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2お城での生活

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「手始めに名前を教えてほしいわ、わたしの名前はデイジー」

「俺は隣のランタナ王国の王子ピアニー。こっちは友達のクインス。この公国の王子さ」

「よろしくね、ピアニー。クインス」

 ピアニーはクインスの肩を抱いてデイジーに向かって笑ってる。
 体調が悪いのかクインスはふらついた。

「わたし、まだ精霊の祝福やったことないの。やってみようか?」

「よろしく~、さ、クインス、さっさとそこのソファーに横になれ!」

「お前なーー、勝手に色々と決めるな……」

 渋々ソファーに横になったクインスの胸の上に飛び乗ると、眠り猫デイジーは祝福をした。
 泡のような白い光がブクブクとデイジーから放たれてクインスを優しく包んだ。

(わあ、すごい、これが精霊の力……)

 初めて使う精霊の祝福。
 目を瞑るクインスの眉間からシワが消えた。
 つり上がっていた眉毛も下がり、静かな寝息が聞こえる。

「すう……」

 眠った!
 安らかな顔でスヤスヤと気持ち良さそうに眠ってる。

「わー寝た!寝てる!神経が細やかで不眠症プリンスのあのクインスが」

「成功してよかった~」

 褒美として眠り猫デイジーの部屋がその日のうちに用意された。

 猫一匹に対して人間一人用の部屋だ。
 ベッドも人間用のダブルベットで、テーブルやソファーも付いている。
 取り急ぎ用意された部屋なので部屋は生活感がなく、まだ家具や装飾品も揃っていない。

「ベッド、ふかふか~」

 猫は喜びベッドの上でぴょんぴょんと跳ねる。

「それにお菓子がすごく美味しい!」

 テーブルの上には浅いお皿に注がれたミルク、イチゴの乗ったショートケーキ、アップルパイにチョコレートケーキ、ババロアにシュークリーム、プリンアラモード。
 見たことのない沢山のスイーツ。
 一口ずつ味見をしたがどれも甘くて美味しかった。

 精霊は食べなくても生きていける。
 食べ物はあくまで嗜好品として摂取するのだ。

「特にこのイチゴが美味しい!」

 甘酸っぱくて、甘くてふわふわの生クリームとよく合うわ。

「気に入ったか?」

 突然部屋の扉が開き、シャツにスラックスというラフな姿の気だるそうなクインスが現れた。
 どうやら目を覚ましたらしい。

「うん、すごく美味しい。どうもありがとう!」

「俺もありがとう。久しぶりによく眠れたよ」

 クインスは笑っている。
 少し顔色も良くなったようだ。

それでもーークインスは時々寂しげな顔をしてお城から海の地平線を見つめている。
 その横顔を見るとデイジーも何故だか寂しい気分になって、思わず彼に擦り寄り気を引こうとした。

「どうしたんだ?」

 落ち着いた声色。
 クインスはデイジーの頭を撫でて笑った。

「海の向こうになにがあるの?」

「…友がいる。もう死んだけどな」

「死んだ?」

「二年前、ピアニーの国に敵国が攻めてきたんだ。俺と俺の友人は加勢するために出征した。友人はそこで戦死したーー。それからだ、眠れない日々が続いたのは」

 それは淡々とした口調だった。
 今にも泣きそうな顔をしているのに……。

「でも、ここ数週間ぐっすり眠って、冴えた頭で考えるようになったら少し気も晴れてきた。お前のお陰だ」

 また、ぐしゃぐしゃと頭の毛がボサボサになるくらい撫でられる。

「うふふ、今まで精霊が人間に使役するのは変なのって思ってたんだけどーー悪くないわね。自分がだれかの役に立ってるなんて。クインスの笑顔が見れたから、すごく嬉しい」

(でも、すっかりクインスも元気になってーーもうわたしは必要ないかしら?)

「いやだな…」

「何だ?」

「ウウン、なんでもない」

 別れの日も近いと思うと寂しくなる。
 それでも彼が元気になってよかったと素直に喜ぶデイジーだった。

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