パンドラ

猫の手

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四章

【駒-4】

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 様々なことを考えたりしながら二日が経った。依然シンドラーからは連絡が来なく、修一はみんなにパイストス社の計画に関わる全てのことを話すタイミングを掴めずにいた。

 いつ話すかは自分で決めれば問題ないのだが、内容が内容なだけに後押しが欲しかった。しかし『パンドラ』の発売までの時間は二週間ちょっとしかない。修一はトロトロしている余裕は無い、そう思っている。

 バイト中の今、修一はレジ打ちをしながら、もう片方のレジで客の相手をしている福井を横目で見て決めた。

(まずは福井さんの連絡先を教えて貰おう)

 それから数人の客の商品の精算を終わらせ、お互いに手が空いたタイミングを見計らって修一は福井に声を掛けた。

「あの、福井さん」

「ん、なんだい?」

「仕事中にいきなりで悪いんですけど、ケータイの連絡先を教えてくれないですか」

「ああ、別に構わないよ。でも、いきなりどうしたんだい?」

「実は近い内に僕の友達を含めて福井さんと何処かに遊びに行こうかなと」

 修一は思い付いたことをペラペラと言った。

「そうか。修一君の友達って言ったら、あのガタイの良い人もそうだっけ?」

「はい。村野って言うんですけど、良い奴ですよ」

「ま、なんでもいいや。それじゃ、連絡先を交換するか」

 そう言って福井はズボンのポケットからケータイを取り出した。

 二人はスグにお互いの連絡先を交換した。それから客がレジに来たので二人は仕事に戻った。



 その日の夜、修一は布団に仰向けになり、いつものように天井を見上げていた。

 自分がこれからどのように行動しなければいけないのかと考えている。だが、やるべきことは決まっていた。まずはみんなに全てを話すことだと。それからのことはまたあとで考えたらいい、修一はそう考えていた。しかし、余裕がないのは事実。だから修一は決意した。

(明日にでも、みんなを集めて全てを話そう)

 修一はスマホを開き、メールを作成する。

 そして、村野とオカマ達、福井にメールを全送信した。

(あとは返事を待つだけだな)

 それから数分間メールの返信を待ったが返って来なかったので、読みかけの『プルターク英雄伝』を本棚から取り出し、本を開いた。

 本を読みながら待ったがメールの返信は来ない。

(遅いな……。みんな忙しいのかな?)

 修一はさらに本を読みながら待った。

 メールを送信してから三十分経過した。遂に痺れを切らした修一はケータイを手に取り開いた。そしたらメールが四件来ていた。

 受信時刻は約三十分前、修一がみんなにメールを送信したスグあとに返信が来ていたことになる。不思議に思いスマホを操作していたら原因はわかった。
(マナーモードにしてたの忘れてた……)

 修一は一人苦笑いをしながら、みんなからのメールを見た。

 四人それぞれの返事はオッケーだった。

 修一が四人に送ったメールの内容はこうだった。

〔みんなに全送信。急な話しなんだけど、もし、みんなの都合が良かったら、明日の夕方に図書館に来て欲しいんだ。みんなには大事な話があるからさ。もちろん、無理には言わないよ。出来たらで良いよ〕

 全員オッケーで修一は喜んだ。

(これで明日みんなに話せば)

 修一はそれ以上の言葉を出さなかった。大変なのはその先にある。

 みんなに全てを話したところでなにも解決はしない現実を悟り修一は言葉をつぐんだ。

(とりあえず、やれることはやろう)

 修一はパイストス社の計画を阻止するための一歩目を踏み出した。



 次の日、バイトを終えた修一は仕事終わりの疲れた体で図書館に向かった。

 修一が何故、図書館を話す場所に選んだかというと、静かで落ち着いた場所というのが理由だった。

 そのうえ、嘘のような話をしていても、小説の話でもしているのだろうと周りの人間には思わせられる。なんにしても都合は良かった。

 図書館に着いた修一は館内の奥にある長テーブルの席を選び、みんなが来るのを待った。

 その時、何処からか修一の名前を呼ぶ声がする。

 声のした方向に顔を向けると、そこにはバイト先の店長が立っていた。

「店長じゃないですか。こんな場所でなにしてるんですか?」

 少しの驚きを見せながら修一は言った。

「本を借りに来たんだ。色々と調べものがあるからな。ちょうど私も今来たばかりでね。君が図書館に入っていくのが見えたよ」

「そうでしたか。でも、仕事はいいんですか? もしかして僕と同じ時間で今日は終わりなんですか?」

「いや、実はまだ仕事中なんだが、抜け出して来たんだ」

「店は大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。バイトの子達に頑張ってもらっている。本当は店長として失格かもしれないが、どうしても来たくてね」

「はあ……そうですか」

「ああ。白井君もなにか本を借りに来たのかな?」

「いえ、ここで人と待ち合わせを」

「そうか。それでは私はこれで……」

 そう言って、店長は館内のどこかへ行ってしまった。

 それから十五分くらいして、こちらに向かってくる三人が修一の目に映った。

「よお、修一」

 村野が言った。

「こんばんは、修一さん」

「こんばんはぁ、修一ちゃん」

 オカマ達は続けて言った。

 村野は椅子を引きドカッと座った。オカマ達も村野に続き椅子に座る。

「それで一体なんだよ? 大事な話って」

 村野が修一に訊いた。

「何処から話せば……」

 修一は順序良く説明したかった。ただでさえ信じられない話だから、三人が良く理解出来るように修一は頭の中で順序を組み立てる。

「それにしても修一さんが言う大事な話って一体なにかしら?」

 蒼太が興味津々という感じに言う。

「修一ちゃんがみんなで集まってまで話したいことなんだから、かなり大事な内容なんじゃないかしらぁ?」

 紅太は獲物でも見るような目で修一を見た。

「修一のことだから本当に大事な話だろ」

 村野はオカマ達にそう言ってから修一に顔を向けた。

「それじゃ、その話をしてくれよ」

「うん、わかった」

 修一は話す順序を組み立て終えた。

「あ、そうだ」

 修一は言い忘れていたことを思い出した。

「実はもう一人来る人がいるんだ。バイト先の先輩なんだけどさ」

「バイト先の先輩? ああ、あのジャガイモみたいな顔をした福井って人か? あの人も来るのか」

「うん。でもバイト中に遅れるって言ってたから、来るまではもう少し時間が掛かるかな」

「そうなのか。だったら俺達だけで先に話してようぜ。あの人が来たら修一が話してやりゃいいだろ」

「そうだね。それじゃ、みんな……」

 そう言ってから修一の表情が変わった。

 三人は今までに見たことの無い、真面目な修一の表情を見て、これから修一が話す内容が本当に大事な内容なんだと感じた。

「どうしたの修一さん……なにかいつになく真面目な顔をして」

「本当ねぇ……でもカッコいいかもぉ」

 オカマ達は修一を見詰め言った。

「みんな、大事な話だからシッカリ聞いて」

 修一は三人を見て言う。それを聞いて三人は頷いた。

 そして、修一は話し始めた。

 まずは自分に起きている変化のこと。アドレスのこと。『パンドラ』のプログラムの力のことを話した。

 そこまで話し終えてから、修一は三人を見た。

 三人の表情からは修一が想定していた通りの反応が見えた。

(やっぱりな……そりゃそうだよ……)
 
 修一は頭の中で呟いた。

「修一、話が理解出来ねぇんだが」

 村野がクエスチョン顔で言った。

「修一さん、イマイチわからないわ」

「わけわかんないわぁ」

 オカマ達もクエスチョン顔だった。

「前に言った通り、耳を疑うでしょ?」

 修一は村野を見て言った。

「ああ、そうだな……」

「信じられないような話しでしょ?」

「ああ、そうだな……」

 そして、修一はオカマ達を見たが、オカマ達も村野と全く同じ気持ちなのが見て取れた。

「嘘だと思ってくれても大丈夫だから、このあとも続けて話を聞いて欲しい」

 修一が気持ちを込めて三人に言った。

「まず、変化のことはみんなも僕の変わりようを見て少しはわかって貰えるんじゃないかな?」

 三人は修一を見た。

「お前は廃墟ビル跡の時に言ってたよな、昔の自分に戻ったって。アレって変化の作用があるプログラムの力を持ったアドレスを失ったからってことだったのか?」

 村野は混乱しそうな頭を働かせ、修一の話を理解しようと、考えを巡らしながら言った。

「うん、その通りだよ。でもまた同じ力を持ったアドレスを手に入れて僕は復活したけどね」

「お前が前に言ってた変われる出来事ってのは、そのアドレスを手に入れたことだったのか」

「うん」

 修一はコクりと頷いた。

「プログラムをアドレスに変換とか、すげぇな!」

「そうだね」

「それにしても脳内麻薬か……」

 そう言った村野は先程までより信じ難いといった表情をしていた。それは、オカマ達も同じだった。

 三人も修一と同様に今まで脳内麻薬のことなど知らなかったためにプログラムの力を理解するのに苦しんでいた。

「正直言っちゃうとさっきの修一さんの説明だけじゃ、イマイチわからないわ」

「脳内麻薬は約二十種類あることはわかったわぁ。でもぉ、それ以上のことが全然わからないわぁ」

 オカマ達はちんぷんかんぷんだった。

「要はプログラムの力が働いた通信機器の電波は人間の脳みそに脳内麻薬の分泌をどうこうする作用を与えるってことだろ?」

「簡単には言えばその通りだよ村野」

 村野は人一倍理解力がある方だった。

「なるほどね」

「村野ちゃんたら頭良いんだからぁ」

「でもよ、俺達に変化の力は働いてるのか? その話だと電波で俺達にも影響を与えんじゃないのか?」

「影響はあると思うよ村野」

「そんな感じはしねぇなあ」

「本当よね」

「なにも違和感はないわぁ」

 三人はそう言いながら、不思議な表情をする。

「みんなは僕みたいに直接影響を受けてるわけじゃないから、変化ってほどの影響はないんだよ」

「へぇ、そうなのか」

「それに僕と違ってみんなは心が強いんだと思う。だから自覚出来るほどの影響は出ないのかな」

「なるほどな。なら、人によっては自覚出来るだけの影響を受ける奴もいんだな?」

「たぶんね。だけど周りにいる他人に訊いて確認でもしないと確証はないよ」

「へぇ。それにしても、とんでもねぇな。プログラムの力ってのはよ。人間の心を変えちまうんだからな」

「そうね。修一さんが昔の修一さんに戻って、また元気な修一さんに戻ってとか、変わりようもね」

「その違いが物凄く大きかったわぁ。どおりで別人のように思えるハズよぉ」

 三人は修一の話を完全には信じ理解したわけではないが、徐々に話は飲み込めてきたみたいだと修一は実感した。

「ここで少し話が変わるけど、三人に話しておかないといけない話があるんだ」

「なんの話だよ?」

 村野が言った。

 そして、修一は一呼吸ついてから彩とのことを話し始めた。

 廃墟ビルでの出会いや、その時の出来事。そしてアドレスの変化の力で彩が救われたことなどを詳しく説明した。

「そんなことがあったのかよ? てか、如月彩って確か……」

 村野が驚きながら言った。

「如月彩ってあの放火事件を起こした犯人じゃない」

「新聞やニュースで見たわぁ」

 オカマ達も驚きは同じだった。

「みんな、彩のことを悪く言わないでね。彩は刑務所で一生懸命に自分の罪を償っているんだから」

 修一は感情を込めて言った。

「ああ、わかってるぜ修一」

「そうね。反省してるんだものね」

「悪くは言わないわぁ。それに放火事件のことはもう終わった話だしねぇ」

「ありがとう、みんな!」

「大事なのは罪を償っていくことだからな。それに俺は過去の過ちってことでなら人のことをどうこう言える人間じゃねぇしよ」

「村野……ありがとう」

「それで? どうしてそのことを俺達に話したんだよ?」

「実はこの前の廃墟ビル跡の出来事は元々は僕と彩とのメールでのやり取りが原因なんだ……」

 修一はシンドラーとの電話での会話を話した。

「その時の電波を奴等に探知機でキャッチされたってことか」

「うん。それが原因で僕はマークされてて、都合の良いタイミングでパイストス社の社員は外部に洩れたプログラムを消しに来たんだ。だから、みんなが被害にあったのは僕の責任なんだよ……」

「まぁ、運が悪かったんだ。気にすんな」

「そうよ。終わったことじゃない」

「そうよぉ。考えたって意味ないわぁ」

 三人の言葉を聞いて修一は心から自分の友達は良い人間だと感じた。本当に神様がいるのなら、三人と巡り会わせてくれたことを感謝したかった。

「わかった」

 修一は気持ちを込めて一言それだけ言った。

「ん? そういや、さっき言ってたシンドラーってなんなんだ?」

 村野が訊いた。

「そうだ、まだ話してなかったね」

「ああ。それにパイストス社? なんだそれ?」

「そのこともシッカリと話すよ」

 それから修一は三人にシンドラーとの電話での会話の内容とパイストス社の社員達のことを話した。
「あの野郎!」

 話を聞き終わったあとに村野は叫んだ。

「村野、ここは図書館だから静かにしないと」

 修一は人差し指を立てて言った。

「ああ……悪りぃ悪りぃ。ついあの荒木とかって野郎のことを思い出しちまってよ」

 そう言ってから村野は感情を落ち着かせるために深呼吸をした。

「私達もあの人嫌いよ。最低な男だったわ」

「本当よぉ。村野ちゃんの気持ちわかるわぁ」

 オカマ達も村野に続いて深呼吸をした。

「まぁ、あん時の三人はそのパイストスって会社の社員だったってことか」

 気持ちが落ち着いてから村野が言った。

「うん」

 修一はコクりと頷いた。

「それにしても、お前にアドレスを送ったシンドラーって奴はすげぇよな」

 村野は腕を組んで語気を強くして言った。

「本当よね。天才ハッカーとかとんでもないわね」

「そのパイストス社にハッキングして、プログラムを盗み出すなんてねぇ」

「それにプログラムを改変したりとか凄すぎるわ」

「そうよねぇ。あと、アドレスに変換したりとかねぇ」

 オカマ達はシンドラーのことで盛り上がっていた。

「でも、何処の誰かはわからないんたけどね。性別もだよ」

 修一が言った。

「男か女かもわからないのか。それにしても変声期を使ったり怪しいな、そのシンドラーって奴」

 そう言って村野は怪訝な表情を浮かべた。

「確かにね。でも僕の知ってる人みたい」

「まぁ、だからこそ正体を隠してんだろうぜ。ハッカーなんて犯罪者だからバレたら色々とヤバイんじゃねぇか?」

「多分ね」

 修一がそう言った時に後ろから声がした。振り返るとそこには福井が立っていた。

「遅れてすまない修一君」

「全然大丈夫ですよ」

「三人は修一君の友達?」

「はい。あ、紹介しますよ」

 修一が促し、それから福井は村野とオカマ達と自己紹介を済ませた。ただ、蒼太と紅太に対する福井の反応は自分が初めて村野に二人を紹介された時と全く同じ反応で、修一はそれを見て笑いそうになってしまった。

「そういえば、そちらの村野さんはうちの店の常連で何度もお互いに顔を合わせてますね」

「言われてみりゃそうっすね。でも、敬語なんか使わなくていいっすよ。福井さんは俺より先輩なんすから」

「ハハハ、わかったよ。店の常連さんだから遂ね」

 福井は愛想良く言葉を返した。

「よろしくね、福井さん」

「仲良くしてねぇ」

 オカマ達は獲物を見るような目で福井を見ながら言った。

「ああ……よ、よろしく……」

 そう言った福井の顔はひきつっていた。

「それじゃ、福井さんにも大事な話を聞いてもらいます。みんなには途中まで聞いて貰ったんですけど、そこまで福井さんに一気に話します」

 修一が福井を見て言った。

「早速だね。みんなが集まって迄なんだから、かなり大事な話なんだろうね」

「はい。物凄く大事な話しです。ハッキリ言って耳を疑うと思いますし、信じられないと思います」

「まずは聞いてみないと」

「そうですね」

 修一は今まで村野達に話した内容を全て話した。

 村野達は修一と福井の会話を黙って聞いていた。

 修一の予想では村野達以上に福井はこの話を信じられないだろうと思っていたが、その予想とは裏腹に福井は顔色すら変えずに修一の話を聞いていた。

 それから数分後に話し終わり、福井から修一に対して色々と質問があったが、それは村野達が言っていたことと同じだった。

 修一は上手い具合に説明し、福井は村野達と同じように完全に話を信じたわけではないが、ある程度は理解したようだ。

「なるほど。修一君の変わりようはそういうことだったのか……」

「はい」

「それにしても、アドレス、変化、プログラム、シンドラーっていうハッカー、パイストス社か。凄い話だな……」

「僕自身もそうだと思います。しかし、全て真実ですよ」

「でも、シンドラーってハッカーは聞いたことがある。ネットの世界では有名だからね」

「そういえば、シンドラーさんが電話で自分は有名だとか言ってたような……」

「かなりのハッカーだよ。それにパイストス社って会社も聞いたことがある。近々セキュリティソフトを発売する話も聞いたことがあるな」

「色々と知ってるんですね、福井さん」

「ああ。僕はパソコンが好きだし、よくインターネットをしてるからね。コンピューター関係の情報はある程度は知ってるよ」

「オンラインゲームにハマってるんでしたっけ?」

「ああ。お陰で毎日寝不足さ」

 そう言って福井はまぶたを擦る。

「それより、修一君の言っていることを疑うわけじゃないけど、それらの話を裏付ける根拠はあるのかい?」

「正直、みんなが完璧に納得出来るほど説明出来る知識は無いから根拠を求められると辛いです」

「そうか……」

「はい。余りにも専門的な知識が必要な内容ですから」

 村野達も福井と同様に話の内容の根拠を欲していた。それは、修一の話を完全に信じたいからだ。

 友達が大事な話しがあると言って、わざわざこの場所に自分達を集めた以上、修一が決してウソ話をしているわけじゃないと思っているからだ。しかし、だからこそ、完全に信じ、理解するために話の内容の根拠が欲しかった。

 それから全員は話の内容を整理するために黙り込み考えた。

「あ、そういえばココって図書館なんだった」

 修一が言った。

「ああ、それがどうかしたのか?」

 村野が言った。

「僕がみんなに話した内容を完全に理解するためにはそれ相応の知識がないとダメだよね」

「まぁ、そりゃそうだけどよ」

「ちょっとみんな待ってて」

 そう言って修一は席を立ち、その場を離れた。

「修一の奴トイレか?」

 それからスグに図書館職員の司書である望野光希を連れて修一は戻ってきた。

「望野さん。ちょっと協力して欲しいですけど」

 修一が頼み込むように言った。

「え? いきなりどうしたんですか?」

「脳内麻薬に関する本や、ハッキングに関する本をある程度集めて欲しいんですよ」

「脳内麻薬? あれ、以前も読んでましたよね?」

「また読みたいんですよ。ここにいる僕達五人で勉強しようかなって思って」

「なるほど。でもハッキングって、白井さんはハッカーにでもなりたいんですか?」

「違いますよ。色々な知識を得たいなって思いまして」

「わかりました。それではスグに集めますのでお待ち下さい」

 そう言ってから望野はそれぞれの専門書のある本棚に向かった。

「なるほどな」

 村野がニヤリとして言った。

「俺達が自分自身で理解出来るように本を読めってことか」

「うん。さっきも言ったけど、僕自身もこの分野の知識は全然だから、みんながそれぞれ自分で本を読んでその知識を得れば僕の話を信じ理解してくれるんじゃないかなって思ってさ」

 それから数分後に望野は数冊の本を抱え戻ってきた。

「これくらいでよろしいですか?」

「はい。ありがとうございます望野さん」

「それでは、みなさん勉強会を頑張って下さい」

 望野はそう言って、その場を立ち去った。

 そして、修一達の勉強会は始まった。

 勉強会が続き三十分後。オカマ達が口を開いた。

「難しいわ……」

「本当よぉ……」

 オカマ達は本の内容が難しく専門的過ぎて理解に苦しんでいた。

 それは修一も村野も同じだった。しかし福井だけはページをめくるごとに知識を吸収していっているようだった。

 勉強会はさらに続き、一時間ほど経過してから五人はそれぞれが読んでいた本を読み終えた。

「なんとなくだけど、ある程度は理解出来たぜ」

 本を閉じ、村野が言った。

「私もなんとなくだけど、ある程度わ」

「私もよぉ。修一ちゃんが話してた部分だけだけどぉ」

 オカマ達も本を閉じて言った。

「僕はそれなりに理解出来た」

 福井が得意気に言った。

「本当ですか、福井さん」

 修一が言った。

「ああ、特にハッキングのことに対する知識は元々ある程度はあったからね」

「そうなんですか?」

「ほら、僕ってかなりパソコンとかに詳しいからさ」

「そういえばそんなことを前に店長が言ってましたね」

「だから理解するのは簡単さ」

「脳内麻薬のことは?」

「それは、まあまあかな」

 脳内麻薬に関しても理解出来ているようだった。
「まぁ、ある程度はわかったから良いんじゃねぇか?」

 村野がみんなに向けて言った。

「そうね。学者になるわけじゃないんだしね」

「とりあえずわぁ修一ちゃんの話を裏付ける根拠は得られたわぁ」

 オカマ達は村野の意見に賛同した。

「でも、知識により得られた根拠もある程度だ」

 福井が言った。

「確かにそうだけど、ある程度わかって貰えたら大丈夫」

 修一はそう言ってから、みんなの読んでいた本を集めてテーブルの端に積み上げた。

「修一。まだ、さっきまでの話で全て終わりじゃねぇんだろ?」

「うん。実はこの先の話の内容が一番重要なんだ。みんなに本を読んで知識を得て貰ったのは今までの話を信じてもらうためでもあったけど、一番の理由はこれから話す内容を本当に信じて欲しいからなんだ」

「そうか。それじゃ、話してくれよ」

「うん。お願いだから、みんな本当にシッカリ聞いて」

 それを聞いて四人は頷いた。

 修一は話し始めた。最も大事なことを。

 セキュリティソフト『パンドラ』のこと。その『パンドラ』を使い世の中を破滅させようと企んでいるパイストス社の計画のこと。
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