シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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*シャルロット姫と食卓外交

クライシア大国へ

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 それから怒涛の展開だった。

 たった1時間弱しか猶予を与えられなかった。
 早急に国を出る身仕度をするように命じられ、侍女達も喋る暇なくドタバタ城を駆け回り、数日分の着替えを木製のトランクに押し込んで馬車に積んだ。
 みんな顔を真っ赤にしながらヒーヒー息を切らしていた。

 その間、クライシア大国からやって来た厳つい顔の親衛隊がシャルロットを包囲していた。

「まるで捕虜になった気分だわ」

「ごめんね、シャルロットちゃん……。パパが不甲斐ないばかりに…」

「気にしないで。お父様」

 後から聞いた話だと、オリヴィア小国とクライシア大国の国境辺りで揉め事があり、“たまたま”オリヴィア小国の王が不在時に、“たまたま”近くを通りかかったクライシア王と騎士や軍人がトラブル対応をした。

 オリヴィア小国の平民の従士が、クライシア大国の貴族の青年を殴り付けたとかーー。

 (貴族を殴った従士さんって、とても優しくて穏やかな人なのに……他国の人を殴るなんて信じ難いわ。腑に落ちないけれど)

 特別に無罪放免にしてやる、国同士の問題にしないであげる、友好条約の証として姫と皇子の縁談を進めさせろ。落とし前を付けろーー、と、クライシア王が直接オリヴィア小国の城に訴えに来たようだ。
 こんなトラブルに、わざわざ大国の王が自ら首を突っ込むだろうか?かなり強引なやり口だ。

「姫様、はじめまして。馬子を務めさせていただきます、クライシア大国第一騎士団所属のイルカルです」

「はじめまして……シャルロットですわ。えっとうちの馬子さんは?」

「オリヴィア小国の侍女や秘書を乗せた馬車をお願いしています。帰国を早めたいので、取り急ぎ陛下の馬車と姫様の馬車を国へ送りますね」

 キツネ顔の若い騎士がニッコリ笑いながら声を掛けて来た。
 シャルロットは微笑み返した。

「はい……、よろしくお願いします。お手数おかけします」

 城の前で家族に見送られながら、シャルロットは父と共に馬車に乗って国を発ったーー。

「クライシア大国ってーー小さい頃に一回行ったことがあるわね。今から出発すると、到着は1~2週間くらいかかるかしら?…」

 ふと馬車の窓の外を覗くと見慣れた木立が見えた。
 しかし、突然馬車全体が白く発光したかと思えば、木立ばかりの景色がぐにゃりと歪み、目をパチクリとさせた、その一瞬で、見知らぬ街並みの景色に切り替わっていた。

「えーーーーー!?」

*

 西大陸に内陸部にあるクライシア大国ーー旧クリシア帝国は、周辺や東大陸に複数の同君連合の構成国を持つ国である。
 シャルロットに縁談を強要していた男の名はレイメイ、皇帝にして国王陛下である。

 父曰く、とても聡明な王らしいが強引なところがあり切れ者、有言実行がモットー、目的達成のためには手段も選ばないーーとやつれた顔で言っていた。

「大きいお城だわ…。でも、どうして?たった数時間で到着しちゃうなんて……どうなってるのかしら」

 馬車をマジマジと凝視するが、実家の至って普通の馬車だ。
 馬子をしてくれた騎士イルカルが穏やかに笑っていた。

 城に到着するなり通されたのは、白いバラが咲き乱れているガラス張りの温室の中の茶室だった。
 温室へ向かう途中で、父は執事に呼ばれて王が待っている部屋へ行ってしまった。
 父が話し合いをしている間、シャルロットはここで待っているようにと指示された。

「あ……」

 温室の中を進むと、ツイスト脚の白いティーテーブルがあった。
 白い椅子が2つ用意されており、その片側には白い礼服を着た綺麗な顔の少年が座って本を読んでいた。
 彼の後ろには白い騎士服を着た護衛騎士が2人黙って立っている。

「グレース殿下、オリヴィア小国よりシャルロット姫が到着されました」

 執事の青年が先に声を出した。
 綺麗な顔の少年は、クライシア大国のグレース皇子ーーシャルロットの婚約者となる男だ。



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