シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

【過去編】転生先はオリヴィア小国のお姫様？シャルロットとお兄様のホームメイド・トンプース

黄金の渓谷

オリヴィア小国の深い森の中。
岩肌が金色に輝いている不思議な渓谷の側には王家が所有する隠れ家がある。

ルートヴィヒ王子とシーズは自分の身体よりも大きな熊を岬に運んだ。
熊は脳震盪で気を失っている。

「すごいですね。素手でこんな巨大な熊を倒すなんて…。さすが伝説のタンザナイトの勇者様だわ」

2人の背後には、変装のために平民の服を身に付けたマギャー国の王妃と従者が立っている。
彼女らは転移魔法でオリヴィア小国へやって来ており、ルートヴィヒ王子を迎えに来ていた。

数日前にこの隠れ家にやって来て、秘密裏に双子の王達とも対面して話し合いを済ませた。

「……シーズ王子、これを熊に飲ませろ」

「それは……」

ペレー国に大昔から引き継がれ、王位継承者が肌身離さず指にはめているシグネットリング。
このリングはとても重要なもので、王子は絶対に何があっても外す事はない。
特殊な魔法で、指輪は王族がはめるとその者の指のサイズにぴったりと変形するし、宝石は所有者の瞳の色へと瞬く間に変色する。容易には抜けたりしない。贋作も不可能。

そしてルートヴィヒ王子は来ていた外套を脱ぐと魔法で切り裂いて川に投げ捨てた。バケツに入った豚の血を撒いた。
用意していた、人骨に見立てた獣の骨も一緒に投げ捨てる。

「この世界にはDNA検査なんかないから偽装死なんて、バレないだろう」

清々しそうな顔をしていた。

「俺はこの渓谷から落ちて事故で死んだ、死体は熊が食べてしまった。俺の主治医が検死し、死亡を確認した。ペレー国や、シャルロットちゃんにはそう伝えてくれ。まあ、偶然クライシア大国のレイター公も居合わせていることだ。ちょうどいい」

偶々居合わせただけなのだがーークライシア大国側の暗殺だと思われたらきっと都合が悪くなるはずだろう。
ルートヴィヒ王子が事故死したと、各国へ必死に説明してくれるはずだ。


「シャルロットくらいには真実を伝えたらどうなんだ？お前が死んだって知ったら、きっと悲しむ」

「いいんだ、これでーー」