シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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ワガママ王子様の更生プログラム〜ミレンハン国の俺様王子、騎士団で職業体験する

厳しい朝の練習

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ーー翌朝。

「ハァ……ハァハァ……」

 息を切らしゲーテ王子は走っていた。
 早朝のランニングは第二騎士団の日課なのだが、慣れないゲーテ王子は城の外周2周目でダウン。

「大丈夫か?」

 道端にへたれたゲーテ王子をユーシンが気に掛ける。
 チワワ姿のクロウもランニングに参加しているが、走る騎士たちを縫うようにどんどん追い抜いていく。
   それにグレース皇子も続く。

「どうしたの?」

 最後尾を走っていたシャルロットがようやく立ち止まっているユーシンと道端に座り込むゲーテ王子に追いついた。
 長い髪をまとめて、動きやすそうな薄紅色のスモックと同系色のキュロットという軽装で、姫にあるまじき格好をしてランニングに参加していた。

「お前も、何でわざわざ参加してるんだよ」

「たまにはいいじゃない。みんなに置いていかれちゃうかしらって思ってたけど、ゲーテ王子と並んで走れそうだわ」

「なんだと!!」

「最初からぶっ飛ばすから疲れるんだぞ~」

 あはははと穏やかに笑うユーシンにゲーテ王子はムッとしつつもまたゆっくりと走り出した。

「走った後はシャルルさんの美味しい朝ごはんが待ってるぞ!あと5周頑張ろう」

「ふん。詰め所の飯だけは悪くない」

 ゲーテ王子は殆どの時間を騎士と共に過ごしていた。

 部屋はユーシンと同室、三度の飯も食堂で、もちろん平等に当番もある。
 高飛車で俺様な性格ではあるが根明で素直なところもあり、大らかな性格だ。
もともとフレンドリーな同年代の騎士達と今ではすっかり打ち明けて仲良くなっていた。

「今日は魚か」

 グレース皇子はまじまじと皿を見つめていた。

 シャルロットの母国は海が近かったが、クライシア大国のお城は海から遠い山間部に位置する。
 冷蔵庫や運搬技術もない世界だ、魚を食べる習慣がほとんどなかった。
 第二騎士団は野営で川魚を食べることもあるようだが……。

「ミレンハン国から沢山の干物や鰹節や塩蔵ワカメをいただいたの!それにコボルトさんからはお醤油や味噌も。なので、今日はアジの干物のアクアパッツァと春菊とキノコのお浸し、それから落とし卵のお味噌汁です」

 ミレンハン国は南の沿海部に位置する。
 漁業や貿易が盛んな国らしい。


「シャルルさんのお味噌汁、久しぶりだ!」

 ユーシンは大喜びしてくれた。
 久しぶりどころかシャルロットもこの世界に来てから初めて作るのだ。

「鰹節が入手できてすごく嬉しかったですわ!」

「俺様の国へ来たらこんな乾き物ではなく新鮮な海産物が食べ放題だぞ。どうだ、俺様の城の料理人に転職する気になったか?」

 自慢げにゲーテ王子は鼻を高くして高笑いした。

「なりません。でも、機会があれば一度お伺いしたいですわ。やっぱり国が違うと食べ物も違うのよね。姫という立場でなければ旅もしたかったわ」

 前世でも夫が健在の頃は日本各地を旅行していたっけ。

「じゃあ、あんなつまらない皇子は辞めて俺様の妻になるか?お前が行きたいのなら遠い大陸でも大陸最西端のあの有名な湖の国でもどこにでも連れてってやるぞ」

 フフンと隣で勝ち気に笑うゲーテ王子の前に、おっかない表情のグレース皇子がズカズカと歩いてきて2人の間に荒っぽく割り込んできた。

「人の婚約者を口説くのは辞めていただけないだろうか?」

「グレース様……」

 振り返ったグレース皇子と目が合うシャルロット。
 シャルロットの顔を見て、急に気恥ずかしくなったのか頬を染めてパッと顔を反らした。

「チッ、婚約が内定しているだけだろう」

「ゲーテ王子、あなたは今婚約など呑気なことを言っている立場ではないだろ。廃太子になるかもしれないのに」

「そんなの……俺様がすぐに廃案にしてやるから問題はない。必ずアンタを妻か俺様専属の料理人として俺の国に連れて帰るぜ。グリムにもこの前食べたドーナツを食べさせてやりたいしよ」

 強気な態度にシャルロットは唖然とした。

「勝手に決めないでくださいませ!ドーナツならいくらでも作ってあげますから」

「フン、お前、その言葉忘れるんじゃねーぞ!」

 厄介な人物の胃袋を掴んだものだ……。
 蚊帳の外で見ていたユーシンは心の中で呟いた。
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