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*シャルロット姫と食卓外交
ひんやりアイスクリーム
しおりを挟む後日。
「姫様、到着しました」
丘陵づたいの道をガタンガタンと揺れていた馬車がピタリと止まり、外から扉を開けられた。
シャルロットは第一騎士団の騎士キュロットとアダムの護衛のもと、バルキリー夫人が住まう屋敷を訪れた。
初老の執事に案内され部屋に通されたシャルロット。
古き良きデザインの家具が揃えられた応接間には既にバルキリー夫人の姿があった。
「お招きありがとうございます!」
「お待ちしておりましたわ、そちらの騎士の2人もどうぞお座りになって。今、コーヒーを淹れるわね」
通常であれば騎士はこう言った場には同室させないのだが、
先程 執事に騎士の方も応接間に入るようにと指示を受けたのだった。
バルキリー夫人はティーカップに既に用意していたコーヒーを注いだ。
それをシャルロット達に振る舞った。
それを真っ青な顔をしながらグビッと飲んだキュロットは「苦っ」と顔を歪めた。
同時にコーヒーを喉に流し込んだアダムは平気そうな顔で「美味しい」と笑った。
シャルロットも2人に倣ってコーヒーを飲む。
これは……
「エスプレッソコーヒーね」
デミタスカップではなくティーカップに淹れているから雑味やえぐ味強くて人を選ぶのかもしれない。
「以前、彼が旅先で見つけてね。わたくしは好きなんですけれど周りには評判が良くないから布教中よ。それに、わたくし本当は茶会が好きなのよね。でも、この屋敷にはあまり人が遊びに来てくれないのよ。だから今日、あなたが来てくれて本当に嬉しいの」
「わたしもコーヒーは大好きです」
笑う彼女は初対面の時のような刺々しさが無かった。
シャルロットも少し緊張が解けた。
「あの、今日は素敵なお茶会にお招きいただきありがとうございます。
手ぶらでは失礼かと思ったのでお菓子を作って来たんです。今日はとても暑いので、冷たいアイスクリームです」
布で覆ったバスケットの中には透明なカップに入ったバニラアイスクリームが入っていた。
氷使いの魔人アダムの魔法でこんなに暑い外気でも少しも溶けていない。
冷蔵庫なんていう三種の神器なんかない世界だがアダムの氷の魔法でやっと実現できた料理だ。
しかもクーラーボックスなんかより断然便利だ。
(わたしも氷の魔法が使えたら料理の幅がぐんと広がるのに。)
アダムの魔法を知ってシャルロットは思った。
「あいすくりーむ?本当だわ、氷のように冷たいのね」
不思議そうにカップを見つめるバルキリー夫人。
「このコーヒーをこのアイスクリームにかけて食べるとまた違った味わいですわよ」
「まあ、そのような食べ方があるの?」
「本当だ、あいすくりーむの甘さとコーヒーの苦さが意外と合いますね」
早速横でアダムが実食する。
それからシャルロットは執事に頼んでミルクをもらった。
大きめのグラスの半分にコーヒーを注ぎ、そしてミルクとシロップをたっぷりと注いだ。
濃いブラックコーヒーが好きなバルキリー夫人のエスプレッソコーヒーより、甘党らしいキュロットにはこっちの方が好ましいだろう。
「苦くない!美味しいです」
キュロットは感動していた。
「カフェオレです」
「本当に目から鱗だわ、今度のサロンで皆に教えるわ。ホホホ」
実はこの屋敷に伺う前は侍女達からバルキリー夫人は恐ろしい人だと散々忠告されていたのだが、実際に喋ってみると顔や口調は常に刺々しいが上品だし穏やかな人だ。
令嬢や侍女たちに苦いコーヒーを振舞っているらしいのも、嫌がらせではなく純粋に布教活動らしいし。
ただ単に誤解されやすい人なのかもしれない。
太陽が傾き始め、城へ帰る時間となった。
「またいつでも遊びにいらっしゃい」
バルキリー夫人は馬車の前までシャルロットを見送った。
馬車は城を目指し騎士を連れて走り出す。
馬車の姿が遠く消えた時、コバルトブルーの毛並みをした幻狼が光とともにどこからか現れた。
バルキリー夫人は幻狼の顔をそっと撫でて口の端にキスをした。
「良い子だったわよ、コボルトもあの子に挨拶してあげたら良かったのに」
幻狼は何も答えず夫人に頬擦りした。
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