シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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獣人の国・オーギュスト国からの使節団〜ニャンコ王配殿下の焼きたて手作りパン

アルハンゲル王配殿下

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「貴女がシャルロット姫か……?」

 いつのまにか、皆が退室した後の応接間でアルハンゲル王配と2人きりになっていた。
 突然背後からアルハンゲル王配に声を掛けられてシャルロットは振り返る。

「はい?」

 あれ?壁に追いやられてる?
 前世の若い子たちの間で流行ってた“壁ドン”ってやつ!?
 何故自分がオーギュスト国の王配殿下に壁ドンされてるの?

 近付いてくる綺麗な顔、凍てついた氷のような鋭い瞳。
 シャルロットは顔を青くして体を硬直させていた。

 アルハンゲル王配はシャルロットの顔にかかった金色の生え下がりの毛を白い手でたくし上げる。
 露わになった 白い頰には薄っすらと薄紅色の模様が浮かび上がっていた。

「“ドラジェの精霊に祝福されし乙女”………噂は本当だったか」

 ボソッとアルハンゲル王配が呟いた。

「え?」

 ーードラジェの精霊に祝福された乙女は人間ながら幻狼や聖霊の子を受胎できるんだよ。その頬っぺの模様はその証だね。

 いつかのクロウの言葉が脳裏を過る。

「あの?殿下、どうしました?」

「“ドラジェの精霊に祝福されし乙女”が産めるのは何も精霊の子だけじゃない、純血の獣人も産むことができるんだ。それにオリヴィア小国に姫、血筋も悪くない……」

「え?」

「オーギュスト国の王族は血統の純潔性を保つために近親婚をするのは知ってるか?私も亡き王女とイトコ同士で結婚をした」

 何を話してるの?
 シャルロットは呆然とするだけだった。

 オーギュスト国の王族は長いこと女の赤ん坊が産まれなかった。
 王女亡き今、適齢期の娘や女児がいないのだ。
 このままでは王家が途絶えてしまう。

 クライシア大国にやってきて国史の中で触れられたことがあったが、獣人は同じ種族の獣人と基本的には結婚をするらしい。
 魔人や人間と結婚して子を作った場合にはハーフの子が産まれる。
 魔人とウサギの獣人の間に産まれたキャロルがそれだ。

 血統重視の獣人という種族の間では忌み嫌われる存在らしい。
 異なる種族同士で子を成すとミックスが産まれる。違う種族の間だとそもそも子を成すのが不可能ではないが難しい。
 

 ところが、“ドラジェの精霊に祝福されし乙女”は生粋な精霊や純血の獣人の子を高確率で産める特異体質。


「姫、俺の子を産め」


 真剣な目で貫ぬくようにシャルロットを見据え、はっきりとした言葉で言った。
 シャルロットは目を見開いた。

「お断りします!意味がわかりませんわ!急になんなんですか!あり得ませんっ」

 シャルロットはアルハンゲル王配の胸を突き押した。
 そして扉に向かって逃げる。

「姫様?いかがされた?」


 部屋の外からシャルロットの護衛をしていた騎士のアダムがやってきた。
 シャルロットは眉をひそめてアルハンゲル王配を見た。

「決定事項だ。覚えておけ」

 アルハンゲル王配は冷徹な顔を崩さず言い切ると部屋を出て行った。
 冬雷のような人だとシャルロットは思った。
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