シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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シャルロットと双子の王様〜結婚は認めない?シャルロットの兄とグレース皇子の決闘

恋の芽生え?

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「わぁ~ ビオラ様のケーキ、美味しそう!」

 アルーが頬を染めてビオラのベイクドチーズケーキを見つめる。
 シャルロットに言われるがまま作った初めてのケーキ、出来は上々、その上褒めてもらえてビオラも嬉しくて笑顔になる。

「アルー様たちのケーキも美味しそうです」

 リサはマドレーヌ、アルーはマフィン、レイはフロランタンをそれぞれ完成させていた。
 その後 5人の乙女は厨房で茶を飲みながらささやかな“女子会”なるものを開いた。
 シャルロットの護衛のアダムも混ざっているが。

 今日のお茶は犬薔薇祭りで贈ってもらった犬薔薇の実で作った、ハチミツ入りのローズヒップティーだ。

「あの、……ありがとうございます!素敵な会に招いてもらえて嬉しいです」

 ビオラは感激してまた目を潤ませていた。
 どうやら泣き上戸らしい。

「そうね、素敵な会だわ!また皆さんでお菓子作りしましょうよ」

 レイが楽しそうにはしゃいだ。
 シャルロットは頷いた。

「……あのっ、私も参加してもよろしいでしょうか?……迷惑でしたら良いんですが……、私なんかが……すみません」

 萎縮するビオラに三人娘は笑顔でフレンドリーに言った。

「もちろんよ!」

「ビオラ様が料理中お話ししてたタロット占いの話が気になるわ、今度占ってもらえるかしら?」

「ええ!私なんかでよければ」

 女子会は終始和やかなムード。
 シャルロットも笑顔になった。

 *

「シャルロット様……やっぱり、私……」

 迎賓館の前まで来てビオラはシャルロットの背中に隠れて躊躇する。

「大丈夫よ、頑張ってね」

 迎賓館の侍女が玄関までビオラを迎えに来た。
 ビオラはガチガチに緊張した様子で侍女に案内されホールの大きな階段を上がってく。
 時折不安げな顔で後ろを振り返る。

 左王が控える応接間の扉の前でビオラは大きく深呼吸した。

 シーズとは初対面だ。姿も肖像画でしか見たことないし、どんな人物なのかも伝え聞いた話でしか知らない。
 でも内気で気弱なビオラには昔から彼はヒーローのような存在だった。
 引きこもりがちなビオラはクッキーを頑張って作って、苦手だった城にもやってきた。
 そうしたところで会えるとは思ってなかったけど……

 侍女が扉を開けて中へ通してくれた。
 ソファーに金髪のウルフヘアにゾイサイトのような青い瞳をした青年が座っていた。
 肖像画そのもの、いや、現物のシーズ様は肖像画以上にキラキラしてて美しいわ。

「こんにちは、シャルロットのお友達だって?」

 左王はソファーから立ち上がり軽く会釈をするとヘラッと笑った。
 肖像画の彼は無機質な雰囲気でしかめっ面ばかりだが、目の前の左王は想像してたより笑顔だし声色も優しく、物腰も柔らかくて温和そうな雰囲気の男性だ。
 初対面の見ず知らずの令嬢のビオラにも友好的に対応してくれる。

「あの……、ビオラです、申し訳ございませんっ……お忙しいところお時間をいただき……」

「いや、いいよ。それよりケーキ焼いてくれたんだって?私、甘いもの大好きなんだよね!」

「今は犬薔薇祭りの期間ですし、シーズ様なら手に余るほどもらってるのではありませんか?」

「あははは~、恥ずかしながら、妹と母にしかもらったことないよ。今妹と兄妹喧嘩中でさ、今年は妹にももらえなさそうだから嬉しいなあ!」

 人当たりのいい陽気な笑顔にビオラの緊張は解ける。

「あっ、そうだ、君もホットミルク飲むかい?外は寒かっただろう」
「……いただきます」

 左王は鼻歌を歌いながらポットに入った温かいミルクをカップに注ぎ、ハチミツを入れてティースプーンでクルクルと混ぜた。
 淹れてくれたホットミルクを飲むと、温かくて甘くてホッとした。

「おいしいです」

「でしょう!私はコーヒーや紅茶より、ハチミツをたっぷり入れた甘~いホットミルク派なんだ」

「ふふ、意外だわ」
 成人した大人の男性にこう思うのは失礼かもしれないが、可愛い……、ビオラは笑った。

「あの…私、チーズケーキを作ったんです。お口に合うと良いんですが……」
 ケーキを切り分け小皿に乗せて左王に渡す。

「ありがとう~、うん、おいしい!クッキー生地もサクサクだ」

「よかった!」

「それより、そのケープを脱いだらどうだい?室内だと暑いだろう」

 すぐそばに暖炉があって暖かい。
 左王はずっと外套を着たままのビオラを不思議に思っていた。
 王から脱ぐように言われて脱がないわけにはいかなかった。

 ビオラは顔を真っ青にして俯きながらゆっくりケープを脱ぐ。
 頬の外側から首元にかけて白い肌に不似合いな火傷痕があった。

「きっ 気持ち悪いですよね……こんな……」

 剥き出しの火傷痕が気になってビオラはせめて手のひらで覆って隠した。
 左王は明るい笑顔を少しも崩さす笑い返した。

「それ、どうしたの?」

「数年前、屋敷の物置小屋で火事があって……、弟が燃えた柱の下敷きになりそうになって……私…無我夢中で助けに飛び出したんです、その時に左半身に火傷を負ったんです」

「へえ」

 恐る恐る左王の顔を見るが、そこには少しも憐憫や侮蔑や同情の色はない。
 ただ穏やかに笑ってる。

 嫁入り前の娘が身体に大きな火傷を負って、同年代の令嬢たちには憐れみの目や侮辱の目で見られるし、わざわざ傷のついた娘を嫁にもらってくれるような貴族もいない。
 ここ2年近くは社交界デビューの年齢が過ぎてもずっと屋敷に引きこもっていた。

「強いお姉さんなんだな!」

「え?」

「私なんか子供の頃、山でイノシシに襲われて小さい妹を置いて1人で全力疾走で一目散に逃げちゃったよ」

 自嘲気味に笑う左王。
 ビオラは拍子抜けた。

「勇者のシーズ様でもそんなことがあるの?」

「え!?あっ!うん!シーズも同じ人間だよ!みんなが思ってるほどすごい男ではないぞ!?ケチだし嫌味だし冷たいし!」

「そんな謙遜を……」

「兄弟を命懸けで庇った傷なんてさ、勲章じゃん!誇るべきだろう!」

「シーズ様……」

 そんなことを言ってくれる人は初めてだ。
 ビオラは嬉しくてポロポロと涙をこぼした。
 左王は焦る。

「え?はえ?どしたの!?」

「ありがとうございます、シーズ様。……シーズ様ってずっとお強くて気高いイメージでしたが、なんだかこのホットミルクみたいです。温かくて、ホッとします。私は遠くで見ていたシーズさまより、今日会った近くで見るシーズ様の方が好きです」

 目を潤ませながら可愛らしい令嬢に好きだと言われて赤面した左王。
 思いがけず流れで感情的に愛の告白をしてしまったビオラ、もう後には引けないと窮鼠のごとく意を決して眉尻を上げ、じっと左王の目を見つめる。

「はは、物好きなお嬢さんだな。そんな事言う令嬢なんて君が初めてだよ。本当はイメージと違ってがっかりしたろう?」

「そんな事ありません!…心から目の前の貴方をお慕いしております」

 左王は花瓶に飾られてあった乙女椿の花を手折り、ビオラに差し出し白い歯を見せて笑った。

「犬薔薇じゃないが……ケーキの礼に受け取ってくれ」

「ありがとうございます」

「はは、よく似合ってる」

 ピンク色で重弁の乙女椿を手に笑うビオラを左王は見つめた。
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