シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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恐怖のアンデットライン農園へ!首無し騎士と拗らせ女神のアイスクリームパーラー

首無し騎士デュラハン

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 エスター国北部・タリータウンの北にある村
 自然豊かな田舎町を更に奥に進むと大きな川が流れており、その間に架かった大きな橋を渡ると大きな霊園があった。
 墓地も点在していて、小さな教会や遺体安置所もある。

「魔力がすごい湧き上がっている土地だな」

 馬車の中でグレース皇子が呟いた。

「え?」

「あの川を越えた辺りからだ。膨大なエネルギーが満ちている。雑魚だが、魔物もいっぱい潜んでいるようだ」

 ハリネズミのような小さな魔物が馬車の前をチョロチョロと横切った。

「ここはアンデットラインって呼ばれている土地ですよ」

「アンデットライン?」

「アンデットーーつまり、ゴーストとかゾンビがいっぱい出るって噂です」

 ベンジャミンが教えてくれた。
 シャルロットは目を点にしていた。

「心霊スポットみたいなものかしら?」

「んーまあ、お化けなんて居ないさ。土地の魔力に当てられた村の人が、魔物や精霊を見てゴーストだと勘違いしてるんだろう」

「え?」

「新大陸にはもともと魔人と呼ばれる人種が少なくて、独自の宗教が根付いているからーー西大陸では割と普通に知られている精霊っていう概念が一般的ではないんです」

 エスター国の北部は西大陸の諸国が統治していたため、移民として西大陸からやってきた魔人も居るが、原住民の殆どは魔力を持たない人間だそうだ。

「まあ、そうなのね?」

「ふふ、人間が大袈裟に恐がるのが面白くて、イタズラしてる精霊もいるんだよ」

 シャルロットの膝の上に座るチワワが言った。
 馬車の外を改めて見ると、精霊が木陰や石に隠れてこっちをジロジロ見ていた。

 やがて馬車は大きな古い屋敷の前に到着した。
 黒い外壁には蔦がびっしり蔓延り、門を抜けるとまず巨大な樹が目に飛び込んで来た。
 周りは雪が積もり、一面真っ白なのにーー大きな樹には青々とした葉がびっしりと生え、キラキラと金粉のようなものが周りに舞っていた。

「この地域は戦前ペレー国が統治していてね、この屋敷と農園の土地は全部俺の先祖が管理していた領地だった。戦争が終わった後、父母も祖国に帰化してしまったから俺が地主をしている」

 ベンジャミンは屋敷の中へみんなを通すと、簡単に説明してくれた。

「大きな屋敷ね…」

 中は広く、生活感がないほどに整然としていて、調度品や絵画はどれもアンティークなものばかり。

「俺は大学都市内に住んでいるから、友人に屋敷と農園の管理を頼んでいるんだ。うーんと…」

 ベンジャミンはキョロキョロと辺りを見渡した。
 すると、ギィ…っと音を立てて大きな扉が開く。そこからひょっこり顔を出したのは、黒髪に赤い目をした青白い肌の男だったーー。

「あ、デュラハン!客人を連れて来たよ。出ておいで」

「……ふぇ」

 デュラハンという男はオロオロうろたえながら、恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせてシャルロット達の前に姿を現した。
 人見知りでもしているのか、みんなの前に立つとプルプル震え、モジモジしながらベンジャミンの背中に隠れてしまった。

「えっと…はじめまして、私はシャルロットですわ。お世話になります」

「は!はい!……えっと、ええっと、僕ーーーーギャ!」

「へ?」

 挨拶をしたシャルロットの目前で、突然デュラハンの首がボトッと取れてーー絨毯の上に転がり落ちてしまった。
 それはまるで椿の花がボトッと落ちてしまうようにーー。
 シャルロットは目を丸くして絶句する。

「ギャアアアアア」

 悲鳴をあげたのはシャルロットの後ろにいた騎士のキャロルだった。
 他のみんなはただ顔を青ざめていたり、呆然としている。

「ごめんごめん、デュラハンは緊張したりパニクると首が取れちゃうんだ」

 ベンジャミンはヘラヘラ笑って落ちた首を拾うと、慣れた様子で頭を首の定位置に装着させた。
 それを見たチワワが叫んだ。

「ああ~!思い出した~、首無し騎士のデュラハンだ!」

「クロウの知り合い?」

「うん。彼も精霊なの」

 騎士らも既知のようで、背後でざわめいていた。

「首無し騎士…って、話は聞いたことがあるぞ。戦死した騎士の亡霊だよな?」

「ああ、夜道で人を襲って首を切り落として殺すっていう……?」

「いや、彼と出会った人は近いうちに死ぬんじゃなかったか?」

「ヒィ~」

 騎士の間では有名らしい。
 ヒソヒソと話す彼らを見て、デュラハンは落ち込んでいた。

 シャルロットは親衛隊の騎士らに振り向き、怒鳴った。

「あなたたち!口を慎みなさい。本人を目の前にして、そんな根拠のない噂話を口にするなんて…あんまりですわ!」

「ひ、姫様……申し訳ございません」

 見た感じでは、物騒な噂話とはかけ離れた温厚な青年だ。

「改めてよろしくお願いします、デュラハン」

「よろしく…お姫様。お見苦しいところをお見せして申し訳ございません」

 シャルロットはデュラハンと握手を交わした。
 安堵したような顔をするデュラハンを、ベンジャミンは優しく見守っていたーー。
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