38 / 262
*シャルロット姫と食卓外交
クロウの悲しみ
しおりを挟む
「里緒……?」
城から一枚のワンピースを見繕ってきたクロウだが、湖にはもうシャルロットの姿はどこにもなかった。
目を見開き、幻狼の姿に戻ると必死で辺りを探し回った。
「里緒!?どこ行ったんだい?」
胸がざわめく。
心臓が張り裂けてしまいそうだ。
「里緒……っ!!!」
林の中を狂ったように駆け回り何度も何度も名前を呼ぶ。
木の枝が身体に刺さろうが岩にぶつかろうが無我夢中で走った。
ーーなんで?
ーー里緒の気配が探れない?消されてる?
ーー魔法?
ーーそれとも最初から全部幻だったのか?
ーーいや、幻じゃない、里緒は確かに居た。
黄金に輝く瞳からボロボロと涙が溢れる。
長い月日会いたいと願って会えなくて、やっと会えたのにまた離れ離れになってしまうのか?
ーー嫌だ。独りは嫌だ、独りにしないで、
クロウの遠吠えが、静寂に包まれた林道に虚しく響く。
「こら、馬鹿犬」
尻尾を垂れ下げて途方に暮れていたクロウの前に、背の高い雑草を掻き分けグレース皇子や第二騎士団の騎士たちが現れた。
「彼女は騎士達が保護した、お前もさっさと帰るぞ」
「ーー里緒は?」
「はぁ?」
「グレースが連れて行っちゃったの!?」
「何を言ってるんだ?」
クロウはグレース皇子に向かって牙を剥いて威嚇をした。
黒い靄がクロウを取り囲む。黄金の瞳は真っ赤に変色し、クロウは既に正気を失っていた。
グレース皇子はハッと目を見開いて、すぐさま後ろにいる第二騎士団に命じた。
「お前ら、皆下がれ!!」
「皇子!?」
「良いから!下がれ!」
幻狼と契約者は一切の感覚を共有する。
だからグレース皇子はいち早くその異変に気付いた。
憎悪、激しい怒り、悲しみ。
クロウの感情がグレース皇子の中にも流れてきた。
目の前のクロウはもはや化け物と化していた。
投げ掛ける言葉も届かない。
突然見えない何かが爆発したかのように空気の圧が皇子や騎士らを襲う。
「くっ……」
「グレース!」
勢いよく飛ばされたグレース皇子の体を、ユーシンが起こす。
「どういう事だ?クロウが暴走している?」
コハン団長は愕然としていた。
グレース皇子はユーシンの腕を振りほどき、凶暴化したクロウにしがみついた。
「おい!クロウ!目を覚ませ!」
名を呼んでも届かない。
身体を大きく揺さぶりグレース皇子を振り解こうとしている。
ユーシンは共に持ってた魔法のかかった太い縄を幻狼の身体に巻きつけた。
だが幻狼に一般的な魔道具は通用しない。
縄はたちまち粉々に千切れ、ユーシンは地面に叩きつけられた。
「わぁっ!」
ユーシンの悲鳴が上がる。
その一瞬だった、クロウがユーシンを見ながら動きを止めたのだ。
瞳の色が黄金色に戻る。
グレース皇子はその一瞬を見逃さなかった。
早口で風の呪文を唱え、クロウの胴体を風の鎖で雁字搦めにしたのだ。
更に呪文を続けると地面から太い木の根が飛び出しクロウの四股と口を拘束した。
クロウは苦しそうにジタバタと暴れ出す。
「やめて……!」
木の茂みに身を隠していたシャルロットがグレース皇子の前に飛び出して来た。
その後をアダムや合流していた第一騎士団の騎士たちが追いかけてくる。
人間のシャルロットには幻狼の姿は視えないが、
クロウの悲しげな鳴き声や自分の名前を呼ぶ声が聞こえて居ても立っても居られなくなったのだ。
「私はここにいるわ!」
「シャルルさん…!?危ないです!」
ユーシンは慌ててクロウに近付くシャルロットを制止する。
シャルロットは構わず前に出た。
「何も言わずに居なくなってごめんね。でもずっとあの塔に居るのは良くないと思ったの。それでも、ちゃんとあなたが納得してくれるまで話し合えばよかったわね。不安にさせてごめんなさい」
手探りで視えないクロウの姿を探す。
クロウは伸びて来たシャルロットの手のひらに大人しく頬を寄せた。
何かが手のひらに触れている感触がシャルロットに伝わる。
「里緒……」
「私はどこへも行かないわ、だから、ね?一緒にお城へ帰りましょう?」
クロウの目からボロボロと大粒の涙が溢れでた。
グレース皇子はクロウを拘束していた魔法をそっと解いた。
城から一枚のワンピースを見繕ってきたクロウだが、湖にはもうシャルロットの姿はどこにもなかった。
目を見開き、幻狼の姿に戻ると必死で辺りを探し回った。
「里緒!?どこ行ったんだい?」
胸がざわめく。
心臓が張り裂けてしまいそうだ。
「里緒……っ!!!」
林の中を狂ったように駆け回り何度も何度も名前を呼ぶ。
木の枝が身体に刺さろうが岩にぶつかろうが無我夢中で走った。
ーーなんで?
ーー里緒の気配が探れない?消されてる?
ーー魔法?
ーーそれとも最初から全部幻だったのか?
ーーいや、幻じゃない、里緒は確かに居た。
黄金に輝く瞳からボロボロと涙が溢れる。
長い月日会いたいと願って会えなくて、やっと会えたのにまた離れ離れになってしまうのか?
ーー嫌だ。独りは嫌だ、独りにしないで、
クロウの遠吠えが、静寂に包まれた林道に虚しく響く。
「こら、馬鹿犬」
尻尾を垂れ下げて途方に暮れていたクロウの前に、背の高い雑草を掻き分けグレース皇子や第二騎士団の騎士たちが現れた。
「彼女は騎士達が保護した、お前もさっさと帰るぞ」
「ーー里緒は?」
「はぁ?」
「グレースが連れて行っちゃったの!?」
「何を言ってるんだ?」
クロウはグレース皇子に向かって牙を剥いて威嚇をした。
黒い靄がクロウを取り囲む。黄金の瞳は真っ赤に変色し、クロウは既に正気を失っていた。
グレース皇子はハッと目を見開いて、すぐさま後ろにいる第二騎士団に命じた。
「お前ら、皆下がれ!!」
「皇子!?」
「良いから!下がれ!」
幻狼と契約者は一切の感覚を共有する。
だからグレース皇子はいち早くその異変に気付いた。
憎悪、激しい怒り、悲しみ。
クロウの感情がグレース皇子の中にも流れてきた。
目の前のクロウはもはや化け物と化していた。
投げ掛ける言葉も届かない。
突然見えない何かが爆発したかのように空気の圧が皇子や騎士らを襲う。
「くっ……」
「グレース!」
勢いよく飛ばされたグレース皇子の体を、ユーシンが起こす。
「どういう事だ?クロウが暴走している?」
コハン団長は愕然としていた。
グレース皇子はユーシンの腕を振りほどき、凶暴化したクロウにしがみついた。
「おい!クロウ!目を覚ませ!」
名を呼んでも届かない。
身体を大きく揺さぶりグレース皇子を振り解こうとしている。
ユーシンは共に持ってた魔法のかかった太い縄を幻狼の身体に巻きつけた。
だが幻狼に一般的な魔道具は通用しない。
縄はたちまち粉々に千切れ、ユーシンは地面に叩きつけられた。
「わぁっ!」
ユーシンの悲鳴が上がる。
その一瞬だった、クロウがユーシンを見ながら動きを止めたのだ。
瞳の色が黄金色に戻る。
グレース皇子はその一瞬を見逃さなかった。
早口で風の呪文を唱え、クロウの胴体を風の鎖で雁字搦めにしたのだ。
更に呪文を続けると地面から太い木の根が飛び出しクロウの四股と口を拘束した。
クロウは苦しそうにジタバタと暴れ出す。
「やめて……!」
木の茂みに身を隠していたシャルロットがグレース皇子の前に飛び出して来た。
その後をアダムや合流していた第一騎士団の騎士たちが追いかけてくる。
人間のシャルロットには幻狼の姿は視えないが、
クロウの悲しげな鳴き声や自分の名前を呼ぶ声が聞こえて居ても立っても居られなくなったのだ。
「私はここにいるわ!」
「シャルルさん…!?危ないです!」
ユーシンは慌ててクロウに近付くシャルロットを制止する。
シャルロットは構わず前に出た。
「何も言わずに居なくなってごめんね。でもずっとあの塔に居るのは良くないと思ったの。それでも、ちゃんとあなたが納得してくれるまで話し合えばよかったわね。不安にさせてごめんなさい」
手探りで視えないクロウの姿を探す。
クロウは伸びて来たシャルロットの手のひらに大人しく頬を寄せた。
何かが手のひらに触れている感触がシャルロットに伝わる。
「里緒……」
「私はどこへも行かないわ、だから、ね?一緒にお城へ帰りましょう?」
クロウの目からボロボロと大粒の涙が溢れでた。
グレース皇子はクロウを拘束していた魔法をそっと解いた。
1
お気に入りに追加
396
あなたにおすすめの小説

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。


断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる