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一章 重生
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地面に赤が飛び散る。
鮮やかに染まった唇から、絶えず血が溢れ出した。
結われていた艶やかな長髪が流れ落ち、蠱惑的な瞳から段々と光が失われていく。
彼の胸の中心には、毒矢が貫通していた。
豪与华は薄れる視界の中、驚きに目を見開き、自身の名を呼ぶ颜睿を見た。
どうやら庇った甲斐があったらしい。彼は無傷のようだ。
だがもう二度と、会えないのだろう。
──どうしようもなく好きだった。
こうして、自分の命を引き換えにする程に。しかし、そのことを伝えることはできなかった。
互いに男であり、将軍であり、そして宮中の権力争いに巻き込まれ過ぎた。
もう全てが遅い。
全てが……
豪与华の腕から力が抜け、黒い愛馬から滑り落ちる。
宙に投げ出された彼は瞼を閉じ、崖下へ落ちていった。
・・・
「──っ!」
ばっと目を見開いた豪与华は、勢い良く飛び起きる。
はぁ、はぁ、と荒い息を吐き、中衣の胸元を握り締めた。
確かに刺さった筈の矢がない。
それどころか、痛みも、傷痕もない。
豪与华は乱れた髪もそのままに、裸足のまま牀から降りようとした。ところが、突然ぐっと手首を掴まれ、つんのめる。
背後を振り向くと、裸の男が同じ牀に居た。
「将軍……?もう起床されるのですか」
「……浚龙?お前、生きていたのか?」
豪与华は死んだ筈の己の副将軍を見つめ、呆然としてしまう。
私が死んだあの日、彼も殉死した筈だ。なのに何故……
豪与华は、浚龙の端正な顔を凝視した。彼はまるで忠犬のように豪与华だけを見つめ、甘い笑みを浮かべる。そして照れたようにはにかみ、豪与华の長髪を一房掬い上げた。
ちゅ、と軽い音が響く。
「将軍、勝手に俺を殺さないでください。今日は朝政に出られるんですよね?身支度をお手伝いします」
その言葉に、豪与华は目を見開く。
浚龙と寝た翌日、全く同じ台詞を聞いたことがある。
丁度五年前だ。胸に矢が刺さった筈の日から五年前──記憶力は良いのだ。私が間違う訳がない。
「……ああ」
豪与华は呆然としながら、なんとか事態を飲み込んだ。
どうやら、あの日から五年前に戻ったらしい。全く、良いのやら悪いのやら。
豪与华は腰帯を抜き、肩から中衣を滑らせ、纏っていた物を全て床に落とす。
一糸纏わぬ姿になった彼に、浚龙は喉を鳴らした。
豪与华はその名に恥じない、強く美しい男だった。
癖一つない、鴉のような漆黒の長髪は艶やかで、切れ長の二重は倦怠感を帯びた色気がある。右目にある泣き黒子が、更に輪をかけていた。
長い睫毛が瞬く度に、豪与华の影のある印象が強まる。
しかし、彼は剣神と呼ばれる程の実力を持つ、国で一二を争う将軍だった。
体は細身ではあるがしっかりと鍛えられており、無駄な肉はなく引き締まっている。上背もあり、手足は長くすらりとしていた。ただ、彼の腰は非常に細い。男の手で掴んだら折れてしまいそうな危うさがあった。
「……なんだ?早くしろ」
「はい!」
豪与华は微動だにしない浚龙を見遣り、命令するとされるがままになる。
服を着せられ、髪を結われ、飯を食わされ、あっという間に朝政の時刻になった。
彼は浚龙を連れ将軍府を出ると、馬に乗り朝政に向かう。
彼は生きていた愛馬を撫で、物思いに耽った。
──そんなにも無念だったというのだろうか。
例え重生したとしても、颜睿が私を好きになることなどないのに。
鮮やかに染まった唇から、絶えず血が溢れ出した。
結われていた艶やかな長髪が流れ落ち、蠱惑的な瞳から段々と光が失われていく。
彼の胸の中心には、毒矢が貫通していた。
豪与华は薄れる視界の中、驚きに目を見開き、自身の名を呼ぶ颜睿を見た。
どうやら庇った甲斐があったらしい。彼は無傷のようだ。
だがもう二度と、会えないのだろう。
──どうしようもなく好きだった。
こうして、自分の命を引き換えにする程に。しかし、そのことを伝えることはできなかった。
互いに男であり、将軍であり、そして宮中の権力争いに巻き込まれ過ぎた。
もう全てが遅い。
全てが……
豪与华の腕から力が抜け、黒い愛馬から滑り落ちる。
宙に投げ出された彼は瞼を閉じ、崖下へ落ちていった。
・・・
「──っ!」
ばっと目を見開いた豪与华は、勢い良く飛び起きる。
はぁ、はぁ、と荒い息を吐き、中衣の胸元を握り締めた。
確かに刺さった筈の矢がない。
それどころか、痛みも、傷痕もない。
豪与华は乱れた髪もそのままに、裸足のまま牀から降りようとした。ところが、突然ぐっと手首を掴まれ、つんのめる。
背後を振り向くと、裸の男が同じ牀に居た。
「将軍……?もう起床されるのですか」
「……浚龙?お前、生きていたのか?」
豪与华は死んだ筈の己の副将軍を見つめ、呆然としてしまう。
私が死んだあの日、彼も殉死した筈だ。なのに何故……
豪与华は、浚龙の端正な顔を凝視した。彼はまるで忠犬のように豪与华だけを見つめ、甘い笑みを浮かべる。そして照れたようにはにかみ、豪与华の長髪を一房掬い上げた。
ちゅ、と軽い音が響く。
「将軍、勝手に俺を殺さないでください。今日は朝政に出られるんですよね?身支度をお手伝いします」
その言葉に、豪与华は目を見開く。
浚龙と寝た翌日、全く同じ台詞を聞いたことがある。
丁度五年前だ。胸に矢が刺さった筈の日から五年前──記憶力は良いのだ。私が間違う訳がない。
「……ああ」
豪与华は呆然としながら、なんとか事態を飲み込んだ。
どうやら、あの日から五年前に戻ったらしい。全く、良いのやら悪いのやら。
豪与华は腰帯を抜き、肩から中衣を滑らせ、纏っていた物を全て床に落とす。
一糸纏わぬ姿になった彼に、浚龙は喉を鳴らした。
豪与华はその名に恥じない、強く美しい男だった。
癖一つない、鴉のような漆黒の長髪は艶やかで、切れ長の二重は倦怠感を帯びた色気がある。右目にある泣き黒子が、更に輪をかけていた。
長い睫毛が瞬く度に、豪与华の影のある印象が強まる。
しかし、彼は剣神と呼ばれる程の実力を持つ、国で一二を争う将軍だった。
体は細身ではあるがしっかりと鍛えられており、無駄な肉はなく引き締まっている。上背もあり、手足は長くすらりとしていた。ただ、彼の腰は非常に細い。男の手で掴んだら折れてしまいそうな危うさがあった。
「……なんだ?早くしろ」
「はい!」
豪与华は微動だにしない浚龙を見遣り、命令するとされるがままになる。
服を着せられ、髪を結われ、飯を食わされ、あっという間に朝政の時刻になった。
彼は浚龙を連れ将軍府を出ると、馬に乗り朝政に向かう。
彼は生きていた愛馬を撫で、物思いに耽った。
──そんなにも無念だったというのだろうか。
例え重生したとしても、颜睿が私を好きになることなどないのに。
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