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*シャルロット姫と食卓外交
グレース皇子とのお見合い(イラスト有)
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「あなたがグレース皇子ですか。私はオリヴィア小国の公女シャルロット・オリヴァー=トゥエルフスナイトと申します」
シャルロットは緊張しながらもにこやかに笑い、丁寧にお辞儀をした。
グレース皇子も一応立ち上がると軽く会釈し、淡々と挨拶を返した。なんだか態度は素っ気ないし、歓迎されていない空気だ。
「…陛下から、姫がここに来るので相手をしていろと命じられたから、待っていたんだ」
「はあ…お邪魔しております。お忙しいところ、お時間をいただき恐縮です……」
「ふん」
「……」
重たい沈黙に、シャルロットの胃はキリキリ痛んだ。
グレース皇子ーー、まるで絵本の中から飛び出してきたような美しい王子様だった。
ストロベリーブロンドの短く切り整えられた髪に、美しいグレーの瞳、すっきりとした薄い唇。
体格は細身で、しなやかで細長い手脚をしている。
繊細そうな、神経質そうな雰囲気があり、唇はへの字で眉間にはずっとシワを寄せていた。
「ーー俺は結婚する気がないぞ。お前だってそうだろう?見ず知らずの俺と結婚なんて」
「え?えっと…」
無闇に肯定出来なくて、引き攣った笑顔を浮かべるシャルロット。
「でも、俺らの意志でどうすることもできない話だ。だから、姫、俺と取引しないか?」
「取引……ですか?」
「今回の結婚は、形だけの契約って事にするんだ。時期が来たらどうにか理由を付けて国に返してやる。ここは契約だと割り切って、跡取りになる男児を産んでくれ。離縁をする時には手厚い保証や年金を付けてやるから、どうだ?」
「ーーー愛のない結婚で、子供を産むのは嫌よ。子供が可哀想だわ」
彼との婚姻が両者にとって望まない政略結婚だとしても、ちゃんと彼を愛し、夫婦として歩み寄り、信頼を築き上げていくつもりだった。
子供もきちんと産んで、ちゃんと家族になれるものだと。
「姫……」
「皇太子に跡継ぎが産まれなかった場合、分家である公爵家からも選出できるんでしょ?他に方法はあるはずよ。それに、まだ正式に婚約が決まったわけじゃないわ」
呆然としている彼に向かって、シャルロットは空元気に笑った。
まだ出会ったばかりだ、もっとグレース皇子について知りたいと思い続けて話し掛けた。
「グレース様の趣味を伺ってもよろしいかしら」
お見合いの無難で、定番な質問じゃないかしら?ーーシャルロットは打ち解けようと必死だった。
「…剣術だ」
「お強いって聞いたわ」
「まあな……。後は騎士文学を読む事だ。この本とか、もう何十回も読んでいる」
彼は手元に置いてあった本をシャルロットに見せた。
「まあ、騎士王伝説ね。小さい子向けの絵本を、昔、兄に読み聞かせてもらったことがあるわ」
「その絵本なら俺も持っているぞ、幼い頃に父から与えられたんだ。ああ、一番気に入っている本はーーー」
さっきまで不機嫌そうだったのに、好きな事を話している時のグレース皇子の目はキラキラ輝いていて、表情もイキイキとしていた。
寡黙だと思っていたが、途端に饒舌になり、ペラペラと騎士文学や剣術の話を楽しげに語り出した。
女性相手に話す話題ではないと、後ろに控えている騎士が困ったような顔をして冷や汗をかいているようだった。
「ふふ。グレース様、よければオススメの小説を借りてもいいかしら?この城に滞在中、どうしても時間が余ってしまいそうで、読書をしたいの」
「ああ、良いぞ。さっき話したシリーズは読んで損はない、8巻まとめて貸すから絶対読んでくれ」
「ありがとうございます」
第一印象は最悪だったが、グレース皇子の無邪気な一面が可愛く好意的に思えたシャルロットだった。
シャルロットは緊張しながらもにこやかに笑い、丁寧にお辞儀をした。
グレース皇子も一応立ち上がると軽く会釈し、淡々と挨拶を返した。なんだか態度は素っ気ないし、歓迎されていない空気だ。
「…陛下から、姫がここに来るので相手をしていろと命じられたから、待っていたんだ」
「はあ…お邪魔しております。お忙しいところ、お時間をいただき恐縮です……」
「ふん」
「……」
重たい沈黙に、シャルロットの胃はキリキリ痛んだ。
グレース皇子ーー、まるで絵本の中から飛び出してきたような美しい王子様だった。
ストロベリーブロンドの短く切り整えられた髪に、美しいグレーの瞳、すっきりとした薄い唇。
体格は細身で、しなやかで細長い手脚をしている。
繊細そうな、神経質そうな雰囲気があり、唇はへの字で眉間にはずっとシワを寄せていた。
「ーー俺は結婚する気がないぞ。お前だってそうだろう?見ず知らずの俺と結婚なんて」
「え?えっと…」
無闇に肯定出来なくて、引き攣った笑顔を浮かべるシャルロット。
「でも、俺らの意志でどうすることもできない話だ。だから、姫、俺と取引しないか?」
「取引……ですか?」
「今回の結婚は、形だけの契約って事にするんだ。時期が来たらどうにか理由を付けて国に返してやる。ここは契約だと割り切って、跡取りになる男児を産んでくれ。離縁をする時には手厚い保証や年金を付けてやるから、どうだ?」
「ーーー愛のない結婚で、子供を産むのは嫌よ。子供が可哀想だわ」
彼との婚姻が両者にとって望まない政略結婚だとしても、ちゃんと彼を愛し、夫婦として歩み寄り、信頼を築き上げていくつもりだった。
子供もきちんと産んで、ちゃんと家族になれるものだと。
「姫……」
「皇太子に跡継ぎが産まれなかった場合、分家である公爵家からも選出できるんでしょ?他に方法はあるはずよ。それに、まだ正式に婚約が決まったわけじゃないわ」
呆然としている彼に向かって、シャルロットは空元気に笑った。
まだ出会ったばかりだ、もっとグレース皇子について知りたいと思い続けて話し掛けた。
「グレース様の趣味を伺ってもよろしいかしら」
お見合いの無難で、定番な質問じゃないかしら?ーーシャルロットは打ち解けようと必死だった。
「…剣術だ」
「お強いって聞いたわ」
「まあな……。後は騎士文学を読む事だ。この本とか、もう何十回も読んでいる」
彼は手元に置いてあった本をシャルロットに見せた。
「まあ、騎士王伝説ね。小さい子向けの絵本を、昔、兄に読み聞かせてもらったことがあるわ」
「その絵本なら俺も持っているぞ、幼い頃に父から与えられたんだ。ああ、一番気に入っている本はーーー」
さっきまで不機嫌そうだったのに、好きな事を話している時のグレース皇子の目はキラキラ輝いていて、表情もイキイキとしていた。
寡黙だと思っていたが、途端に饒舌になり、ペラペラと騎士文学や剣術の話を楽しげに語り出した。
女性相手に話す話題ではないと、後ろに控えている騎士が困ったような顔をして冷や汗をかいているようだった。
「ふふ。グレース様、よければオススメの小説を借りてもいいかしら?この城に滞在中、どうしても時間が余ってしまいそうで、読書をしたいの」
「ああ、良いぞ。さっき話したシリーズは読んで損はない、8巻まとめて貸すから絶対読んでくれ」
「ありがとうございます」
第一印象は最悪だったが、グレース皇子の無邪気な一面が可愛く好意的に思えたシャルロットだった。
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