シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

文字の大きさ
上 下
49 / 262
ワガママ王子様の更生プログラム〜ミレンハン国の俺様王子、騎士団で職業体験する

ドレスアップ

しおりを挟む
-ミレンハン国 宮殿 大殿

「……これはなんの真似かな?」

 グリムはニッコリと笑いながら声を凄め、真っ赤な絨毯の上に淹れたての紅茶を注いでいた。
 侍女が顔面蒼白しながら脚と顎をガクガク大きく震わせていた。

「毒を盛るのが侍女の仕事だったかな?」

「……ち、ちがうんです!わ、わ、私は頼まれただけです!ほんとは嫌だったんです!でもっ……」

「あははは、僕の殺害計画とかそんな重要な話を宮殿内でするべきではなかったよね。間抜けな暗殺者さん?ごめんね?僕ってば地獄耳なんだ」

「ヒィッ」

 グリムは笑ったまま部屋の隅に立っていた騎士2人に目配せをした。
 騎士たちは黙って立ち竦む侍女を捕らえた。

「とうとう手段を選ばなくなってきましたね」

 ハァっとグリムは深い息を吐いた。

「グリムさん!」

 侍女を連れて出て行く騎士たちと入れ違いで秘書が緊迫した様子で部屋に入ってきた。

「チッ…思ったより早く王子の居場所を勘付かれたか。雑魚のくせになかなか聡い奴らですね」

 グリムは立ち上がり、すぐさま秘書に指示を出した。

「馬車を出せ、クライシア大国へ向かうぞ。君は城のネズミたちの駆除を頼むよ」

*

 ーーシャルロットの私室。

「とてもよく似合っております、シャルロット様」

 侍女のリディが笑う。
 リディの周りにいる侍女たちもウンウンと頷くのでシャルロットは少し照れたように笑った。

「ありがとう」

 今夜クライシア大国の城で行われる舞踏会のためにグレース皇子からプレゼントしていただいたオートクチュールの淡い黄色と白を基調としたベルラインの可愛らしいドレス。

 髪にはクロウが作ってくれたライムグリーンのアナベルの花のコサージュと、六芒星のイヤリングと天然石のネックレス。
 それからコーラルピンクのヘルシーな色味の口紅を引き、髪もテールアップに整えてもらい着飾ったシャルロット。

「なんだか落ち着かないわ、普段はほとんどお仕着せかシンプルなワンピースだから」

「シャルロット様は無頓着すぎるわ。せっかく容姿もお可愛らしいのに」

 リディは不満そうに苦笑い。
 自国に居た頃は毎日母やリディの着せ替え人形にされていたっけ、シャルロットは思い出し笑った。
 前世からファッションには疎いシャルロット。
 昔も最低限の薄化粧だったし、服を買うのも機能性や動きやすさ重視だった。

 準備が整ったところで私室の扉がノックされた。
 入室してきたのは第一騎士団のキャロルと、キャロルの腕に抱かれた黒チワワのクロウだった。

「姫様、お迎えにあがりまし……」

「わぁ!シャルロット!可愛い!」

「わっ」

 キャロルの挨拶を遮って黒チワワはシャルロットに思い切り飛びついた。
 シャルロットは不意打ちと慣れないヒールの靴でうっかりよろめいた。
 キャロルは咄嗟に黒チワワの首根っこを捕まえ回収し、後ろに倒れそうになったシャルロットを腰に腕を回し支える。

「ありがとう、キャロルさん」

「もっ……申し訳ございませんっっ」

 倒れるのを防ぐ為だったとはいえシャルロットを抱き寄せる体勢になってしまったことに今更気付いて、キャロルは顔を真っ赤にして思い切り頭を下げた。

「いいえ、悪いのは突進してきたクロウですわ。転倒せずにすみました。ありがとう」

 ドラジェの精霊の祝福を受けて以後、今までは城内であれば自由に行動ができたのだがーー今後はどこへ行くのも第一騎士団のキャロルとアダムの護衛が必須となった。

「幻狼の私が居れば護衛なんて要らないのにねえ」

「チワワの姿で言われても説得力ありませんわ。まあ、でも、護衛は大袈裟よね」

「何を仰います、“ドラジェの精霊の祝福を受けた乙女”はどの国も喉から手が出るほど欲しがる貴重な存在です。まだ公になってはいませんが、既に噂も広がりつつあります。もし姫様が誘拐でもされたら……」

「うーん……そ、そうなの……」

 力説してくるキャロルに押されてシャルロットは頷いた。

「あ!キャロルさん、まだ夜の舞踏会にはお時間ありますわよね?庭園のガゼボでお茶でもどうかしら?リディ、よろしくね」

「了解しました」

 シャルロットはキャロルの腕を引きニコニコ笑いながらバラ庭園を目指した。

「姫様?」

   キャロルは困惑している。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...