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恐怖のアンデットライン農園へ!首無し騎士と拗らせ女神のアイスクリームパーラー
森の中のトキメキ
しおりを挟む「ふぅ~、もう~、左王様のせいでアトランテさんに追い回されちゃいましたよ?」
「いい運動になったじゃないか」
馬に乗ったイルカルは、げっそりとした顔をしていた。
左王様も馬の背に乗り、夜の暗い森の中を進む。
「左王様は、結婚願望はないんですか?」
「……。前に、お前にも話しただろう。俺は子供を作れない身体だ。それで結婚する意味なんてあるのか?」
オリヴィア小国では、代々双子の男の子が産まれるが、決まって片方の男の子は無精子症か、子供を造る器官に先天性の障害を持って産まれる。
父の代も、祖父の代も、その前も、ずっとそうだった。
先祖である精霊王の双子の片割れである魔王様も生殖能力はなく、子孫を残せない身体だ。
理由はよくわからないが、そういう家系なんだろう。
「必要性がないからしたくないんだ。誰かに行動を縛られるのも嫌いだからな」
「左王様……」
「でも、不能なのが俺の方で良かったよ。兄のシャリーは家庭的だし、結婚願望も強かった。それに、子供を欲しがっていたからな」
「左王様。別に…、子供を持つことだけが結婚じゃないと思いますよ?うーん。例えば…、政略結婚は別として、誰かと共に、寄り添い合いながら生きていたいって思って結婚するんじゃないんですかね?」
イルカルは言った。
「よくわからん感覚だな。そもそも俺は強いから、1人でも生きていけるぞ」
左王は真顔で言った。
イルカルは説明に困っていた。
「ああ…。お前、そういえば俺に一生ついていきたいとかなんとか言って側近になったんだよな」
「はい…!自分、左王様の事、超リスペクトしてますから!火の中、水の中、地の果て!どこにでもついて行きますよ!」
「そうか…、それじゃあお前は俺と結婚したいってことなのか?」
「え?」
「ん?」
こんがらがるイルカルであった。
*
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魔物を倒すと、左王は崖の下に近付いた。
「大丈夫か?お前ら」
「ええ…。ありがとうございます。助かりました」
初老の男は感謝を述べて、崖から降りた。
もう1人奥にいた女性も出てくるが、2メートル近く下にある地面を見つめて動かない。
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「エルジェーベト様、降りられますか?」
「ダメ……、私が高い所が苦手だって知っているでしょう?無理よ~」
左王はさりげなく真下に立ち、腕を広げた。
そして受け止めてやるから、飛び降りて来いと女性に言った。
女性は躊躇っていたが、意を決したように唇をぎゅっと噛み締め、思い切って飛び降りた。
「きゃあああ!」
女性は悲鳴をあげて落下した。
左王は慌てる様子もなく、彼女の身体を腕に受け止めた。
「え……?」
女性は目を見開いた。
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トクン…と、何十年かぶりに胸が高鳴った。
すっかり枯れてしまった心に水が染み込んでいくように、潤っていく。
まるで花も恥じらう少女時代の自分に戻ったかのような気分だった。
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左王は女性を下ろした。
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「はあ…。夜分遅くに、大変申し訳ありません」
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