PLAY LIFE -無責任な俺の異世界進化論-

有河弐電

文字の大きさ
上 下
7 / 51

イヴさんちのトイレ事情

しおりを挟む
 イヴの家にしばらく置いてもらうことになったのは、助かった。

 でも同居によるトラブルってのは起こりがちだ。最初のトラブルはすぐ起きた。


 トイレがない!


 腹いっぱい果物を食べたら、そりゃ食物繊維の猛威だ。

 のっぴきならない状況を伝えるも、イヴはなかなか分かってくれなかった。


 トイレがないってどういうこと?ありえるの?どんな欠陥住宅?

 可及的速やかにトイレを求める俺は、とりあえず痛む体を引きずるように森に入り、そこら辺に落ちてた枝を使って穴を掘り用を足す。


 イヴが付いて来ようとしてたけど、半径50メートル以内に近づかないで欲しいと申し渡した。

 そこらの葉っぱで後処理したけど、かぶれませんように。
 
 裏にあった井戸に案内してもらって手を洗う。

「なんでトイレがないの?」

「必要がないからです」

 さらりと言われた衝撃の事実。

 曰く、魔力の循環?で肉体を維持するのは、当たり前だそうだ。循環ってなに?

「肉体が充分に成長するまでは、それに必要な栄養が必要というのは知っていましたが、余剰分を排出することは忘れていました」

「大人は食事もしないってこと?」

「体内の魔力で事足りるのなら、その必要はありません」

「すごいな魔法って……」

 思わずつぶやいてしまったけど、その言葉は"この世界のアベル"の発言としておかしい。

 明らかに魔法のない世界から来ましたって言っちゃってるようなもんだ。

 イヴに嘘は吐きたくないけど、俺自身自分が置かれてる状況を理解出来てない段階で、転生とやらを暴露する気にならない。

 しばらくそこらへんは黙っていたい。

「でもトイレがないのは、困るなぁ。どうしよう」

「毎日するのですか?」

 イヴは俺のつぶやきに、特に反応することはなく聞いてきた。

「あっ…はい…毎日っていうか、日に複数回…します…」

 泌尿器科に行って自慰回数を聞かれた気分だ。

 また敬語になってしまう。おまるとか出されたらどうしよう。

 だって五歳児だし。



 トイレに関しては、更にイヴとひと悶着あった。

 だってイヴは、動き回る体力がまだないなら、そこらへんでしていいって言うんだよ。

 部屋の中だぞ?子ども扱いっていうより犬猫扱いだよね?

 自分がしないからって、排泄に関して羞恥心や衛生観念が欠けてるらしいけど、君だって子供の頃はやってたんでしょ。

 俺は中身35だからさ。公開排泄とか羞恥プレイは厳しいの分かってほしい。

 切々と説明しても、納得したんだかしてないんだか分からない無表情でイヴが小屋の外に出てって、しばらく後戻ってきた。


 森の近くに小さな小屋が立ってた。

 中には座って用を足せる便器。

 覗き込むと底が見えないほど深い穴だ。どこへ繋がってるんだろう?少なくとも簡易トイレのタンクより容量多そうだし、すぐに溢れることもなさそうだ。

 小さなランタンが壁に掛かってる。

 便器の後ろ側にタンクがあって、その上に手を小さなノズルから水が流れてる。

 水道と違って垂れ流しのようだけど、タンクに一時水を溜めて、使用後にレバーを倒すと流れるようになってる。

 現代のトイレと基本的に同じ仕組みだ。

 小屋自体は細い枝を編んだかのような木製だけど、便器は石製に見える。触れると固く冷たく滑らかだ。



 俺の簡単な説明でここまで完璧──プライバシー、衛生、使い心地──にトイレをすぐ作れるイヴすごい。

 うちの事務所で是非雇いたかったレベルだ。



 トイレットペーパーに関しては、柔らかくて安全だと教えられた葉っぱで耐えることにした。

 イヴに頼んだら、どう見ても使い捨てていいと思えない、綺麗な布を差し出されたからだ。

 お坊ちゃま君でもない限り、そんなシルクみたいな布で尻を拭えないよ。

 何でもかんでもお願いしてやってもらうとのび太になりそうだし、お世話になっている立場上、あまりわがままも言いたくない。

 この大自然に対しての敬意のつもりで、俺は葉っぱをモミモミしてケツを拭くよ。

 幸いここでは葉っぱには困らなそうだし。

「ありがとう。こんな立派なトイレを作ってくれて」

「はい」

 微笑み一つ見せてくれないイヴだけど、親切なことはよく分かった。

 もうここが、元いた場所とは明らかに違う世界だと、実感が湧いている。

 周囲の森の木々、目にした魔法、見るもの全てが、似てはいても地球と違う。

 女神は俺が日本に戻ることは不可能だと言った。

 でもここでは日本で不可能だったはずの魔法がある。

 だったら可能性はあるんじゃないか?

 俺は諦めの悪い男だ。日本に帰れるなら帰りたい。

 なんにせよ今は、全く情報が足りてないな。




-------------------------------------------------------------------------





 ベッドから自力で起きられるようになったから、居間みたいな部屋でイヴと食事をした。

 とはいえ、イヴはお茶飲むだけだから、テーブルの上の果物はほとんど俺の胃に収まった。

 食べるように促したらイヴも少し食べてた。

 食べる必要がないだけで、食べられないわけじゃないらしい。

「この果物どこから持ってきてるの?」

「森です」

「俺の為に取って来てくれてるんだよね。その収穫俺も手伝えるかな?」

「はい」

「あと…出来たら俺を助けてくれた場所に、連れてってくれると嬉しい」


 今更かもしれないけど、あの幼女の亡骸を埋葬してあげたい。

 もし、骨の一つでも残っていればだけど。

 きっとひどく残酷なものを再び見ることになるだろう。

 でもあのまま放置なんて出来ない。

 俺が体を奪ってしまったこの少年は、今はどうしようもないけど、せめてあの子だけでも埋葬だけでもしてあげたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...