シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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恐怖のアンデットライン農園へ!首無し騎士と拗らせ女神のアイスクリームパーラー

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 夜も深まった頃、突然農園の屋敷を訪問してきたエルジェーベト夫人と、執事のグラハムに、デュラハンは驚いていた。

「あ、ああ…、昼間、街でお会いした方ですよね?」

 とりあえず、2人を一階の客間に案内し、温かいハーブティーを淹れてあげた。

「突然でごめんなさい。居ても立っても居られなくって……。あの魔法のナッツがもっと欲しいのよ。売ってくれないかしら?貴方の言い値で買うわ」

「いえ。あのナッツは、売り物ではありませんから…」

「私には、どうしてもあのナッツが必要なの!お願いよ、譲ってちょうだい」

 デュラハンは何かを考え込むような仕草をした。
 そして、ゆっくりとエルジェーベト夫人に言った。

「あの…。魔法のナッツはあまり日持ちするものではないので、エルジェーベト夫人が定期的にここへ受け取りにいらっしゃるなら、無償でお譲りしましょう」

「それでもいいわ!」

「それとーーナッツをお渡しするにあたって、対価をいただきたい」

 精霊の力を人間に貸す場合は、それ相応の対価をもらうことが決まりになっている。

「対価?ええ、ですから…、いくらでもお金を出すわよ」

「いえ、金品は要りません。僕……、アンデットラインにアイスクリームパーラーを開きたいと考えています。エルジェーベト夫人には、女性目線でのアドバイスをいただきたいんです」

「え?アイスクリーム……パーラー?カフェでも開くの?」

「今は引退されておられますが、ひと昔前は、没落貴族から新大陸屈指の資産家へと成り上がるほどの敏腕経営者だったことは存じております。経営者としてのアドバイスもご教示いただきたいんです。僕には学はないし、昔から騎士として剣を振るうしか能がないので困っていたんです」

 デュラハンはニッコリと笑った。
 彼女のことは知っていた。今は隠居しているようだが、数十年前、よく新聞で見た名前だった。

 隣に座っていたベンジャミンはとても驚いたような顔をしている。

「あ……ごめんね、ベンジー。ここはベンジーの土地で屋敷なのに…勝手に……」

「良いよ。アイスクリームパーラーか、氷菓は今、庶民や小金持ちの間で流行っているから良いビジネスかもね?デュラハンが思うように、やってみるといいよ。俺も、資金面で協力しよう」

「ありがとう……」

 エルジェーベト夫人は心底驚いたような表情をして、そして寂しげな目をしてデュラハンを見た。

「敏腕経営者なんて……そんなの……、大昔の話でしょう。今の私なんて…ただの醜い老いぼれよ」

 若かりし頃は、一緒に新大陸へ渡って来た夫と一緒に、いくつもの会社を立ち上げて、寝る間も惜しんで働いて、満身創痍になりながらも、イキイキとした表情で走り回っていたっけーー。

 夫が若い娘と駆け落ちしてからは、昔のような覇気も失せて城に閉じこもり、もうかつての美貌も見る影ないほど落ちて、老け込んで…。

 エルジェーベト夫人は過去の話を打ち明け、小さく泣いていた。

「『自分がお終いだと思ったら、そこで終わりなんです』、自分の限界を決めるのは自分自身です」

「……え?」

「僕が騎士として仕えていたマスターの言葉です。魔法のナッツを得るために、深夜のアンデットラインへやってくるパワーがあるんですから。貴女自身は、まだ自分が限界だとは思っていないでしょう」

「……あ」

「どうか、力を貸していただけませんか。僕には貴女が必要です」

「…まさか、まだ、私を必要としてくれる人がいるなんてね」

 エルジェーベト夫人はコクリと頷くと、涙を拭った。

「わかったわ。協力しましょう」

「ふふ、ありがとうございます!よろしくお願いします!」
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