十花

ぬくぬくココナッツ

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四章

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「全く、これだから叩き上げの将軍は扱い難くて困る」

 注がれた酒がちゃぷんと音を立てて、杯の中に恰幅の良い男を映し出す。

「あなたってば酔ってらっしゃるの?豪将軍は叩き上げではないでしょう。由緒正しい豪家の子息なんですから」
 左丞相である戏万は隣に座る妻の戏雯を見て、ふん、と鼻を鳴らした。

「あれは庶子か──少なくとも、直系ではない息子だ」
「わざわざ外から連れてきたということ?直系のが……確か文臣に一人いた気がするけれど」

 戏万はゆらゆらと杯を揺らし、眼差しだけで人を射殺すことができるであろう、凶暴な目つきを思い出す。
 正に、将軍となるべくして生まれた人間だ。将軍になっていなければ、殺人鬼にでもなっていただろう。

「そうだ。だが直系の方は軟弱で、あんなのでは到底将軍にはなれん」
「そうでしたか?まあ細かいことは置いておいて、あなたが手懐ければ良いじゃないですか」
 いとも容易く言う戏雯に、戏万の口が不愉快そうに曲がった。

「豪与华の伝説は知っているだろう」
 彼女は、それが何か? と言いたげな調子で軽快に答える。
「ええ。出征先で死んだと思われていたけれど、死体の山の中から剣を持ち、全身に血を浴びて出てきたって」

「そうだ。しかもそれが初出征で、その時の豪与华は十四だった」

 ──そんな鉄でできていると言わんばかりの暴れ馬を、飼える訳がない。否、馬などではない。あれは夜叉だ。

「親の脛を齧っているような、ぼんくら将軍共とは訳が違う」

 彼は杯を傾け、一息で酒を飲み干す。
 がちゃんっと杯を卓に叩きつけ、喉から声を絞り出した。

「あれを手懐けるには、主人として弱みを握らねばならん」


・・・


 静かな足音に気付き、豪府の前を掃除をしていた老齢の家僕が顔を上げる。
 すると、懐かしい顔に驚きの声を上げた。

「久しいな」

 その男は*七尺八寸にもなる背丈に、非常に端正な顔が乗っている。
 凛々しい眉に、末広二重の丹凤の眼。長い下睫毛が、涙袋に影を落としていた。
 鍛えられた体にも関わらず、彼が纏っているのは確かな品格だ。

「颜睿様……!いえ、颜将軍、お久しぶりでございます。本日は……」

「うん。豪将軍は居るか?」


・・・


 ギギッと卓が軋み、男の甘い嬌声が部屋に篭る。

 武臣らしく鍛え抜かれた体が白磁の足の間を陣取り、逞しい腰をぶつけていた。

「ぁ、ぁあ…っん…ぅ」
「はっぁ、与华様……」

 ぐちゅっと濡れた音が書斎に響き、思い切り貫かれた豪与华の髪が乱れ波紋を描く。
 普段 氷柱つららのように冷たく美しい彼は、今や腰を捩り眦を赤く染めて、自身を抱く雄にいいようにされていた。

 浚龙はその姿に、幾度となく翻弄されてしまう。
 ──彼に、自分に対する何かしらの感情を求めるつもりはなかった。ただ、彼のことを好きでいさせてくれるだけで、こうして感情の発散に使ってもらえるだけで、十分だからだ。


 浚龙は豪与华に戦場で拾われた時から、絶対的な忠誠を誓っている。
 故に、全ての感情を彼に捧げていた。


「ぁっぅ、ん…っあ!」
「…ッは、ぁ、っ」

 豪与华の細腰が弓のように反り上がり、白い内ももが震える。
 長大な雄を咥え込んだ肉壁がキツく締まり、浚龙は低く呻いた。
 突っ張った白磁の足が、彼の背中を蹴り上げる。

 豪与华は組み敷かれたまま腰を前後に揺らし、前から白濁を吹き溢した。
 粘液が浚龙の腹部にもかかり、腹の凹凸を伝う。

 眦を染め歓楽に震える豪与华の姿は、淫らで美しかった。
 伏せられた瞼が開く時、翡翠の瞳は宝玉のように光り人を惹きつける。
 その目が浚龙を見つめるだけで、彼は幸せだった。

「与华様、一度、っぐ、抜きますね」

 赤く充血した縁が、ひくひくと収縮する。

 熱く狭い肉壁にねっとりと肉棒をしゃぶられ、浚龙は腰から力が抜けてしまいそうだった。
 豪与华の中を汚すわけにいかないと、ゆっくり腰を引く。
 しかし腰に足を巻かれ、動きを止められた。

「……っん、ぁッ中に、出せ」
「しかし──」
「いい」

「あっ、く、与华様!」
 わざと中をキツく絞められた浚龙は顔を赤くし、豪与华に抗議する。
 組み敷かれている彼はふっと笑い、淫らに挑発した。

 浚龙には、端から選択肢などない。

 ずぷぷっと太い肉棒で媚肉を割開き、後孔を強く穿った。
「ッは!ぁ、っあぁん」

 豪与华は与えられた官能に、身も世もなく喘ぐ。
 ──この時間だけは、思考が快楽に支配されることができる。宮廷内のことも、前世のことも、忘れることができた。

 血管を浮かせた肉棒が中を擦り上げる度、肌が粟立つ。粘膜の深く、最奥の弁に凶器を嵌め込まれ、腰が一人でに前後した。
「──ッ!」

 艶やかな濡羽色が振り乱され、卓上に積まれていた木簡がばらばらと落ちる。
 堪らず浚龙の広い背に縋りついた白い指が、十本もの赤い線を引いた。

 中で熱い液体が弾ける。
 どぷっと注ぎ込まれた白濁が縁から溢れ出し、黒檀の卓を汚す。


 はぁ、はぁ、と二人分の荒い息が書斎に響いた。
 ゆっくりと起き上がらせられた豪与华は、優しく汗を拭われる。

「与华様、桶の準備をしてきます」
「……ああ」

 乱雑に衣を身につけた浚龙は、腰帯を巻きながら書斎の扉に手をかける。
 一度振り向いた彼は、豪与华が書斎の最奥に位置する仮眠用の部屋に行ったのを見送った。
 万が一にも主人の肌が晒されないことを確認して、やっと扉を開ける。


 すると予想もしていなかった人物と鉢合わせ、幾度か瞬きをした。

「颜将軍?」









* 七尺八寸……約191cm
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