シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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【過去編】転生先はオリヴィア小国のお姫様?シャルロットとお兄様のホームメイド・トンプース

グレース皇子とシャルロットの出逢い

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オリヴィア小国の城に到着すると、レイター公爵は話し合いをするためにシャリーと共に応接間へ向かった。

クライシア大国の馬車の中には虚ろな目の暗い顔をした少年がポツンと座っている。
護衛を担当していた騎士のシモンは彼を馬車から降ろして、抱っこした。

「書簡でも書いていましたが、母后カメリア様を亡くされたばかりで落ち込んでいるんです。この国を訪れたのは、グレース殿下のご静養も兼ねております。一応、お忍びで……」

 「そ、そうか……大変ですね。散歩をさせてはどうですか?空気も澄んでいますし、今日はとてもいい天気です」

「そうだな……。シモン、話し合いが終わるまでお願いできるか?」

「わかりました。行きましょか、グレース坊っちゃん」

*

シャルロットは芝生の上に明るい色の麻布を敷いてその上に座った。
真っ赤なドレスを着たまま、ゴロンと大の字に眠って青い空を見上げている。

「ふう……」

空気がとても美味しい。
深呼吸すると、小さく笑む。

「?」

「……あ、オリヴィア小国のシャルロット王女様ですか?」

少年を抱っこしている見知らぬ騎士が声をかけてきた。

「えっと……シャルロットですわ。こんにちは!」

シャルロットは立ち上がりスカートの裾を摘んでぺこりと頭を下げた。

(今日、外国の公爵様が城に来るって言ってたわね)

大事な会議があるから外で遊んでいなさいーーと、母に言われていた。

「えっと……」

「こちらはグレース様です」

とても暗い顔をしているし何も喋らない美少年。
お人形のようだ。

(公爵の息子さんかしら?)

騎士が苦笑している。

「数カ月ほど前に母親を不慮の事故で亡くしておりまして……静養のためにここへ来たんです」

「ま……まあ…」

シャルロットも悲しそうな顔をした。

「グレース様、ここに座って」

シャルロットは持っていた布の薄いカバンから小さな枕を取り出し自分の膝の上に置くと、グレースの頭を寄せて膝枕してあげた。
リラックス作用のあるドライハーブを詰めた手作りの香り枕だ。

騎士も、グレースもびっくりしていた。

「クマがいっぱいある……。あまり眠れてないんでしょう?一緒にお昼寝しましょ?」

「……」

「お日様に当たるときっと元気になるわ!」

シャルロットはにっこり笑った。
真下にある少年の顔は、ただただびっくりしているような顔。

シャルロットも膝枕をしたまま、伸びをすると、そのまま布の上に横になった。

母を亡くしてから部屋に閉じこもり、不眠がちで食事も取れないほどふさぎ込んでいたグレースは安らかな顔を浮かべて、シャルロットの膝の上でスヤスヤ眠ってしまった。

騎士は微笑ましそうに幼い2人を見守っていた。


*

「できません」

「そうですか……」


レイター公爵は溜息を吐いた。

クライシア王レイメイはどうしても自分の息子グレースとシャルロットを結婚させたいようだ。
既に宰相をしているミシュウ侯爵の娘リリースとの婚約が内定していたので周りも困惑していた。

「王には私からお話しします。納得してくれるのか、わかりかねますが……」

双子の王はレイター公爵に言った。

「国同士の友好条約や同盟を結ぶのは構いません。同じように痩せた土地を持ち、食糧危機が目下の悩みでる国同士、クライシア大国の工業力や生産力ーーオリヴィア小国の農業技術に加えて東大陸への根強いパイプ。手を結べば、両国にとって大きな発展になるでしょう」

「政略結婚など必要ありません。どうしても、うちの娘と結婚したいと仰るならグレース皇子を婿養子にもらうぞ、そうお伝えくださいな」

「む、無理でございます。グレース皇子はうちの大切な跡継ぎです」

話し合いが終わり、レイター公爵がグレースを探して庭へ出た。
遠くで騎士シモンと、麻布の上で寄り添って日向ぼっこしている小さなシャルロットとグレースの姿を見てーーレイター公爵や双子の王は小さく笑った。

やがて目を覚ました子供たち。

「それではーー」

宿へ帰るために陽が沈む前にオリヴィア小国を発った訪問者。
シャルロットは昨日焼いたクッキーをハンカチに包んで、馬車に乗ったグレースに手渡した。

「元気になったらまた遊びに来てね」

笑顔のシャルロット。
少年の顔も少しだけ緩んでいた。

「ありがとう……」

ずっとお昼寝をしていたから殆ど会話はなかったがーー彼に、前世で残してきた我が子を重ねていた。


(陽太もーー、私が死んじゃって、あんな風に悲しんでいるのかな。どうか、笑顔でいてくれたらいいんだけど……)


夕空を仰いだ。

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