シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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恐怖のアンデットライン農園へ!首無し騎士と拗らせ女神のアイスクリームパーラー

吸血鬼夫人の住むお城

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 人里離れた森の奥に、ひっそり佇む古城ーー周辺住人からはホーンテッドハウス、吸血鬼が住まう魔城と恐れられている。
 ここにはエルジェーベト言う名前の高齢のご婦人が、執事のグラハムと2人で暮らしていた。

 街への用事を済ませて執事のグラハムを乗せた馬車が城へ入ると同時に、黒いマントを目深に被った怪しい男二人組が入れ違いで城を出て行った。
 マントの胸元には合金出てきた山羊のブローチ、腰には短剣を携えている。

 男たちを馬車の小窓から横目に見ていた執事グラハムはため息を吐いた。

「ただいま戻りました」

「あら、お帰りなさい」

 日中だと言うのにカーテンを閉め切った暗い部屋の中にエルジェーベト夫人は居た。
 肌を全て覆い隠すような漆黒のドレスに、黒いレースのヴェールで顔も隠している。

「また、魔術師の輩と会っていたのですか?」

「新しいカツラを売り込みに来ていたのよ」

「………」

 ソファーの前にあるテーブルの上には、いくつもの箱が並び、その中には人毛で作られたカツラが納められていた。
 それを見て執事グラハムは眉を潜めた。

「お言葉ですが、エルジェーベト様、魔術師と関わることはお勧めできません」

「あら、貴方ってば、口を開けばそればかりね」

 エルジェーベト夫人は鼻で笑った。
 そして悲しげな瞳で、部屋の片隅にある布で覆われた姿見を見つめていた。

 若かりし頃は絶世の美女と呼ばれ、数多の男たちから求婚され持て囃されていたエルジェーベト夫人の美貌も、加齢と共に衰えていた。

 かつては大富豪だった夫と結婚し、愛妻家だった夫が自分のために建ててくれたこの城で、彼女は誰よりも幸せな日々を過ごしていたがーー20年前、夫は若い町娘に目移りし、全財産を投げ打ってまで不倫相手と共に駆け落ちしてしまった。

 ーー私が老いて、醜くなったから、だから、夫の心が離れてしまったんだわ。

 ショックを受けた彼女は、あれ以来、老いて醜くなっていく自分を直視することができず、鏡を見ることを拒否。
 若さや美を取り戻す事に躍起になっていた。

 魔術師はそんな彼女の心に漬け込んだ。
 白髪が目立ってきた彼女に人毛のカツラを売り込み、美貌を取り戻す魔法など、胡散臭い商品を売り込みに通うようになった。

「何にでもすがりたくなるわよ……美しさを取り戻せるなら……」

「それでは、エルジェーベト様。さっき街で魔法のナッツという実を買ったんですが、こちらをお試しになられてはいかがですか?」

「魔法のナッツ?ただのヘーゼルナッツじゃない……」

 執事グラハムは殻を剥くと、ナッツを彼女に渡した。
 彼女は恐る恐る口に運ぶーー。

「……!」

 食べた瞬間、身体が芯からじわじわと熱くなり、枯れた地が水で潤うようにパワーが湧いてきた。
 あんなに怠かった身体は羽根が生えたように軽くなって、片頭痛も綺麗に消えていた…。
 それに、彼女の顔を見て、執事グラハムは目を丸くした。そして、ハッとしたように彼は走り出し、壁に掛けてあった小型の鏡を持って彼女に向けた。

 彼女は鏡を突然差し出され、思わず顔を背けたーー。

「なっ……何するの!グラハム!」

 鏡を見るのは怖い。

「エルジェーベト様、鏡を見てください。ほら!」

「………へ?」

 ビクビクしながら鏡を覗き込むと、エルジェーベト夫人の老いてやつれた顔が写り込んだ。
 しかし、以前よりほんの少し若返ったような気がする。
 目の下にあったクマや大きなシワは消え、血の気が戻り顔色も良いし、シミも心無しか消えている。
 頬に手を当ててみると、ハリが戻ってきたような気がするーー?

「グラハムっ、このナッツはどこで手に入れたの?」

 エルジェーベト夫人は声を上げて、ソファーから立ち上がった。
 執事のグラハムは彼女の気迫に押されて後退り、苦笑した。

「え、えっと……アンデットラインの、ヘーゼルナッツ農園の青年から買いました」

「このナッツがもっともっと欲しいわ!その人から言い値で買って来なさい。早く!今すぐに、よ!」

「今からですか……!?これからエルジェーベト様の夕食の準備や掃除が残っていますので」

「そんなのはいいから!早く!~~いいわ、私が直接買いに行きます。馬車をお出しなさい」

「エルジェーベト様が?……」

 もう何年も城に閉じ籠っていたエルジェーベト夫人は慌ただしく身支度を始めた。
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