シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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シャルロットと双子の王様〜結婚は認めない?シャルロットの兄とグレース皇子の決闘

勝負の行方②

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 クロウはシャルロットの腕の中から飛び降りて一目散にグレース皇子に駆け寄った。

 グレース皇子は茫然自失、と言ったところだ。そのグレース皇子の周りをクゥンクゥンと悲鳴をあげながら心配そうに駆け回った。
 右王は何も言わずに背筋を伸ばして立ち、グレース皇子を見降ろしている。

 グレース皇子の剣の腕は確かだ。
 産まれもった剣の才能と努力で鍛え上げた身体能力と精神力で大人になった今では負け知らず。
 生まれた時から挫折を知らない真面目な優等生のタイプの皇子だ。ここまでこてんぱんにされて、メンタル的に大丈夫なのだろうか?とクロウは不安になった。

「シーズ!よくやった!!ブラボーッ」

 右王が左王に抱き着いた。
 左王は無反応だ。

「これで約束通りシャルロットを連れて帰れるなぁ!」

「ーーいや、無理だろう」

 左王は即答する。

「ん?」

「誓約書に“シャリー”が彼に勝った場合は、と書いておいたぞ。実際に皇子に勝ったのは私“シーズ”だ。入れ替わったところで無駄なのだ。意見したってどうせ そこを突っ込まれるだけだ」

「え~~!?お前…珍しく私の意見に賛同したと思ってたが、さてはーーただ単に、久しぶりに剣を振るいたかっただけだな!?」

 嘆く右王を、左王は冷めた目で見ていた。
 すると突然グレース皇子が立ち上がり、左王に勢いよく近付いた。


「流石はタンザナイトの勇者だ……!……噂に聞いていた以上の見事な太刀筋であった!師匠と呼ばせてください!」

 いつになくハイテンションなグレース皇子にクロウは驚いた。
 負けて気が狂ってしまったか?目を点にして彼を凝視した。
 ヒーローを目の前にした五歳児のような曇りない煌めく眼で左王を見つめるグレース皇子。

「師匠は寒いからやめてくれ、義兄でいい」

「お義兄様!」

 グレース皇子は固く左王の手を握った。

「シーズ!?」

 不満そうに左王の横顔を見つめる右王。

「可愛い義弟じゃないか」

「可愛くないわい!我が国からシャルロット強奪した男なんか!」

「いい加減にしないと、シャルロットに嫌われるぞ」

「ハッ……!ぐう~~!」

 右王は痛いところを突かれて押し黙る。
 そんな右王に向かってグレース皇子は毅然とした態度ではっきりと言った。

「勝負には負けてしまったがーーシャルロット姫との婚約は諦めない!!……左王を越えられるように精進してまいります。姫を守れるような…強い男になります!だから、お義兄様、俺を認めてもらえないだろうか?」

「ふ、ふんっ、うちの左王は世界一強い王なのだ!お前が努力したところで足元にも及ばんわ!」

 苦し紛れに叫び、どや顔をする右王。

「シャリーお兄様は世界一貧弱な王様ですけどね」

 グレース皇子の隣に立ったシャルロットは苦笑した。

「シャルロットの護衛はシーズだけで間に合ってる!よって、お前の出番などな~い!」

 右王は更にドヤる。

「……右王」

 グレース皇子はしゅんとする。

「“守る”のは間に合ってる、この国には優秀な騎士も揃っているんだろう。皇子であるお前は、シャルロットを絶対“幸せ”にしてやれ!約束できるなら妹はくれてやる」

「はいーー!」

 右王はハッキリと述べた。
 グレース皇子は威勢のいい返事を返した。

「お言葉ですがお兄様、グレース様」

 ここでシャルロットが口を挟んだ。

「わたしは誰かに守ってもらったり、幸せにしてもらわないといけないほど大人しくてか弱い姫ではありませんわ」

 見た目はなんの変哲も無い十五歳の少女だけど、前世の記憶もあるから精神的には中年女性よ。
 前世は息子もいたし夫の死後はシングルマザーでバリバリ働いた、年の功ってやつもあるのよ。
 それにオリヴィア小国では幼い頃から畑仕事も、おさんどんも力仕事もやってたから普通の少女よりは体力も力もあるわ。
 田舎育ちだからミミズやカエルや蛇だって素手で触れるのよ。

 少なくともウリ坊で泣きながら逃げ出すシャリーお兄様よりは強いわ!

「私もグレース様を守るし幸せにできるように努力しますわ!クロウのことも、騎士団の方やこの国の方たちも」

 シャルロットはにっこりと笑った。
 グレース皇子はシャルロットを愛おしそうに見つめ微笑む。


「納得していただけたか?シャリー大公」

 それまで遠くの王座で傍観していたクライシア王がシャルロット達の側までゆっくり歩いてやって来た。
 隣にコボルトを引き連れて穏やかに笑ってる。

「ーー私とシャルロット姫とは十年前に一度会ったことがあるな」

「え?……」

「私の妻の葬儀に参加するために、オリヴィア小国からこの国にやってきたではないか」

 朧げな記憶が頭を霞む。
 五歳だったシャルロットは父と母に連れられてクライシア大国を訪れていた。
 クライシア大国の王妃様の葬儀に参列していた。
 当時、既に前世の記憶はあったシャルロットは大人しく式に参加していた。
 長い長い式の後 要人と長い立ち話をしている父母の元をこっそりと離れて、お菓子を持ち出して沢山の美しいバラが咲く庭園に入り込んだのだ。

 ガゼボで一人で啜り泣く男と出会った。
 色素の薄い短髪と瞳、太い眉、青白い顔に黒衣を纏った背の高い紳士。
 王妃様の死を悼んでいた。

 王妃様とは面識がなく、葬式にしては華やかで豪華過ぎる王族の葬式に唖然とするばかり。
   葬儀中は何の感情もわかなかったが、ふと前世で夫を亡くした時の自分の姿と重なりーー彼の涙に同調してシャルロットも泣いてしまった。

 突然傍らにやってきて泣き出した幼女に戸惑って、黒衣の紳士の涙はひっ込んだ。

 悲しげに泣いている彼に何か言葉をかけたかったのに、逆に彼から気を遣われてしまった。
 それから黒衣の紳士の膝の上に乗せてもらって、お菓子を二人で食べた。

 クライシア大国に来る前に作ってきた干しぶどうとクルミの入ったパウンドケーキ。
 黒衣の紳士はケーキを手で割って口に運んだ。

「……美味しい」

「元気が出ないときは甘くて美味しいものを食べるのが一番だわ。お菓子には幸せな魔法がこもってるの!」

「……そうか、私の妻も同じ事をいつも言ってたな。確かに少し元気が出たよ…ありがとう、お嬢さん」

 何を語り合うでもなく、二人で黙々とケーキを食べた。
 その後ガゼボにやってきたお城の侍女がやけに真っ青な顔をして私を彼から引き剥がし、ペコペコ頭を下げてすぐに別れたが…。

 あの黒衣の紳士がクライシア王だったとは……。

「あの女の子がオリヴィア小国の姫だと言うことを知ったのは半年前だ。是非うちのグレースの婚約者にと、そなたの父母に申したのに渋られたんだ。そこで仕方なく実力行使をさせてもらったのだよ」

(クライシア大国がオリヴィア小国に攻め入ってきたって話は、わたしが原因だったの!?)

 シャルロットは愕然とした。

「……だが、そなたの気持ちも、グレースの気持ちも尊重したかった、だから婚約までに時間を置いたんだが間違いではなかったな」

 強引過ぎるが、こうしてグレース皇子と出会えて、前世の夫であるクロウやユーシンとも再会を果たせた。
 結果オーライってやつかしら?

 シャルロットは笑った。
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