床だ。
地球には存在しないレベルだろうな。この切り株一つで家が建てられそうだ。
中に住んでいるのが、あんな可憐な女性っていうのがまたギャップある。
周囲の森は鬱蒼としてる。
小屋の切り株ほどではないけど、どれも立派な木だ。
森という言葉のイメージが変わってしまうほど、俺が住んでた日本と違う。
落ち葉を拾って眺めても、少なくとも俺が知ってるどの樹木とも違う形だった。
たまに鳥の声がする程度で、生き物の気配はない。
でもこの森にあの恐ろしい獣がいるともう知ってる。
おいそれとピクニック気分で入っていく気にはなれない。
ここにずっと住んでて、イヴは心細かったのかな。
だから快く俺がここにいることを許してくれたのかもしれない。
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