シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

文字の大きさ
上 下
7 / 262
【過去編】転生先はオリヴィア小国のお姫様?シャルロットとお兄様のホームメイド・トンプース

お姫様のルーティーン

しおりを挟む
 昼過ぎ、シャルロットはお城の裏手にいた。
 兄のシーズが生きたガチョウを数羽黙々と捌いていたので見学していた。

 シャルロットがビクビクしながら、少し遠巻きに解体作業を見守る。
 昨日の朝、シャルロットが餌を与えていたお尻の毛が少し禿げていた大きなガチョウだ。城の中で飼育している家畜で、毎朝の餌やりはシャルロットの役割だった。

「お兄様、そのガチョウ……」

「今夜の飯だ」

 何の感情も無さそうな顔で、兄は淡々とガチョウの羽根を慣れた手付きで削ぎ落としている。
 シャルロットの顔は真っ青で言葉が出なかった。

 この世界にはスーパーマーケットは無いし、お肉屋さんはあるけど街にある。
 オリヴィア小国のお城は広くて要塞も兼ねているので、有事の際に食糧を確保する為に、一画で野菜を作ったり卵や家畜も飼育していて自給自足していた。

 平民達も家の庭で鶏を飼ってて、卵を採ったり捌いてお肉にして食べるのは普通のことらしい。

「か、かわいそう」

「可哀想でも、生きる為には食べなきゃいけないんだ」

「そうね……」

 お肉なんて、お店で売られているパック詰めの生肉の状態しか目にしたことはないし、調理したことがなくて、あまり深く考えたことがなかった。

「あの……お兄様、私にも捌き方教えて欲しいの」

「え?」

「お前、見るのも嫌がってたろ」

「ううん、やるわ」

「…ん、おいで。シャルロット」

 兄は手招いた。
 シャルロットを自分の身体の前に座らせ、後ろからシャルロットを抱き込むような姿勢でお肉を捌き始めた。
 そして、ぶっきらぼうな口調だけど、ゆっくりとした動作で丁寧に説明してくれる。

 ーーもう一つの日課。
 早朝、鶏舎でニワトリに餌を与え、産みたての卵を回収するのもシャルロットのお仕事。
 鶏舎では管理人のおじさんがせっせと掃除していた。

 オリヴィア小国の王家の家訓は『働かざる者食うべからず』ーーこれは先祖であるオリヴァー大公爵・精霊王が決めた。
 だからこの国の人たちは太陽よりも早く起きて、とてもよく働く。

「きゃっ!」

 卵を取ろうと手を伸ばしたらニワトリに手の甲を突かれた。

「はは、大丈夫か?シャルロット」

「ええ……」

 シャルロットは手に取った卵を見つめた。

「産みたての卵ってかなり熱いのね。茹でたてのゆで卵みたい。これ…中身は固まって無いの?」

 産みたて卵も初めて目にするシャルロットは、興味津々。

「うん、生卵だよ」

 お姫様の一日のスケジュール。
 毎朝まだ空が真っ暗な時に起きて簡単な畑仕事や鶏舎、家畜のお世話。
 午前中は家庭教師の先生がお城にやって来てホームスクーリング。外国語を習ったり、数学や歴史のお勉強。
 この世界の王族や貴族の子供は学校へ通うより、家庭教師を付けるのが一般的だそうだ。

 お昼は軽く済ませて、午後はプリンセス・レッスンと呼ばれる時間。
 ピアノやヴァイオリンを習ったり、ダンス、社交術、礼儀作法や言葉遣いなど日替わりで習う。

 やっと自由な時間になるのは夕方以降。

「お姫様ってなんとなく毎日遊んで暮らせるものだと思ってたわ」

 シャルロットは城の窓から遠くにあるチューリップ畑を眺めていた。

「シャルロットちゃん!」

 下から自分を呼ぶ声がして、視線を下ろした。
 ルートヴィヒ王子が笑顔で手を振っていた。

「お菓子をあげるから、お兄ちゃんと遊ばないか?」

「変質者みたいな誘い方ね!?」

 わざわざペレー国から主治医まで呼び付けて、病気で調子が良くないからしばらくこの国で静養すると言っていたがーー顔色は良いし元気そうだ。

「待って。今そこへ行くわ」

 ーー兄達には変態には近寄るなと注意されていたけれど…。
 だが、シャルロットは彼と2人で話したいこともあったので、彼の元へ向かった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...