パンドラ

猫の手

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一章

【変化-1】

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 二〇一二年の秋の季節。西風が辺りを微かに吹き抜ける。

 十一月に入り、秋も終わりに近いこの時期の体に当たる風はそよ風だろうとも寒さに弱い修一には堪える。

 ここは「天里県福原市富永町あまさとけんふくはらしとみながまち」だ。都会的とは言えないが、かといって田舎とも言えない地域。

 この町には隣町の「幸草町さちぐさまち」まで続く「七瀬川ななせがわ」がある。

 川と言えば大抵は市と市に繋がるくらいの距離で続くのがほとんどだが、この川は町と町に続く距離しかなく至って短い。

 その七瀬川の川沿いの小道を歩く一人の青年がいた。

 彼の名前は「白井修一しらいしゅういち」といい、年齢は二十一歳。どこにでもいそうな青年でごく普通の顔立ちだ。体も中肉中背で至って普通。しかし顔の表情は前向きな気持ちで満ちており、希望を他人に与える魅力がある。

 今日、修一は午前中にバイトが終わり、暇であったため時間を気にする必要もないので七瀬川沿いを一人、上機嫌に音楽を聴きながら歩いていた。

 イヤホンから漏れる音はいかに大音量で音の世界に入り込んでいるかをあらわしていた。

 その時、修一を音の世界から引き戻す、大音量の音楽にも負けない大声が辺りに響いた。

「オイ! 相変わらず暇そうだな!」

 修一は耳からイヤホンを取り振り返った。

 そこには二ヶ月ほど前に仲良くなり、修一にとって唯一の友達と呼べる男が顔をニヤニヤしながら立っていた。

 彼の名前は「村野琢磨むらのたくま」といい、修一と同じ二十一歳。顔は強面で背は高く、いかにもデカイ声が出そうな姿をしている。

 肩幅は広く、腕は服の上からでもわかるくらいに筋肉がある。太い脚は大抵の奴なら一撃で蹴り倒せそうだ。

「なっ、なんだよ村野。いきなりデカイ声で」

 あまりに唐突のことだったので言葉に詰まった。

「用事もなくて暇だったからブラブラ歩いてたんだけどよ、修一がいたんでなにしてんだろうってな。まぁ修一のことだ、いつも通り暇人らしく散歩だろ?」

「いつも暇なわけじゃないよ! 今日はバイトも終わったし、たまたま暇なんだ。まぁ確かに忙しい毎日でもないから否定は出来ないけど……」

「それで暇潰しに音楽聴きながら散歩してたのかよ?」

「そうだよ」

「若者がなにを年寄りみたいな一日を……」

 修一はその一言になにも言い返す気になれなかった。確かに村野の言う通りで二十一歳の若者が過ごす一日としてはつまらない。しかし、今の修一にはそんな一日でも気分は満足だ。

 あの日の朝から修一は変わった。

「村野こそなにをしてたの?」

「暇だから散歩だぜ!」

「いや……はは……」

「修一、暇ならこれから俺と幸草町にある「キャンベル」って釣具屋の向かいにある廃墟ビル跡に行かねぇか? 最近取り壊されて空き地になっただろ」

「あの場所に……」

「ああ! 暇なんだから断らせないぜ!」

 修一は下を向き黙り込んだ。

「どうした? 固まっちまって」

「ん? いや、なんでも。ただちょっとね……」

 修一はあの日のことを思い出していた。

 それは一ヶ月ほど前の夕暮れ時の出来事。
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