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未来の学校に希望はあるか?
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「未来の学校に希望はあるか?」
右京之介
月曜日。朝の八時五十分。
一時間目、体育(マラソン)の先生が飛んできた。
ボクは二階にある自分の部屋でちゃんと体操服に着替えて、机に向かい、待機していた。やってきたのは“スズメ”だった。
「ヤバい。スズメじゃんか!」
ボクは部屋を飛びだし、階段をドタバタと駆け下りた。
キッチンにいた母が右手を挙げた。「はい、がんばってねー」という意味だ。ボクも右手を挙げた。「まったく、冗談じゃねーよ。なんで“スズメ”なわけ? 冬の月曜日の朝は、寒いわ、眠いわ、ダルいわと三拍子そろって最悪なのに、中学生に与える試練にしてはひどすぎない? それとも、ボクに何か個人的な恨みがあるわけ? だったら、聞いてあげようじゃないか!」という長い意味である。
ボクは揃えてあった運動靴に足を突っ込み、外に飛びだした。ドアが閉まる瞬間、スズメはうまくすり抜けて、ボクを追い始めた。
途中、前からクラスメイトの陸がやって来た。
「やばいよ、スズメだよー」あいさつ代わりにボクが言うと、
「ぎゃはは、ボクはアシだよー」と言って、逆方向に走って行った。
――なんで笑う?
左に曲がったところで、隣のクラスの健一郎に会い、同じセリフを言う。
「やばいよ、スズメだよー」
「ぎゃはは、ボクはミツだよ!」と、こいつにも笑いながら言われる。
ボクは公園の中を走り抜け、林を通り過ぎ、川の土手を延々と走る。もし、捕まったら、一日中、保健室で寝る羽目になる。スズメはスイスイと追いかけてくる。やがて、足がもつれだしたとき、自分の家が見えてきた。町内を一周してきたのだ。
ドアを開け、階段を駆け上がり、部屋のベッドに倒れ込んだ。
――ハア、ハア、ハア。
息切れが止まらない。でも、無事にゴールできた。
“スズメ”は雀蜂の略。 “アシ”は足長蜂。 “ミツ“は日本蜜蜂のことだ。
フルネームで言っているヒマはない。刺されたら大変だ。一日中、保健室だ。スズメバチが一番凶暴だから、二人には笑われたというわけだ。
あいつらは人の不幸が大好きだ。ボクも好きだけど。
スズメバチ先生は何事もなかったかのようにボクの後から部屋に入り、タブレットの上を這いまわり、サインをすると、窓からさっさと学校方面に飛び立った。
一時間目、体育(マラソン)の授業が終わった。
二時間目は美術だ。
早めに部屋に来ていた先生は、すでにボクの肩に止まっている。アゲハチョウ先生だ。先生はとてもキレイだ。見かけがキレイだからなのか、美的センスが素晴らしい。特に色使いが抜群だ。
とても魅力的な絵を描き、優雅な仏像を彫り、繊細な陶芸を仕上げる。その実力が認められて、大きな美術館や博物館で何度も個展を開いている。また、蝶をモチーフにした服やアクセサリーもたくさんデザインしていて、若い女性にはたいへん人気がある。テレビや雑誌に引っ張りだこの先生だ。
かわいそうなのは夜間の生徒たちだ。先生が蝶ではなく、蛾だからだ。
見かけが地味だからなのか、美的センスも地味だ。絵を描いても、色は黒色と茶色ばかりで、不気味で暗い作品が多い。版画を彫っても、ほとんどが黒色に刷り上がり、絵手紙を描くと、不幸の手紙か喪中ハガキのようになる。生徒が好き勝手に派手な色を使うと怒られるらしい。仕方がない。だって、蛾だから。
夜になると蝶は寝る。夜通し起きているのは蛾だ。蝶先生の代わりに、夜間は蛾先生が教鞭をとる。夜はコンビニの軒下にぶら下がっている害虫駆除の青いライトに釣られないようにして、各家庭に飛んで行く。あれに当たると、バチバチと音を立てて死んでしまう。
ボクはアゲハチョウ先生の指導のもとで、さっさと二枚の水彩画を仕上げた。原色をふんだんに生かした風景画と人物画だ。ちょっと派手すぎたかなと思ったけど、すごく褒められて合格点をもらった。
アゲハチョウ先生はタブレットにサインをすると、窓から優雅に飛び立った。
三時間目は歴史だ。
先生が時間通りに窓から入って来て、ボクの頭の上に止まった。入るとき、サッシの枠に激突したため、羽根が一枚抜けて部屋の中に舞う。先生は始祖鳥だ。鳥なのに飛ぶのは苦手だ。しかし、歴史にはやたらと詳しい。何といっても、ジュラ紀の生まれだ。ステゴサウルスの頭に乗ったことが自慢だ。
今日の授業は戦国時代だった。長篠の合戦のとき、近くで見物していたら、信長と家康の連合軍に鉄砲で撃ち落とされそうになって、あやうく焼き鳥にされるところだったという臨場感溢れる話を聞いて、眠気も吹き飛んだ。
先生によると、信長はとてもイケメンらしい。肖像画はあるけど、写真が残っていないから、よく分からないのだけど、実際に見たことがある先生が言うのだから、本当のことだろう。ちなみに、ネアンデルタール人はチビでブサイクらしい。当然、肖像画さえもなく、発掘された頭蓋骨の写真しか見たことがないのだけど、実際に会ったことがある先生が言うのだから、間違いないだろう。
始祖鳥先生はタブレットにサインをすると、もう一度、サッシの枠にぶつかって、ふらつきながら学校へ飛んで帰って行った。
三年前、AIが暴走して、文部科学省が植物に乗っ取られた。
学校教育は植物が担当することになった。ボクたちは毎日学校に通った。植物は動けないから、ボクたちの方から出向かなければならなかった。それまでは、ほとんどがリモート授業だったのに、面倒なことだった。
校長先生はメタセコイアだった。「生きている化石」と呼ばれていたが、今ではあちこちで見られる。しかし、化石植物だけにベテラン植物である。誰も逆らえなかった。ボクの担任は二人いた。夏季はヒマワリ先生で、冬季はポインセチア先生だった。ポインセチア先生はメキシコ語が得意だった。原産地がメキシコだったからである。
健一郎の担任は「犬のふぐり」先生だった。「ふぐり」というのはキン○マのことである。担任の先生の名前が放送禁止用語とはクールだった。
しかし、植物時代は長く続かなかった。
またもや、AIが暴走し、鳥類と昆虫類の連合が植物を壊滅させて、文科省を乗っ取ったからである。動けない植物はただ滅びるのを待っていただけであった。今、植物は意志を持つこともなく、ただ咲き誇っているだけである。
鳥類、昆虫類連合の校長先生は玉虫であった。玉虫先生は生徒たちが学校に通うという無駄なことはやめて、すべての授業をテレワークにし、教師を各家庭に派遣するというシステムに変えた。何種類もの蜂を使って生徒を追い立てることにより、マラソンの授業とし、アゲハチョウに美術を教えさせ、始祖鳥に歴史を担当させたのである。
四時間目は音楽の授業だ。
先生のコオロギはすでにボクの部屋に来て、きれいな声で鳴いている。でも、姿は見えない。おそらくベッドの下にでも潜んでいるのだと思う。それはいつものことだ。ボクは先生の姿をあまり見たことがない。その黒褐色の姿を見つけたと思っても、先生はすぐにどこかへ隠れてしまうからだ。そんな、恥ずかしがり屋の先生に気を使って、ボクも深追いはしない。
今日の授業はコオロギ先生によるイントロ当てクイズだ。先生がつぎつぎに歌を歌うが、一曲も分からない。そりゃそうだ。歌う曲は全部オペラだからだ。オペラのイントロ当てが
できる中学生がいるか? イタリア人以外で…。
そんなことにかまわず歌を続ける先生であった。ベッドの下から澄んだ歌声が聞こえる。このままでは落第してしまうではないかと思われたとき、ボクの知ってる歌が出てきた。
“誰も寝てはならぬ”だ。トリノオリンピックの開会式で歌われた曲だ。
コオロギ先生は、ボクが困っているのが分かって、もっともポピュラーな歌を歌ってくれたに違いない。ズバリ正解したボクはホッとしたとともに、先生の優しさに感動した。
先生はタブレットにササッとサインをすると(このときだけは姿を現す)、窓からピョーンと飛んで帰って行った。
四時間目が終わった。
次は待ちに待った給食だ。
カナブン、クワガタ、カブトムシなどの昆虫たちが、ボクの部屋に給食を届けてくれた。
さて、今日の献立は? ――昆虫食!? マジかよ。
最近、流行っているとはいえ、まさか、自分たちの仲間の死骸を寄せ集めたんじゃないだろうね。
ボクは渋々、口にしたが、悔しいことにおいしかった。
残さず食べて、給食完食!
今日は終業式。授業も午前中で終わり、これから成績表をもらったら夏休みだ。
担任のフンコロガシ先生が成績表を持ってやって来た。
「よくがんばったね。成績表はこの中に入ってるから」とフンを置いて帰って行った。
ボクは仕方なく、フンの中から成績表を取り出して広げた。少し臭くて、少し黄ばんでいるが気にしない。でも、給食が終わっててよかった。成績はまあまあだった。
さて、明日から休みだ! と喜んでいたら、タブレットが起動をはじめた。
玉虫校長のあいさつだった。
「みなさん、明日からいよいよ夏休みです。健康に気をつけて…」
突然、玉虫校長が横にすっ飛んでいった。誰もいなくなった画面。
電波障害か? と思ったら…、
「生徒諸君!」ライオンが出てきた。「鳥類、昆虫類の時代は終わった。私が新しく赴任したライオン校長だ。これからはわれわれ動物が文科省を支配する。よって、今後は動物たちが教師となり、キミたち人間を指導する。さっそく午後からの授業だが…」
「…マジ? これから授業があるの? 休みじゃないの?」ボクは画面に文句を言う。
「ここに時間割を映すので従うように」
ライオン校長は、夏休みを返上して勉強をするようにと指示をして、画面から消えた。
動物が学校教育を担当するって、冗談じゃないよなあ。動物で一番強いのがライオンだから校長になったのだろうな。じゃあ、教頭は何だろう。トラか? ワニか? カバかも?
でも、植物から鳥類、昆虫ときて、今度は動物だ。だんだんと人間に近づいてきている。もう少し我慢したら、元の学校に戻るかもしれない。期待して待つとするか。
午後一番の授業は体育(ラグビー)と書いてあった。
さて、どんな先生が来るのか? ごつい奴かな?
窓からの光がさえぎられて、部屋の中が暗くなった。
外にゾウが立っていた。
(了)
右京之介
月曜日。朝の八時五十分。
一時間目、体育(マラソン)の先生が飛んできた。
ボクは二階にある自分の部屋でちゃんと体操服に着替えて、机に向かい、待機していた。やってきたのは“スズメ”だった。
「ヤバい。スズメじゃんか!」
ボクは部屋を飛びだし、階段をドタバタと駆け下りた。
キッチンにいた母が右手を挙げた。「はい、がんばってねー」という意味だ。ボクも右手を挙げた。「まったく、冗談じゃねーよ。なんで“スズメ”なわけ? 冬の月曜日の朝は、寒いわ、眠いわ、ダルいわと三拍子そろって最悪なのに、中学生に与える試練にしてはひどすぎない? それとも、ボクに何か個人的な恨みがあるわけ? だったら、聞いてあげようじゃないか!」という長い意味である。
ボクは揃えてあった運動靴に足を突っ込み、外に飛びだした。ドアが閉まる瞬間、スズメはうまくすり抜けて、ボクを追い始めた。
途中、前からクラスメイトの陸がやって来た。
「やばいよ、スズメだよー」あいさつ代わりにボクが言うと、
「ぎゃはは、ボクはアシだよー」と言って、逆方向に走って行った。
――なんで笑う?
左に曲がったところで、隣のクラスの健一郎に会い、同じセリフを言う。
「やばいよ、スズメだよー」
「ぎゃはは、ボクはミツだよ!」と、こいつにも笑いながら言われる。
ボクは公園の中を走り抜け、林を通り過ぎ、川の土手を延々と走る。もし、捕まったら、一日中、保健室で寝る羽目になる。スズメはスイスイと追いかけてくる。やがて、足がもつれだしたとき、自分の家が見えてきた。町内を一周してきたのだ。
ドアを開け、階段を駆け上がり、部屋のベッドに倒れ込んだ。
――ハア、ハア、ハア。
息切れが止まらない。でも、無事にゴールできた。
“スズメ”は雀蜂の略。 “アシ”は足長蜂。 “ミツ“は日本蜜蜂のことだ。
フルネームで言っているヒマはない。刺されたら大変だ。一日中、保健室だ。スズメバチが一番凶暴だから、二人には笑われたというわけだ。
あいつらは人の不幸が大好きだ。ボクも好きだけど。
スズメバチ先生は何事もなかったかのようにボクの後から部屋に入り、タブレットの上を這いまわり、サインをすると、窓からさっさと学校方面に飛び立った。
一時間目、体育(マラソン)の授業が終わった。
二時間目は美術だ。
早めに部屋に来ていた先生は、すでにボクの肩に止まっている。アゲハチョウ先生だ。先生はとてもキレイだ。見かけがキレイだからなのか、美的センスが素晴らしい。特に色使いが抜群だ。
とても魅力的な絵を描き、優雅な仏像を彫り、繊細な陶芸を仕上げる。その実力が認められて、大きな美術館や博物館で何度も個展を開いている。また、蝶をモチーフにした服やアクセサリーもたくさんデザインしていて、若い女性にはたいへん人気がある。テレビや雑誌に引っ張りだこの先生だ。
かわいそうなのは夜間の生徒たちだ。先生が蝶ではなく、蛾だからだ。
見かけが地味だからなのか、美的センスも地味だ。絵を描いても、色は黒色と茶色ばかりで、不気味で暗い作品が多い。版画を彫っても、ほとんどが黒色に刷り上がり、絵手紙を描くと、不幸の手紙か喪中ハガキのようになる。生徒が好き勝手に派手な色を使うと怒られるらしい。仕方がない。だって、蛾だから。
夜になると蝶は寝る。夜通し起きているのは蛾だ。蝶先生の代わりに、夜間は蛾先生が教鞭をとる。夜はコンビニの軒下にぶら下がっている害虫駆除の青いライトに釣られないようにして、各家庭に飛んで行く。あれに当たると、バチバチと音を立てて死んでしまう。
ボクはアゲハチョウ先生の指導のもとで、さっさと二枚の水彩画を仕上げた。原色をふんだんに生かした風景画と人物画だ。ちょっと派手すぎたかなと思ったけど、すごく褒められて合格点をもらった。
アゲハチョウ先生はタブレットにサインをすると、窓から優雅に飛び立った。
三時間目は歴史だ。
先生が時間通りに窓から入って来て、ボクの頭の上に止まった。入るとき、サッシの枠に激突したため、羽根が一枚抜けて部屋の中に舞う。先生は始祖鳥だ。鳥なのに飛ぶのは苦手だ。しかし、歴史にはやたらと詳しい。何といっても、ジュラ紀の生まれだ。ステゴサウルスの頭に乗ったことが自慢だ。
今日の授業は戦国時代だった。長篠の合戦のとき、近くで見物していたら、信長と家康の連合軍に鉄砲で撃ち落とされそうになって、あやうく焼き鳥にされるところだったという臨場感溢れる話を聞いて、眠気も吹き飛んだ。
先生によると、信長はとてもイケメンらしい。肖像画はあるけど、写真が残っていないから、よく分からないのだけど、実際に見たことがある先生が言うのだから、本当のことだろう。ちなみに、ネアンデルタール人はチビでブサイクらしい。当然、肖像画さえもなく、発掘された頭蓋骨の写真しか見たことがないのだけど、実際に会ったことがある先生が言うのだから、間違いないだろう。
始祖鳥先生はタブレットにサインをすると、もう一度、サッシの枠にぶつかって、ふらつきながら学校へ飛んで帰って行った。
三年前、AIが暴走して、文部科学省が植物に乗っ取られた。
学校教育は植物が担当することになった。ボクたちは毎日学校に通った。植物は動けないから、ボクたちの方から出向かなければならなかった。それまでは、ほとんどがリモート授業だったのに、面倒なことだった。
校長先生はメタセコイアだった。「生きている化石」と呼ばれていたが、今ではあちこちで見られる。しかし、化石植物だけにベテラン植物である。誰も逆らえなかった。ボクの担任は二人いた。夏季はヒマワリ先生で、冬季はポインセチア先生だった。ポインセチア先生はメキシコ語が得意だった。原産地がメキシコだったからである。
健一郎の担任は「犬のふぐり」先生だった。「ふぐり」というのはキン○マのことである。担任の先生の名前が放送禁止用語とはクールだった。
しかし、植物時代は長く続かなかった。
またもや、AIが暴走し、鳥類と昆虫類の連合が植物を壊滅させて、文科省を乗っ取ったからである。動けない植物はただ滅びるのを待っていただけであった。今、植物は意志を持つこともなく、ただ咲き誇っているだけである。
鳥類、昆虫類連合の校長先生は玉虫であった。玉虫先生は生徒たちが学校に通うという無駄なことはやめて、すべての授業をテレワークにし、教師を各家庭に派遣するというシステムに変えた。何種類もの蜂を使って生徒を追い立てることにより、マラソンの授業とし、アゲハチョウに美術を教えさせ、始祖鳥に歴史を担当させたのである。
四時間目は音楽の授業だ。
先生のコオロギはすでにボクの部屋に来て、きれいな声で鳴いている。でも、姿は見えない。おそらくベッドの下にでも潜んでいるのだと思う。それはいつものことだ。ボクは先生の姿をあまり見たことがない。その黒褐色の姿を見つけたと思っても、先生はすぐにどこかへ隠れてしまうからだ。そんな、恥ずかしがり屋の先生に気を使って、ボクも深追いはしない。
今日の授業はコオロギ先生によるイントロ当てクイズだ。先生がつぎつぎに歌を歌うが、一曲も分からない。そりゃそうだ。歌う曲は全部オペラだからだ。オペラのイントロ当てが
できる中学生がいるか? イタリア人以外で…。
そんなことにかまわず歌を続ける先生であった。ベッドの下から澄んだ歌声が聞こえる。このままでは落第してしまうではないかと思われたとき、ボクの知ってる歌が出てきた。
“誰も寝てはならぬ”だ。トリノオリンピックの開会式で歌われた曲だ。
コオロギ先生は、ボクが困っているのが分かって、もっともポピュラーな歌を歌ってくれたに違いない。ズバリ正解したボクはホッとしたとともに、先生の優しさに感動した。
先生はタブレットにササッとサインをすると(このときだけは姿を現す)、窓からピョーンと飛んで帰って行った。
四時間目が終わった。
次は待ちに待った給食だ。
カナブン、クワガタ、カブトムシなどの昆虫たちが、ボクの部屋に給食を届けてくれた。
さて、今日の献立は? ――昆虫食!? マジかよ。
最近、流行っているとはいえ、まさか、自分たちの仲間の死骸を寄せ集めたんじゃないだろうね。
ボクは渋々、口にしたが、悔しいことにおいしかった。
残さず食べて、給食完食!
今日は終業式。授業も午前中で終わり、これから成績表をもらったら夏休みだ。
担任のフンコロガシ先生が成績表を持ってやって来た。
「よくがんばったね。成績表はこの中に入ってるから」とフンを置いて帰って行った。
ボクは仕方なく、フンの中から成績表を取り出して広げた。少し臭くて、少し黄ばんでいるが気にしない。でも、給食が終わっててよかった。成績はまあまあだった。
さて、明日から休みだ! と喜んでいたら、タブレットが起動をはじめた。
玉虫校長のあいさつだった。
「みなさん、明日からいよいよ夏休みです。健康に気をつけて…」
突然、玉虫校長が横にすっ飛んでいった。誰もいなくなった画面。
電波障害か? と思ったら…、
「生徒諸君!」ライオンが出てきた。「鳥類、昆虫類の時代は終わった。私が新しく赴任したライオン校長だ。これからはわれわれ動物が文科省を支配する。よって、今後は動物たちが教師となり、キミたち人間を指導する。さっそく午後からの授業だが…」
「…マジ? これから授業があるの? 休みじゃないの?」ボクは画面に文句を言う。
「ここに時間割を映すので従うように」
ライオン校長は、夏休みを返上して勉強をするようにと指示をして、画面から消えた。
動物が学校教育を担当するって、冗談じゃないよなあ。動物で一番強いのがライオンだから校長になったのだろうな。じゃあ、教頭は何だろう。トラか? ワニか? カバかも?
でも、植物から鳥類、昆虫ときて、今度は動物だ。だんだんと人間に近づいてきている。もう少し我慢したら、元の学校に戻るかもしれない。期待して待つとするか。
午後一番の授業は体育(ラグビー)と書いてあった。
さて、どんな先生が来るのか? ごつい奴かな?
窓からの光がさえぎられて、部屋の中が暗くなった。
外にゾウが立っていた。
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