シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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恐怖のアンデットライン農園へ!首無し騎士と拗らせ女神のアイスクリームパーラー

プロローグ

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〈とある女騎士の手記より〉

私が幼い頃からこの大陸には戦争が絶えなかった。
他国の軍隊に侵略され、敗戦した私達の村も奪還され、他国の貴族が我が物顔で支配するようになった。
戦時中も苦しい生活だったけど、その後も苦しい生活はずっと続いていた。
重い税金、疫病が広がり不作によって食糧難が深刻化、僅かに採れた食糧も貴族に奪われる。
貴族の輩が下々の者達に暴力を加えたり、殺人や強姦事件も相次いで無法地帯だった。
それでも身分が高ければ人を殺そうが罪にはならず、私たちは人の扱いすら受けなかった。

『自分達の身は自分達で守ろう、奴らの好きにはさせない』

昔 騎士や傭兵をやっていた男達を中心にして、私達、村人は結束して武装した。
周辺地域の村人も加勢し、私設騎士団を結成。

私は女の子だったが、故郷や同胞を護りたいという強い意志を持って9歳で入団。
騎士として厳しく育てられ、騎士団の中でもトップクラスの強さを誇る最強の女騎士となった。

そして時は過ぎた。
あんなに小さかった妹達もそれぞれ家庭を持ち子供を産み、一緒に戦って来た女騎士たちも故郷へ戻り家庭を持った。

私設騎士団はあれから拡大し、威力を増した。
確かな実績があり古株の私は、騎士団でも上隊長を務めていた。

「チッ、女の癖に上隊長とか生意気だよな~」

「騎士団長の愛人なんじゃねえか~?」

「あんな色気もない暴れ馬が愛人とか、金もらってもお断りだね」

「暴れ馬っていうか、ゴリラじゃね?可愛げがないから良い歳して嫁の貰い手もないんだろう」

「っていうか、女装しただけの男じゃないか?」

一部の仲間からは完全にお局様扱いを受け、新入りの騎士らには陰で行き遅れババアだと馬鹿にされていた。
外では勇ましく力強く振舞っていた私だったが、性根は普通の乙女だ。いつもこっそり隠れて泣いていた。

「何よう~、みんな、私の気持ちも知らないで!……うう……!」

人気のない場所へ行って、たまに不満を叫んでストレス発散するのが日課だった。

私だって結婚したい!でも騎士も続けたい。
まあ、少し女としては高身長だけど、これでも美人でスタイルも良いから縁談だっていくつか入ってきた。

けれど嫁に来るなら騎士をやめろと言われたし、何よりちょっと金持ちくらいのナヨナヨしたもやし男か冴えない独身中年男か、バツイチの資産家ばかりで乗り気になれなかった。

「そう!私は結婚できないんじゃなくてしないのよ」

妥協は嫌だ。

イケメンで、金持ちで、背は私(178センチ)よりずっと高くて、筋肉質で、ストイックで、イケボ。
騎士や軍人がいい!最低でも私より強い男じゃなきゃ萎えるわ!

あ、でも汗臭いのやムキムキすぎるのは嫌。外見は貴公子風のイケメンで、着痩せするタイプがいい。
あんまりガッついてなくてスマートで、私のことをひょいって涼しい顔でお姫様抱っこをしくれる……。

誰にも行ったことのない願いを胸に秘めながら、私は何年も戦場の最前線で暴れまくっていた。
騎士としてのキャリアアップは進むが、夢のウエディングロードからは遠ざかる日々。

そして、34歳の初夏ーー。
戦場で手負いの私の前に、金髪碧眼の男が現れた。
彼が手に持っている大剣の切っ先が光を反射した。
敵国の傭兵だろう。

「ここは通さないわ!さっさと帰んな」

「死にたくなければ退け、女」

「ふん、私が女だから余裕ぶってるの?あんた達、男ってほんと馬鹿よね」

「…女でも俺は容赦はしない、死にたくなければ退け」

私より頭一個分大きいし、かなりの美形だった。
理想そのものの貴公子風ーーけれど、目は血に飢えた獣のように鋭くて、オーラがおっかない。
纏っている服は返り血で汚れていた。

「ヒィ……!お前は……タンザナイトの勇者か!なんで…… っ?」

「ウワアア!」

仲間達は蜘蛛の子を散らすように全力で逃げた。

「はあ!?あんたら!どこいくのよ!」

「ソイツは化け物だ、もはや俺らが敵う相手ではない!お前も早く降伏して逃げろ!」

「ちょっとっ……!ここを守らなきゃ……っ!逃げるんじゃない!あんたら騎士でしょ!?……」

私の声はもう彼らには届かない。

「ぐっ……!」

私1人でも、ここは死守しなければーー。

「お前らの飼い主の首はもらう、お前らもソイツに騙され、利用されているだけだ。目を覚ませ」

「はあ?あんたに支持されたくないわ!」

私は剣を振るう。
だが、彼は瞬き一つせず、剣を軽く避けた。

男は躊躇いもせず私の太腿に剣をぶっ刺し、貫いた。
それでも表情は全く変わらない。

「ぐっ……!本当に……レディー相手でも容赦ないのね」

血がドクドク溢れてくる、立ってるのも辛い。

「レディー扱いしてくれるような紳士な男を求めているなら、社交パティーにでも行けば良い、ここは戦場だ。生半可な覚悟で来ているなら帰れ!」

大抵の野郎どもは、私が女だからと油断したり、 見下して馬鹿にしたり、変に情けをかけるような情けない騎士ばかりだった。

「馬鹿にしないで!」

私は負傷した脚でしっかりと立ち上がり、剣を再度振るった。
彼も真面目な顔で応じる。


「ふん、なかなかやるな。女のくせに、大したもんだ」

「女、女って、うっざいのよ!」ー

私は激高し、激しく男に向かって剣を突いた。
しかし、男はそれすら交わして私に大きな手を伸ばし、首を思い切り締めて地面のねじ伏せた。

「うっうう……!」

「降参するか?生かしてやるぞ」

やっぱり、こいつも女扱いしてる…。

「だーー誰が!私は騎士だ!首だけになってもーーここは守る!」

彼の拘束から逃れ、反撃を再開した。

「それでは、真面目に応えるのが、礼儀かーー」

「グハッ……!」

タンカを切ったものの、私は瀕死状態で余力は残っていなかった。
男は剣で私の心臓を貫いたーー。

血を吐いて、私は仰向けに倒れた。

この私が負けるなんて……。
朦朧とする意識の中、私を見下ろしている金髪碧眼の傭兵を見た。

彼は跪くと私の手を取り、手の甲にキスをした。

「お前は、強くて、気高くて美しい騎士だな」

そう呟いた男は、私を抱きかかえて歩き出した。
そして月が浮かぶ湖の中へ、私の死体を落とした。

夢のお姫様だっこ!

やっと見つけた理想の人ーー。
それなのにこのまま死ぬなんてーー、浮かばれない。
死にきれない。

生きたい……。
まだ死ねない!私は結婚したいのーーー!

強く願った時、真っ暗な水面が発光した。
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