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*シャルロット姫と食卓外交
びっくり?魔物の唐揚げ(イラスト有)
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「できた」
侍女服姿のシャルロットはリディと共に居城の調理場でプリンを大量生産していた。
リディは出来上がったプリンを大きめのバスケットの中に詰めていく。
「さて、騎士団の皆さんに差し入れましょう」
ニコニコ楽しそうにバスケットを見つめるシャルロット。
先日作ったたまごプリンの話をユーシンにしたところ、ユーシンから自分も食べたいとリクエストをもらったのだ。
前世では十五時のおやつによく幼い息子に作ってあげていたっけ。
テストで百点を取ったり徒競走で一番になった日にはちょっとだけグレードアップしてプリンアラモードしてあげたり。
親子の思い出が詰まった料理である。
「リディ、ちょっといいかしら」
騎士団のもとへ向かうべく使用人専用の裏口に向かって歩いていたところで、リディが侍女仲間から呼び止められた。
「ごめんなさい、シャルロット様」
「良いわ、私は先に向かってるわね」
バスケットを抱えたシャルロットは微笑んで居城を後にした。
シャルロットの後ろ姿を草陰に隠れていた何かがボールのように跳ねながらつけている。
リディは首を傾げながらも侍女仲間のもとへ踵を返した。
それから、シャルロットは近道のためにいつものバラ園に入った。
日時計花壇の前を通りかかったところでくるっと後ろを振り返った。
そこには大きな耳をピンっと垂直に立て二足歩行をする青い眼をした白いうさぎがいた。
シャルロットと目が合ったうさぎは耳を垂らして体を伏せた。
「まあ、可愛い」
シャルロットは屈んでうさぎに手を伸ばす。
うさぎは大人しく撫でられた。
「どうしたの?迷子かしら?あなた、どこから来たの?」
うさぎはシャルロットが持つバスケットに鼻を当ててクンクンと匂いを嗅いでいる。
「これは第二騎士団に差し入れするプリンよ、これから届けに行くの。それじゃあね」
シャルロットは立ち上がり、うさぎに手を振ると背を向けて歩き出した。
*
「あら?揚げ物のいい匂い」
騎士団の食堂に現れたシャルロットは香ばしい香りと揚げ物が揚がる小気味良い音に誘われるように調理場へ向かった。
そこにはユーシンと騎士仲間のリッキーの姿があった。
額に汗を滲ませながらせっせと揚げ物を揚げている。
今日の食事当番はどうやら彼ららしい。
「あ、シャルルさん」
ユーシンはシャルロットに気付き顔を上げて笑った。
慣れた手つきで生肉に衣をつけていた。
「ユーシン、それは唐揚げ?何のお肉なの?すごくピンク…」
それは食紅でも混ぜかのように真っピンクだった。
「ダビーって言う魔物の肉!大丈夫っす。加熱すると白くなるよ」
「まっ魔物!?」
「味と食感は鶏のモモ肉っすよ、シャルルさんも食べてってください」
シャルロットは珍しそうに唐揚げをじっと見つめていた。
やがて大人数分の唐揚げが揚がり食堂にわらわらと軽装姿の騎士たちが集まってきた。
「うまそーな匂いだなぁ」
「あ、シャルルさん、いらっしゃい」
賑やかな空間は居心地が良い。
「あの、今日はプリンの差し入れに来ました。よかったらどうぞ」
シャルロットは全員にプリンを配った。
騎士たちの喜ぶ顔を見て、シャルロットは満足だった。
「あら、今日はグレース皇子はいらっしゃらないの?」
「皇子は一昨日から北の領地に視察に行ってるぞ」
「そうだったの…」
食堂から調理場に戻る。
一つ余ったプリンを手にしたシャルロットの足元に何かがすり寄ってきた。
先ほどの白うさぎだ。
ふと調理場の勝手口を見ると扉が開いたままだった。
おそらくそちらから入ってきたんだろう。
屈んで目線を合わせると、白うさぎはシャルロットが手に持つプリンをじっと見つめていた。
短い尻尾を可愛らしく振っている。
「プリンが食べたいの?」
シャルロットが何気なく問いかけるとうさぎは更に尻尾を振った。
シャルロットは白うさぎを膝の上に乗せ、頭を撫でていた。
「うさぎってプリン食べても平気なのかしら?」
考え込んでいると、調理場に騎士が入ってきた。
「あれ~?キャロルじゃね~?」
お調子者なアヴィの弾むような声。
アヴィの顔を見た白うさぎはギョッと顔を強張らせ、後退りした。
さっきまで振っていた尻尾が下に垂れている。
「キャロル……?」
その名を聞いて、シャルロットは以前グレース皇子とのデートに同行していたプラチナブロンドで碧眼の若い騎士の顔を思い出した。
「あっ、……えっ?」
でも、シャルロットの膝の上に乗っているのは何の変哲も無い白うさぎ。
白うさぎはギクッと体を震わせ、シャルロットの膝から逃げた。
そして観念したかのようにボフンっと音を立てて変身を解いたのだ。
そこには騎士服ではなく白いブラウスに黒いスラックスを着た、あの騎士の姿があった。
騎士キャロルは顔を真っ赤にして悶えていた。
「申し訳ない!シャルロット姫……」
「えっ!?」
白うさぎの正体がキャロルだったこと、そして今自分に向かって勢いよく頭を下げてきたことに驚愕するシャルロット。
「……そ、その、今日自分は非番で…、居城に立ち寄ったら姫様がプリンを作ってるのを見かけて……」
もじもじしている姿に思わず庇護欲をそそられる。
「プリンが食べたかったんですか?」
「…汗顔の至りです。姫様にプリンを願うなど騎士として有り得ないことでしょう!」
キャロルはプルプル震えていた。
呆然としているキャロルに、横からアヴィが補足してくれた。
「キャロルは魔人と獣人のハーフなんだ、そんで俺の弟!異母兄弟だけど」
「アヴィさんの弟!?」
二重でびっくりだ。
「普段獣人を馬鹿にしてくるコイツがわざわざウサギに化けるなんて、よっぽどシャルルさんのプリンが好きなんだな」
シャルロットは戸惑いつつも嬉しくなった。
「それは嬉しいですわ。キャロルさん、ひとつ残っていますのでよかったらどうぞ。また作ってきますわね」
シャルロットは笑顔でキャロルにプリンを差し出した。
キャロルはまた勢いよく頭を下げた。
「あ~うさ公だ、おめーもダビーのカラアゲ食うか?」
食堂に戻るとコハン団長がキャロルを見つけてフレンドリーに声をかけてきた。
キャロルはプリンを大切そうに抱えたままプイッとそっぽうを向いた。
「要らんわ!!魔物を食べるなんて野蛮人共め」
キャロルはプリンに目を移して、しかめっ面を解いてふっと微笑んだ。
それからプリンを一口スプーンですくって口の中に放り込む。
とろけて優しい甘さが広がった。
至福だ。
美味しそうにプリンを食べているキャロルを見て、隣に座っていたシャルロットも嬉しくなってふふふっと笑った。
「唐揚げもとても美味しいですわ」
「シトラールの果汁をかけるとサッパリして美味しいっすよ」
向かいに座るユーシンが切り分けた緑の果実を唐揚げに絞っていた。
この世界に自生する柑橘類らしい。
隣でダビーの唐揚げを頬張るシャルロットを見てキャロルは顔を真っ青にした。
「姫様!?そんなもの食べてはいけません」
「キャロルさん!好き嫌いはいけませんわ!大きくなれませんわよ。ほら、お口開ける!」
姫に命令をされてキャロルは訳もわからず口を開けた。
そこに唐揚げを押し込んだ。
キャロルは女性からのアーンと魔物の唐揚げに、顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり忙しない。
かと言って吐き出せず、モグモグ咀嚼していた。
「………おい、しい」
大変不服そうにそう呟いた。
第二騎士団の騎士たちはゲラゲラと愉快そうに笑っていた。
侍女服姿のシャルロットはリディと共に居城の調理場でプリンを大量生産していた。
リディは出来上がったプリンを大きめのバスケットの中に詰めていく。
「さて、騎士団の皆さんに差し入れましょう」
ニコニコ楽しそうにバスケットを見つめるシャルロット。
先日作ったたまごプリンの話をユーシンにしたところ、ユーシンから自分も食べたいとリクエストをもらったのだ。
前世では十五時のおやつによく幼い息子に作ってあげていたっけ。
テストで百点を取ったり徒競走で一番になった日にはちょっとだけグレードアップしてプリンアラモードしてあげたり。
親子の思い出が詰まった料理である。
「リディ、ちょっといいかしら」
騎士団のもとへ向かうべく使用人専用の裏口に向かって歩いていたところで、リディが侍女仲間から呼び止められた。
「ごめんなさい、シャルロット様」
「良いわ、私は先に向かってるわね」
バスケットを抱えたシャルロットは微笑んで居城を後にした。
シャルロットの後ろ姿を草陰に隠れていた何かがボールのように跳ねながらつけている。
リディは首を傾げながらも侍女仲間のもとへ踵を返した。
それから、シャルロットは近道のためにいつものバラ園に入った。
日時計花壇の前を通りかかったところでくるっと後ろを振り返った。
そこには大きな耳をピンっと垂直に立て二足歩行をする青い眼をした白いうさぎがいた。
シャルロットと目が合ったうさぎは耳を垂らして体を伏せた。
「まあ、可愛い」
シャルロットは屈んでうさぎに手を伸ばす。
うさぎは大人しく撫でられた。
「どうしたの?迷子かしら?あなた、どこから来たの?」
うさぎはシャルロットが持つバスケットに鼻を当ててクンクンと匂いを嗅いでいる。
「これは第二騎士団に差し入れするプリンよ、これから届けに行くの。それじゃあね」
シャルロットは立ち上がり、うさぎに手を振ると背を向けて歩き出した。
*
「あら?揚げ物のいい匂い」
騎士団の食堂に現れたシャルロットは香ばしい香りと揚げ物が揚がる小気味良い音に誘われるように調理場へ向かった。
そこにはユーシンと騎士仲間のリッキーの姿があった。
額に汗を滲ませながらせっせと揚げ物を揚げている。
今日の食事当番はどうやら彼ららしい。
「あ、シャルルさん」
ユーシンはシャルロットに気付き顔を上げて笑った。
慣れた手つきで生肉に衣をつけていた。
「ユーシン、それは唐揚げ?何のお肉なの?すごくピンク…」
それは食紅でも混ぜかのように真っピンクだった。
「ダビーって言う魔物の肉!大丈夫っす。加熱すると白くなるよ」
「まっ魔物!?」
「味と食感は鶏のモモ肉っすよ、シャルルさんも食べてってください」
シャルロットは珍しそうに唐揚げをじっと見つめていた。
やがて大人数分の唐揚げが揚がり食堂にわらわらと軽装姿の騎士たちが集まってきた。
「うまそーな匂いだなぁ」
「あ、シャルルさん、いらっしゃい」
賑やかな空間は居心地が良い。
「あの、今日はプリンの差し入れに来ました。よかったらどうぞ」
シャルロットは全員にプリンを配った。
騎士たちの喜ぶ顔を見て、シャルロットは満足だった。
「あら、今日はグレース皇子はいらっしゃらないの?」
「皇子は一昨日から北の領地に視察に行ってるぞ」
「そうだったの…」
食堂から調理場に戻る。
一つ余ったプリンを手にしたシャルロットの足元に何かがすり寄ってきた。
先ほどの白うさぎだ。
ふと調理場の勝手口を見ると扉が開いたままだった。
おそらくそちらから入ってきたんだろう。
屈んで目線を合わせると、白うさぎはシャルロットが手に持つプリンをじっと見つめていた。
短い尻尾を可愛らしく振っている。
「プリンが食べたいの?」
シャルロットが何気なく問いかけるとうさぎは更に尻尾を振った。
シャルロットは白うさぎを膝の上に乗せ、頭を撫でていた。
「うさぎってプリン食べても平気なのかしら?」
考え込んでいると、調理場に騎士が入ってきた。
「あれ~?キャロルじゃね~?」
お調子者なアヴィの弾むような声。
アヴィの顔を見た白うさぎはギョッと顔を強張らせ、後退りした。
さっきまで振っていた尻尾が下に垂れている。
「キャロル……?」
その名を聞いて、シャルロットは以前グレース皇子とのデートに同行していたプラチナブロンドで碧眼の若い騎士の顔を思い出した。
「あっ、……えっ?」
でも、シャルロットの膝の上に乗っているのは何の変哲も無い白うさぎ。
白うさぎはギクッと体を震わせ、シャルロットの膝から逃げた。
そして観念したかのようにボフンっと音を立てて変身を解いたのだ。
そこには騎士服ではなく白いブラウスに黒いスラックスを着た、あの騎士の姿があった。
騎士キャロルは顔を真っ赤にして悶えていた。
「申し訳ない!シャルロット姫……」
「えっ!?」
白うさぎの正体がキャロルだったこと、そして今自分に向かって勢いよく頭を下げてきたことに驚愕するシャルロット。
「……そ、その、今日自分は非番で…、居城に立ち寄ったら姫様がプリンを作ってるのを見かけて……」
もじもじしている姿に思わず庇護欲をそそられる。
「プリンが食べたかったんですか?」
「…汗顔の至りです。姫様にプリンを願うなど騎士として有り得ないことでしょう!」
キャロルはプルプル震えていた。
呆然としているキャロルに、横からアヴィが補足してくれた。
「キャロルは魔人と獣人のハーフなんだ、そんで俺の弟!異母兄弟だけど」
「アヴィさんの弟!?」
二重でびっくりだ。
「普段獣人を馬鹿にしてくるコイツがわざわざウサギに化けるなんて、よっぽどシャルルさんのプリンが好きなんだな」
シャルロットは戸惑いつつも嬉しくなった。
「それは嬉しいですわ。キャロルさん、ひとつ残っていますのでよかったらどうぞ。また作ってきますわね」
シャルロットは笑顔でキャロルにプリンを差し出した。
キャロルはまた勢いよく頭を下げた。
「あ~うさ公だ、おめーもダビーのカラアゲ食うか?」
食堂に戻るとコハン団長がキャロルを見つけてフレンドリーに声をかけてきた。
キャロルはプリンを大切そうに抱えたままプイッとそっぽうを向いた。
「要らんわ!!魔物を食べるなんて野蛮人共め」
キャロルはプリンに目を移して、しかめっ面を解いてふっと微笑んだ。
それからプリンを一口スプーンですくって口の中に放り込む。
とろけて優しい甘さが広がった。
至福だ。
美味しそうにプリンを食べているキャロルを見て、隣に座っていたシャルロットも嬉しくなってふふふっと笑った。
「唐揚げもとても美味しいですわ」
「シトラールの果汁をかけるとサッパリして美味しいっすよ」
向かいに座るユーシンが切り分けた緑の果実を唐揚げに絞っていた。
この世界に自生する柑橘類らしい。
隣でダビーの唐揚げを頬張るシャルロットを見てキャロルは顔を真っ青にした。
「姫様!?そんなもの食べてはいけません」
「キャロルさん!好き嫌いはいけませんわ!大きくなれませんわよ。ほら、お口開ける!」
姫に命令をされてキャロルは訳もわからず口を開けた。
そこに唐揚げを押し込んだ。
キャロルは女性からのアーンと魔物の唐揚げに、顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり忙しない。
かと言って吐き出せず、モグモグ咀嚼していた。
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