シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

文字の大きさ
上 下
249 / 262
恐怖のアンデットライン農園へ!首無し騎士と拗らせ女神のアイスクリームパーラー

精霊達の月光浴

しおりを挟む
 アンデットラインと呼ばれる川を越えた墓場ばかりの区域ーー満月の夜は魔力がいっそう高まり、精霊達が月光浴をするために外へわらわらと出てくる。
 月光のパワーを吸収するように、ヘーゼルナッツの木は妖しく光る。

「まるで百鬼夜行だわ…」

 凍てつくような寒い夜。
 白い息を吐きながら、シャルロットは歩いていた。

 精霊達の愉快なナイトパレードが目の前を横切る。
 騎士ゲーテとアーサーをお供に夜の散歩に出たシャルロットは目を見張りながら足を止めた。
 幻狼たちも全員集合して、空き地に寝転がると月の光を浴びて、ご機嫌な様子でルンルン歌っている。

「お姫様、お姫様~」

 黒い馬に乗って、首無し騎士デュラハンが現れた。

「デュラハンさん?」

「お姫様、良かったら僕の馬に乗っておくれ。良い場所へ連れて行ってあげる」

 デュラハンの乗っている黒馬も精霊らしい。
 普通の馬より一回りくらい大きな馬だが、おとなしい。

「ええ……きゃっ」

 頷いた瞬間、シャルロットの身体がふわっと浮いて、魔法で馬に乗せられた。
 シャルロットを馬に乗せると、デュラハンは早速森の中を駆け出した。

*
 アンデットラインの奥地には大きな牧場がある。
 その手前には、水面が銀色に光る巨大な湖があり、冬の寒さで湖水はカチカチに凍っていた。

「ふん、ふん~」

 野太い男達のハミングが聴こえた。
 熊のような体格の、いかつい大男達が湖に集まっている。

 凍った水面を大剣でかち割って、湖の畔にある荷車の荷台へせっせと氷の塊を運んでいた。 

「え?……」

 デュラハンに連れられて湖までやって来たシャルロットは驚いて口をポカンと開けていた。

「お~!デュラハンか~」

「どうしたんだ?その髪は。イメチェンか?」

「久しぶりに顔を出したと思ったら、垢抜けやがって~。その可愛いお嬢さんはなんだ?彼女か~?」

 大男達は、デュラハンとシャルロットに気付くとフレンドリーに声をかけて来た。
 デュラハンは苦笑している。

「お姫様、彼らは僕の仲間なんだ……。みんな、騎士なんだよ。今は後ろの牧場で、牛飼いをしているんだ」

「まあ…、はじめまして。シャルロットですわ」

「みんな、西大陸から来たお姫様だよ。今、僕の農園に宿泊しているんだ」

 デュラハンは大男達にシャルロットを紹介してあげた。
 大男達は興味津々な様子でシャルロットの周りに群がった。

「可愛いプリンセスだなあ~」

「よろしくな~、お姫様」

 みんな外見は怖い感じだったが、気さくで人当たりは良い。
 シャルロットもニコニコ笑顔で握手に応じた。

「伝説の騎士団……?」

 シャルロットの後ろに居た、騎士アーサーが驚いた表情で、声を漏らした。

「なんだ?そこのハンサムな兄ちゃん達も騎士なのか?」

「ええ、私の護衛の騎士達です」

「あんなにヒョロい兄ちゃん達で、お姫様なんか守れるのか?わはは」

「近衛騎士なんて所詮、剣の腕より、家柄やビジュアル重視だからなあ~。俺たちのような戦場に出る騎士とは違うさ」

 伝説の騎士団ーー。
 武勇伝や、おっかない伝承を色々と耳にしたが、シャルロットが想像していたより、ごく普通の賑やかなおじさん集団だった。

「あなた達は、ここで何をしているの?」

「ああ、氷を集めていた。ここで集めた氷塊を、牧場の貯氷庫に持っていくんだ」

「氷を…集める……?」

 冷蔵庫や冷凍庫のない世界、氷も貴重なものだった。
 西大陸で貯氷庫を所有しているのは、一部の王族や貴族ばかりだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...