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*シャルロット姫と食卓外交
拉致?(イラスト有)
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「このパン、もらってもいいかしら」
朝早くから城の厨房に侍女服姿のシャルロットは現れた。
それを当たり前のように歓迎する料理人たち。
「いいよ、好きなだけ持っていけ」
フランクに話しかけてくれる料理人たちにシャルロットも笑顔で返した。
「ありがとう!」
シャルロットは一斤のホワイトブレッドをパン切り包丁で一枚一枚スライスし、耳を削いだ。
それから昨日王有林の幻狼の畑で採れた苺や早桃を一口大にカットした。
アクセントにキウイがあればよかったが、苺の酸味があるので大丈夫だろう。
そして昨夜作っておいたカスタードを塗ってフルーツを並べてまたパンで挟み、二つに切り分けた。
そして出来上がったのは二人分のフルーツサンド。
それからバルキリー夫人から頂いたコーヒーでカフェオレを作った。
それらを配膳用のサービスワゴンに乗せてグレース皇子の部屋を目指した。
*
グレース皇子が聖堂に出かけているため1人部屋に取り残されたクロウは部屋の中をうろつきながら大欠伸をしていた。
ガタンっと音がして振り返ると尻尾が花瓶に当たり絨毯の上に落っこちてしまった。
水は大して入っていなかったが、絨毯にシミが広がり、バラの花びらが散っていた。
クロウは慌てて不便な狼の姿から人間の姿になると花瓶に花を挿し立て直した。だが、床が汚れてしまっている。
ハァっとため息をついて、部屋を抜け出し廊下に出ると侍女の姿を探した。
そして、ワゴンを押してこちらに向かってくる侍女の姿を見つけた。
「あの~」
「え?」
侍女とバッチリ目が合って、クロウはハッと眼を見開いた。
*
侍女服姿のシャルロットはグレース皇子の部屋から出てきた人物に驚き足を止める。
「里緒!?」
「あっあなたは……」
以前街中で遭遇した漆黒の髪に黄金の瞳を持つ不思議な青年だ。
シャルロットはすぐに思い出した。
クロウはパァッと明るい笑顔で、思わず走り出した。
さながら大型犬が飼い主を見つけて飛びつくように……。
突然見知らぬ男に抱き着かれてシャルロットは顔を真っ赤にした。
「信じられない、里緒がこの城で侍女をやっていたなんて!!」
どうやら侍女だと勘違いしているようだ。
しかし連呼するのはシャルロットの前世での名前……。
「あの!あなたはだあれ?なんでわたしのその名前を知ってるの!?」
シャルロットは彼から身体を剥がし、うろたえながら叫ぶように訊いた。
彼は自分を指差して言った。
「蒼介だよ!」
「え?蒼ちゃん?」
“前世”の自分の夫の名だ。
シャルロットは驚愕して後退りした。
姿こそ全く別人だが、前世で死に別れた夫が今目の前にいる。
想定していなかった不意の出来事にただただ唖然としてしまった。
彼もおそらくユーシンのように転生者か。
「里緒、会いたかったよ」
「蒼ちゃんなの?」
彼は口をポカンと開けて無言で立ち竦んでるシャルロットの手を握り、ぎゅっと今度は優しく抱き締められた。
ふいに彼の顔を抱かれながら見上げる。
思考停止したまま動かないシャルロットの顔を愛おしそうに見つめて腰を抱き、顔を引き寄せ、そしてさも当然のようにシャルロットの唇を啄むようにキスをした。
シャルロットは声にならない叫びとともに顔を真っ青にし、
気付けば目の前の男の頬を思い切りグーで殴ってしまっていた。
「ちっ痴漢!?」
「そのパンチも久しぶりだ!やっぱり里緒だ」
「ひぃ~」
殴られても嬉しそうに、ワンコのように縋ってくる男の姿にシャルロットは背筋を凍らせる。
暴走すると話が通じないところはまさしく夫だ。
皇子の部屋の前の騒がしさに気づいた護衛の騎士が遠くからこちらの様子を伺っている。
シャルロットはワゴンと目の前の男を皇子の部屋に押し込み扉を思い切りしめた。
「本当に……本当に蒼ちゃんなの?なんでグレース様の部屋にいるの?」
「現世での私は皇子の幻狼クロウだ。これは仮の姿だよ。君こそなんでグレースの部屋に?グレース付きの侍女じゃないよね?」
「ちょ朝食にフルーツサンドを持ってきたのよ、どうぞ」
「ありがとう~」
ニコニコしながらこちらの様子を伺っているクロウにフルーツサンドを差し出した。
クロウは立ったまま呑気にパクパク食べ始める。
「うん、美味しい」
クロウはのんきにフルーツサンドを味わっている。
その隣で無言のまま立ちすくむシャルロット。
ユーシンとの再会は穏やかに済んだのに……
だめだわ……動揺しすぎて何も考えられない。
一旦退席して頭の整理を、
シャルロットはごくっと生唾を飲むと踵を返して扉に向かった。
するとドンっと扉にクロウの手が伸び背中にクロウを感じる。
「ねえ、ずっと会いたかったんだよ、やっと会えたんだよ、なんで逃げるの?里緒は私に会えて嬉しくない?」
「逃げてないわ、混乱してるの!頭の中整理させたいから…一旦この話は置いておきましょう!」
「だめ」
クロウはシャルロットを抱き上げた。
突然のお姫様抱っこにシャルロットは驚愕し抵抗するが虚しく、クロウはスタスタとバルコニーに向かって歩き始めた。
「な、何!?」
クロウは軽いステップでバルコニーの手すりにひょいっと上ると、そのまま空に向かって飛び跳ねた。
「きゃあっ」
(落ちる!?)
顔面蒼白して絶叫するシャルロット、だが落ちる様子はなく、クロウはシャルロットを腕に抱いたまま空に向かって飛んだ。
シャルロットは不本意ながら落ちぬようにクロウの胸にしがみつくしかなかった。
朝早くから城の厨房に侍女服姿のシャルロットは現れた。
それを当たり前のように歓迎する料理人たち。
「いいよ、好きなだけ持っていけ」
フランクに話しかけてくれる料理人たちにシャルロットも笑顔で返した。
「ありがとう!」
シャルロットは一斤のホワイトブレッドをパン切り包丁で一枚一枚スライスし、耳を削いだ。
それから昨日王有林の幻狼の畑で採れた苺や早桃を一口大にカットした。
アクセントにキウイがあればよかったが、苺の酸味があるので大丈夫だろう。
そして昨夜作っておいたカスタードを塗ってフルーツを並べてまたパンで挟み、二つに切り分けた。
そして出来上がったのは二人分のフルーツサンド。
それからバルキリー夫人から頂いたコーヒーでカフェオレを作った。
それらを配膳用のサービスワゴンに乗せてグレース皇子の部屋を目指した。
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ガタンっと音がして振り返ると尻尾が花瓶に当たり絨毯の上に落っこちてしまった。
水は大して入っていなかったが、絨毯にシミが広がり、バラの花びらが散っていた。
クロウは慌てて不便な狼の姿から人間の姿になると花瓶に花を挿し立て直した。だが、床が汚れてしまっている。
ハァっとため息をついて、部屋を抜け出し廊下に出ると侍女の姿を探した。
そして、ワゴンを押してこちらに向かってくる侍女の姿を見つけた。
「あの~」
「え?」
侍女とバッチリ目が合って、クロウはハッと眼を見開いた。
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「里緒!?」
「あっあなたは……」
以前街中で遭遇した漆黒の髪に黄金の瞳を持つ不思議な青年だ。
シャルロットはすぐに思い出した。
クロウはパァッと明るい笑顔で、思わず走り出した。
さながら大型犬が飼い主を見つけて飛びつくように……。
突然見知らぬ男に抱き着かれてシャルロットは顔を真っ赤にした。
「信じられない、里緒がこの城で侍女をやっていたなんて!!」
どうやら侍女だと勘違いしているようだ。
しかし連呼するのはシャルロットの前世での名前……。
「あの!あなたはだあれ?なんでわたしのその名前を知ってるの!?」
シャルロットは彼から身体を剥がし、うろたえながら叫ぶように訊いた。
彼は自分を指差して言った。
「蒼介だよ!」
「え?蒼ちゃん?」
“前世”の自分の夫の名だ。
シャルロットは驚愕して後退りした。
姿こそ全く別人だが、前世で死に別れた夫が今目の前にいる。
想定していなかった不意の出来事にただただ唖然としてしまった。
彼もおそらくユーシンのように転生者か。
「里緒、会いたかったよ」
「蒼ちゃんなの?」
彼は口をポカンと開けて無言で立ち竦んでるシャルロットの手を握り、ぎゅっと今度は優しく抱き締められた。
ふいに彼の顔を抱かれながら見上げる。
思考停止したまま動かないシャルロットの顔を愛おしそうに見つめて腰を抱き、顔を引き寄せ、そしてさも当然のようにシャルロットの唇を啄むようにキスをした。
シャルロットは声にならない叫びとともに顔を真っ青にし、
気付けば目の前の男の頬を思い切りグーで殴ってしまっていた。
「ちっ痴漢!?」
「そのパンチも久しぶりだ!やっぱり里緒だ」
「ひぃ~」
殴られても嬉しそうに、ワンコのように縋ってくる男の姿にシャルロットは背筋を凍らせる。
暴走すると話が通じないところはまさしく夫だ。
皇子の部屋の前の騒がしさに気づいた護衛の騎士が遠くからこちらの様子を伺っている。
シャルロットはワゴンと目の前の男を皇子の部屋に押し込み扉を思い切りしめた。
「本当に……本当に蒼ちゃんなの?なんでグレース様の部屋にいるの?」
「現世での私は皇子の幻狼クロウだ。これは仮の姿だよ。君こそなんでグレースの部屋に?グレース付きの侍女じゃないよね?」
「ちょ朝食にフルーツサンドを持ってきたのよ、どうぞ」
「ありがとう~」
ニコニコしながらこちらの様子を伺っているクロウにフルーツサンドを差し出した。
クロウは立ったまま呑気にパクパク食べ始める。
「うん、美味しい」
クロウはのんきにフルーツサンドを味わっている。
その隣で無言のまま立ちすくむシャルロット。
ユーシンとの再会は穏やかに済んだのに……
だめだわ……動揺しすぎて何も考えられない。
一旦退席して頭の整理を、
シャルロットはごくっと生唾を飲むと踵を返して扉に向かった。
するとドンっと扉にクロウの手が伸び背中にクロウを感じる。
「ねえ、ずっと会いたかったんだよ、やっと会えたんだよ、なんで逃げるの?里緒は私に会えて嬉しくない?」
「逃げてないわ、混乱してるの!頭の中整理させたいから…一旦この話は置いておきましょう!」
「だめ」
クロウはシャルロットを抱き上げた。
突然のお姫様抱っこにシャルロットは驚愕し抵抗するが虚しく、クロウはスタスタとバルコニーに向かって歩き始めた。
「な、何!?」
クロウは軽いステップでバルコニーの手すりにひょいっと上ると、そのまま空に向かって飛び跳ねた。
「きゃあっ」
(落ちる!?)
顔面蒼白して絶叫するシャルロット、だが落ちる様子はなく、クロウはシャルロットを腕に抱いたまま空に向かって飛んだ。
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