シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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新婚旅行はミレンハン国へ!猫になったシャルロットとポチたま大論争勃発!?

恐怖のレストランへご招待

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木々が生い茂った山奥に、レンガ造りの大きな屋敷があった。
ここではミレンハン国の王室とも関わりが深い老いぼれた公爵夫妻が隠居している。

ミレンハン国王の伯祖母で、姪孫である国王を『ボクちゃん』と気安く呼んで猫可愛がっている。
他国から嫁入りしてきたナージャ王妃を姑のごとくイビリ倒し、気の強い王妃も黙ってはいない性格なので対立し、顔を合わせる度に激しく言い争っていた。
社交界から退いたものの、未だに宮殿内では権力を握っている。

そのシーザー公爵夫人から、ヴィラ夫人や密猟者の男達の元へ食事会の招待状が届いた。

『我が公爵家のキティの誕生パーティーが某月某日の夕刻より催されます。
この日のためだけに、庭の離れに、一夜限りの特別なレストランをオープンいたします。ぜひ、いらしてください』

小粋なメッセージ。

公爵夫人が飼っている白猫キティのために、新鮮な肉を買い取りたいとの話だった。
山奥に住んでいるから肉屋から取り寄せると夏場はどうしても傷んでしまい、手間が掛かってしまうとのことーー。
この食事会のために、わざわざ料理人も呼んでいるそうだ。

「私だけではなく猟師らまで招待するなんてーー山で、鹿やイノシシでも狩ってもらうつもりなのかしら?」

不可解に思ったものの、招待状をもらったヴィラ夫人はすっかり有頂天になり舞い上がっていた。

シーザー公爵夫人の目に留まり、お気に入りになれたら、社交界では最強の後ろ盾を得られる。
夫人から国王に進言してもらって、公妾ーーあわよくばナージャ王妃を離縁させ新たな王妃の座に就かせてもらえるかもしれない。

ヴィラ夫人の胸は弾んだ。

「……しかし、軽装で、しかも徒歩で行かなきゃいけないなんて面倒ね」

招待状にはそう指定されていた。

*

山の麓でひとりの青年が待機していた。

「ようこそ、いらっしゃいました。お荷物お持ちいたします。レストランまでご案内いたしますーーどうぞ」

「えっと……」

「シーザー公爵に雇われている小間使いのユーシンと申します」

ニコニコ穏やかに笑うユーシンはヴィラ夫人らから荷物や銃を受け取ると、「近道だ」と言って獣道を進んだ。

「ちょっと~!靴やドレスが汚れるじゃないのよ!」

「大丈夫です。ドレスコードはありませんし、屋敷に着いたら湯浴みをしていただきます」

「へ……?」

山の中程まで進んだ辺りで突然ユーシンは走り出し、木陰に消えて行った。

「あ!ちょっと!あんた、どこへ行くのよ!?」

完全にユーシンを見失ってしまった一行は、とりあえず前に向かって進んだ。
背の高い草をかき分け進むと、小さな看板が見えてきた。
公爵家の屋敷の場所を教える道導だ。

1~2時間ほど歩き続けてヘトヘトになった頃ーー。
見えてきたレンガ造りの大きな屋敷の門前で、今度は金髪の美少年キャロルが待っていた。

「ようこそ、おいでくださいました。バトラーのキャロルです、さあさ、中へお入りください」

「ええ……」

正面入り口ではなく、何故か裏口から屋敷の中へ通された。
そこでメイド服姿のシャルロットとウェスタ、黒いスーツを着た大男達が現れて客人を取り囲んだ。

「洋服を脱いでください、泥や汗を流しましょう」

「ええ?」

身に付けていた物を強引に剥ぎ取られ、ガウンを羽織らされ裸足のまま長い廊下を歩くように促された。
そして浴室ではなく厨房までやってくると、更に奥にある薄暗い部屋の中へ押し込まれる。

「こ……ここって!?」

ーー屠殺場だ。
入室するなり問答無用で、冷水をひっかけられた。

生暖かい血の臭いが漂う部屋の中。
暗くてよく見えないが、奥には、首が切り落とされ、毛や皮を削がれ内臓を綺麗にくり抜かれた牛が天井から逆さに吊られていた。
真下にある水を張った樽の中には牛の内臓や尾が打ち込まれている。

「ヒィ!なっ……なんなのよ!?なんの真似よ?」

逃げようとしたところをオーギュスト国の騎士らに取り押さえられた。

「いや!離しなさい!」

「クックックッ……今夜は国中の猫を招いてパーティーをするのじゃ!お前の身体をバラバラに切断して、骨がトロトロになるまで煮込んで、シチューを作るのだ。ああ、ひき肉にして腸に詰め込んでウインナーにしてやろうか?その長い髪はカツラにして売り捌いてやろうか」

猫神様が極悪面でケラケラ笑いながら登場した。
わらわらと屠殺場に猫が集まって来た。

「ヒィ~!」

首元にナイフを突き付けられた密猟者の男たちは、腰を抜かしてしまった。

「ほうら。猫ちゃん達もみんなお腹を空かせて待ってるわよ。うふふ、美味しく料理してあげますわ!」

包丁を黙って研いでいたシャルロットは立ち上がり、包丁を手にじわじわと拘束されているヴィラ夫人に迫って来た。

天使のような笑顔でーー。

「キャアアアア!」

愚かな客人どもは金切り声を上げ、泣き喚いた…。

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