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新婚旅行はミレンハン国へ!猫になったシャルロットとポチたま大論争勃発!?
宮殿に、黒い影
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ナージャ王妃の元に朝から客人が訪ねて来ていた。
「今後の管理費はマース夫人へ渡すことになったはずよ?」
「そんな…、国から払われたお金は全てマース夫人が私的に流用しております。私の元へは入ってきておりません。祠の修理費も賄えず放置したままで、困っているんですよ?」
「……」
「だからこうして王妃様の元へ直談判……」
黒いドレスを着た中年女は甲高い声で必死に叫んでいた。
ナージャ王妃はソファーに座ったまま、ハァと一つ溜め息を吐いた。
「管理費なら払ってもいいわ」
「王妃様……!」
「ただし、マース夫人を私の元へ連れていらっしゃい。彼女から管理費を返していただいて、そのお金から支払ってあげるわ。王妃の命令だもの。いくら意地悪な彼女でも返してくれるはずよ」
「え!?……それは……」
「出直していらっしゃい」
ナージャ王妃の侍女らに背中を押され、強引に退出させられた。
追い出された黒いドレスの女は苛立った様子で、足早に廊下を歩いていた。
中庭には屈んで草むしりをする赤毛の幼女がいた。
子供好きなナージャ王妃は、使用人達の子供を自分の屋敷の中で自由に遊ばせることを許していた。
使用人たちの子供を預かるシッターを雇い、託児ルームまで完備していた。
小さい子が居ても働けて、更には平民でありながら宮殿で暮らすことができ教養まで身につくと評判が良い。
あの幼女もおそらく下女の子供だろう。
「おやおや、小さな侍女さんね。可愛いわ」
女はにこやかに幼女に声をかける。
「えへへ、エザイラね、ママのお手伝いしてるの」
「そうなの。お利口さんね」
遠くで花園の水やりをしている下女の姿が見えた。
女は幼女に耳打ちした。
「ママの役に立ちたいかい?」
「うん!」
「じゃあ、ママの代わりにお仕事を任せてもいい?」
「え?」
「ママはお仕事がいっぱいで疲れているはずだよ。代わりにやってあげたらきっと喜んでくれるだろう」
「うん!エザイラがお手伝いする」
黒いドレスの女は持っていた籠から麻でできた包みを取り出した。
「いいこと?これはママにも、王妃様にも、誰にも言っちゃダメだよ?お利口さんな侍女のエザイラへ任せる秘密の任務だ」
「どうして?」
「実はね、王妃様の飼っている猫は今病気なのさ。これはそれを治すお薬でね。でも王妃様は私の言うことを信じてくれないんだ。このままだと猫達は死んでしまう」
「え!?」
幼女は驚いた。
「でも、これを食べさせたら元気になるわ。エザイラがこの薬を猫達に与えてくれないか?」
「これが薬なの?」
「そうだよ。エザイラも食べたことがあるだろう?栄養もたっぷりあるから病気なんて消えちゃうはずさ」
「うん…」
「賢いお嬢ちゃん。それじゃあ、任せたよ。誰にも教えちゃダメだ。約束だよ」
「わかった!」
「ほうら、これは少ないけれど賃金だ」
女は幼女の手に硬貨を落とした。
はじめて得たお金に、幼女は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「わあ~!ありがとう!おばちゃま」
「じゃあ、頼んだよ」
立ち上がって幼女に背を向けると、女は黒い微笑を浮かべた。
「あ、あのね、おばちゃまはだあれ?」
「私かい?私の名前はマースだ。御犬様の巫女」
「わあ!貴女が巫女さま!?ありがとう!巫女さま!エザイラ、がんばるからね!」
幼女は無邪気にぺこりと小さな頭を下げた。
嵐の前の静けさかーー宮殿内をいつも吹き抜ける爽やかな潮風が、今日はやけに凪いでいた。
「今後の管理費はマース夫人へ渡すことになったはずよ?」
「そんな…、国から払われたお金は全てマース夫人が私的に流用しております。私の元へは入ってきておりません。祠の修理費も賄えず放置したままで、困っているんですよ?」
「……」
「だからこうして王妃様の元へ直談判……」
黒いドレスを着た中年女は甲高い声で必死に叫んでいた。
ナージャ王妃はソファーに座ったまま、ハァと一つ溜め息を吐いた。
「管理費なら払ってもいいわ」
「王妃様……!」
「ただし、マース夫人を私の元へ連れていらっしゃい。彼女から管理費を返していただいて、そのお金から支払ってあげるわ。王妃の命令だもの。いくら意地悪な彼女でも返してくれるはずよ」
「え!?……それは……」
「出直していらっしゃい」
ナージャ王妃の侍女らに背中を押され、強引に退出させられた。
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使用人たちの子供を預かるシッターを雇い、託児ルームまで完備していた。
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あの幼女もおそらく下女の子供だろう。
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「えへへ、エザイラね、ママのお手伝いしてるの」
「そうなの。お利口さんね」
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「ママの役に立ちたいかい?」
「うん!」
「じゃあ、ママの代わりにお仕事を任せてもいい?」
「え?」
「ママはお仕事がいっぱいで疲れているはずだよ。代わりにやってあげたらきっと喜んでくれるだろう」
「うん!エザイラがお手伝いする」
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「え!?」
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「でも、これを食べさせたら元気になるわ。エザイラがこの薬を猫達に与えてくれないか?」
「これが薬なの?」
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「うん…」
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「わかった!」
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「じゃあ、頼んだよ」
立ち上がって幼女に背を向けると、女は黒い微笑を浮かべた。
「あ、あのね、おばちゃまはだあれ?」
「私かい?私の名前はマースだ。御犬様の巫女」
「わあ!貴女が巫女さま!?ありがとう!巫女さま!エザイラ、がんばるからね!」
幼女は無邪気にぺこりと小さな頭を下げた。
嵐の前の静けさかーー宮殿内をいつも吹き抜ける爽やかな潮風が、今日はやけに凪いでいた。
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