死にたがりな魔王と研究職勇者

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勇者は魔王を倒しに行くものでしょう?②

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勇者以外のメンバーは息が切れ、動きが鈍くなっていた。

魔王も同様であり、服は自身の血で汚れ、結界で防ぐも、防ぎ切れないことが多くなってきていた。
勇者は始めの様子と変わらず涼しげである。

一時魔王は勇者一行と距離を取り、その場で結界を張った。

勇者一行も一度態勢を整え、勇者の周囲に固まった。

『おい、シオン何でわざわざ剣撃じゃなく大振りの魔法を使えなんて言ってきたんだよ。お陰で魔力が底をつきそうだぜ。』

不機嫌な顔で銀髪の短髪をかきあげ、汗をぬぐいながらテレパシーで語りかけてきたのは一行のなかでもガタイのいいラズナーだ。

『まあまあ、ラズナー、シオンには考えがあるのですよ。』

そう間に入ったのは紫の長い髪を首の後ろで縛った魔術師トリスであった。

『トリス、マリクスとエリナと協力して俺とラズナーが魔王に斬り込んでいる間に魔王の後方の空間に幻覚結界解除魔法をかけてみてくれないか?』

『『解除魔法?』』

マリクスとエリナ、性別の違いはあるがピンクの髪に同じ顔の双子の魔導師は同時に困惑の表情を浮かべた。

『そういうことですか。何か違和感を覚えてたんですよね。この冷気と魔王の今までの戦い方に・・・それでわざと後方にも攻撃が当たるような大振りの攻撃をね。後ろに何があるんですかね~』

トリスは意地悪く笑うと困惑する双子に向かってまあ、やってみたら分かりますよと軽い口調で話し、解除魔法の種類を伝えた。

『まあ、なんだかわからんが、魔王に斬撃をお見舞いすればいいんだろ。』

『ああ。頼む』

二人は剣を構え、警戒する魔王へと斬りかかっていった。
魔王は剣を構え、迎え撃つ。
雷撃を伴うラズナーの剣に結界を張ろうとしたが、後方の魔術師たちが解除魔法を放ったのを感じ、剣撃は避けて自身の結界を捨てて後方に結界を張り直した。
しかし、早急に紡いだ結界はもろく、綻びが出てしまう。

それに気を取られた一瞬をつき、勇者の火炎を纏った剣が魔王の脇腹を貫いた。

「ガッ・・・ハ・・」

腹が焼ける匂いと迫り上がる血が息を詰まらせる。魔王は勇者に魔力をぶつけ、後方に退却する。
振り向いた時にはすでに解除魔法が終わっていた。

「なんだ、これ」

ラズナーが呆然と魔王の後方を見上げていた。

そこには

数十人もの魔族が氷漬けの状態で鎮座していた。

「どういうことです?」

トリスは困惑した表情で一人呟いた。

「ど、どういうこと?」

「全員魔族じゃん・・・」

双子も混乱した様子で後方を見つめていた。


「・・・・・。」

勇者は部屋一面に広がる氷の壁を見つめ、一人何か考えている様子で魔王に視線を戻した。

魔王は勇者の一撃で立ち上がることが出来ない様子であった。

「こんなにたくさんの魔族が一気に出てきたら勝ち目ないよ!今がチャンスだよ!」

双子の妹エリナがハッとした表情で勇者に叫んだ。
しかし、今までにない魔力の発動を魔王から感じると、一気に青ざめた表情を浮かべた。

「一気に片をつけるぞ!」

ラズナーが叫び、全員攻撃を仕掛けていく。
魔王はそれぞれの攻撃を魔力のみで凌ぐ。
しかし、もう身体が動かないのか、氷の前で膝をついたまま一歩も動くことはなかった。

勇者は魔王に向かって走った。
最大火力の火炎を纏わせた剣を振るう。

その瞬間、魔王は静かに笑った。

「やっとだ」

崩れる瓦礫の音にかき消されてしまう小さな声だったが、耳が良い勇者にははっきりと聞き取れた。

勇者の剣は魔王の結界を貫き、魔王の鳩尾を貫いた。

魔王は血を吐き、倒れ込んだ。





ー・・・ルイード様、あなたは何も気になさらずとも、良いのです。私共のことは・・・。あなたさえいれば、いくらでもやり直せるのですから。

そう言って最後に笑ったギース


ギース、皆、すまない。

守りたいと思っていたんだ。

でも、もう無理だったんだ。寂しくて、耐えられなくて、

勇者を希望と思ってしまったんだ。

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