シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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恐怖のアンデットライン農園へ!首無し騎士と拗らせ女神のアイスクリームパーラー

トーマ王子と呪いを売る者

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「にゃー」

 胸に抱いていた愛猫べべが鳴いた。

「ん?ソーセージはあげられないぞ。お前には塩辛過ぎる」

 ミレンハン国のトーマ王子はウィンターマーケットにぶらりと立ち寄っていた。
 露店で買った熱々のソーセージをべべは食べたがっていたが、トーマ王子は首を横に振っている。

「トーマ王子、べべちゃんにも何か買ってあげようぜ。あっちに串焼きの魚もあるぞ」

「ああ」

「ペット用のおもちゃもあるぞ~」

 トーマ王子は、大学都市で仲良くなった男友達二人と、身の回りの世話をしてくれている執事のガランと共に、アンデットラインを目指していた。

 ジャックとイザヤと言う名の青年2人は大学都市内にある、エスター国の陸軍士官学校に通う学生である。
 彼らとはアカデミーの乗馬サークルで知り合い、年齢も近く、騎士文学を愛読していることと無類の猫好きという共通点で仲良くなった。

 彼らは伝説の騎士団の大ファンらしく、トーマ王子が冬季休暇にアンデットラインへ行くと話したところ無理やりついて来たのだった。

「ん?」

 路地裏にひっそりと小さな露店がある。
 まるで占い師のようだった。

 そこには黒いマントを被り、フードを目深に被った店主の男が座っており、トーマ王子を手招いていた。

「お客さん、呪いはいかがですかね?」

 怪しい、とは思ったものの、トーマ王子は彼に近付いた。

「呪いとは?」

「ふふ。『目の上のたんこぶのような目障りな兄を蹴落とす魔法』とか?」

「ハァ?」

「お客さんは、幼い頃からお兄さんにコンプレックスを抱いているのでしょう?私には全部見えていますよ?貴方の心の奥底が……。これは他者の心を読む魔法です、どうです?すごいでしょう?ーー」

「……」

 きっと、ハッタリだろう。

「少し費用は高額になりますが、目障りな存在を、呪い殺す魔法だってあるんですよ?」

 アカデミーでも、こう言う胡散臭い輩が度々トーマ王子を狙って近寄ってくる。
 ミレンハン国の王子で世間知らずの大金持ちのボンボンだから、良いカモだと思われているのかもしれない。

 きっとこの男も、トーマ王子の身に着けている高価な外套やイヤリングや腕輪を見て、金を持っていると判断して声を掛けたのだろう。

「ーーお前は、魔術師か?」

 詳しいことは知らないが、違法とされている魔法や呪術を使用する犯罪組織だと聞いたことがある。

「おや。よくご存知で。もしかして、興味がおありですかな?」

「いや……」

 トーマ王子が呆然としていると、抱っこしていた愛猫べべが、落ち着かない様子でジタバタと暴れ出した。

「……失礼する」

 トーマ王子は彼に背を向けて立ち去った。


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