シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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【過去編】転生先はオリヴィア小国のお姫様?シャルロットとお兄様のホームメイド・トンプース

転生者仲間

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ルートヴィヒ王子は街の屋台で買ってきた揚げピザをくれた。

安価な茶色の薄力粉で作ったピザ生地を二つに折って、中には蒸したジャガイモやとろっととろけるチーズ詰まってる。
それをこんがりと油で揚げた庶民の間で人気のあるファーストフードだ。

飾り気のない素朴な見た目と味で、B級グルメのようだ。

「美味しいわ!カレーみたいな味がするのね」

子供の舌には、ちょっぴり辛口かもしれない。

「オリヴィア小国って東大陸から移住してきた人も多いだろ。市場でスパイスが安く売られててびっくりしたわ」

「お父様が、東大陸の国にも、うちの大公爵家の領地があるって言ってたわ。そこで茶葉とかスパイスを栽培して西大陸で売ってるそうよ」

北国では冬が近付くとお魚を塩漬けにしたり、獣肉を加工して保存するためにスパイスが欠かせない。
寒い地域ではスパイスを栽培することが難しいため輸入に頼っているのだ。

塩や胡椒は贅沢の象徴。
見栄っ張りな貴族はテーブルにわざわざ塩や胡椒を置いて、お金持ちアピールをするんだと兄から教わった。
そう言えば、前世の日本でもレストランのテーブルの上に塩や胡椒の瓶が置いてあるのはその名残りだと聞いたことがあった。

オリヴィア小国は昔からスパイスなどの品種改良や栽培に力を入れており、今では大量生産が可能になった。
一般的に出回っているものより低価格で高品質だと評判で、庶民やレストラン向けに販路を拡大して薄利多売で利益を得ていた。

(この前、夕食にスープカレーのような料理が出てびっくりしたわ)

街には褐色の肌にエキゾチックな雰囲気の異国風の民もちらほら居るのを見かける。

「ねえ、ルッツ?」

「違うだろ、シャルロットちゃん。俺の事はルッツお兄ちゃんって呼んでって言ったじゃないか」

ルートヴィヒ王子はシャルロットのおでこを軽く指で突いた。

「ルッツ……お兄ちゃん。って、この世界の人じゃないよね?」

シャルロットの言葉にルートヴィヒ王子は一瞬だけビックリした顔をした。

「シャルロットちゃん、それって…どういう意味?」

「うんと……異世界?……あのね、私も異世界から来たのよ、地球の…ニッポンってところよ?」

家族に話しても、お城のお医者さんに話しても誰も理解してくれなかった。

「そうか、シャルロットちゃんも……。俺もそうだよ。ニッポンで通り魔に刺されて死んじゃって、気付けばペレー国の王子だったな」

「やっぱり、そうだったのね?」

見知らぬ異世界で、仲間を見つけてシャルロットはホッとした。

「昔会った精霊が教えてくれた。見えない薄い膜で包まれた星の数ほどの世界があって、それぞれの世界には自分と同じ魂を持った存在がある。この異世界はその一つだって」

「?」

「シャルロット姫様の君も、ニッポンでの君も同じ魂なんだ。何かの拍子で魂がリンクしてしまうことがあるそうだよ」

「ううん……」

「難しい話だよね、俺もわかんない」

「元の世界に帰ることはできないのかしら?」

「それは無理だ。魂の器である肉体が向こうの世界ではもう死んでるだろ」

シャルロットの顔は曇る。
悲しくてポロポロと涙が流れてきた。

「わ、私ね、ニッポンで…高校生……一人息子を遺してきたのよ。老いた両親や兄もいた。アパートの大家さんが飼ってる老犬のお世話もしたの……、サヨナラも言ってないわ。もう、みんなには会えないのね……?」

「大丈夫だよ、シャルロットちゃん。君の魂がこっちの世界にもあるように、君の大切な人達の魂もこの世界には存在してる。きっとまた巡り会える」


ルートヴィヒ王子はギュッとシャルロットの身体を抱きしめて、背中をポンポン叩いた。

「シャルロットちゃん、こうして転生できたのは奇跡だよ」

「奇跡?」

「殆どの人間は死んだらそれで終わりだ。でも、俺たちは違う。もう一度、生きられるんだ。そうしたくてもできない人だっているんだよ」

「でも……」

「君にはやり残したことはないのか?俺にはあったよ」

「それは何?」

「俺の城を建てること!建築家になったのもそれが理由だった。ん~まあ、ニッポンで城を建設できる土地や資金なんか無かったけど、いろんな城巡りをしたり、建てる当てもないのに徹夜で設計図書いたりしてさ。この世界では俺はラッキーなことに王子だった」

「それで城や宮殿を建てていたの?」

「まあね、めちゃくちゃ怒られたけど」

彼は苦笑した。

「シャルロットちゃんは?」

シャルロットは少し考えた後、口を開く。

「平凡で、例え貧乏でも、結婚して家族を持って…子供もたくさん欲しいわ。みんなで手作りの美味しい料理を食べたいの」

「そっか…」

ルートヴィヒ王子の優しい顔。
シャルロットの涙を長い指で拭うと、前髪を上げて おでこにキスをした。

「きっとシャルロットちゃんなら叶うさ」
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