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*シャルロット姫と食卓外交
湖畔で美味しいカスタードプリンを
しおりを挟む「わぁ~~」
市場に次いでシャルロットがグレース皇子に連れて来られたのは、城の近くにある美しく広大な湖だ。
湖畔の緑の上に布を敷いて、そこにグレース皇子と二人で座り白い水鳥を眺めていた。
「グレース様。わたし、たまごプリンを作ってきたんです」
「シャルロット姫はいつも変わった料理を作るな」
この世界にはケーキやタルトなどのスイーツの類あるが、日本で一般的に食べられているようなプリンは無かった。
材料もシンプルだし前世でもよく作っていたので試してみたのだが、思った以上によく出来ていた。
蒸し器なんてないので、代用品探しに苦労はしたが美味しく完成して満足だ。
「騎士の皆さんもいかがですか?」
「そんな……畏れ多い…」
「お気になさらず!今日もわざわざお付き合いいただきましたので、ちょっとしたお礼ですわ。みんなで食べた方が美味しいわよ」
「お前らも食べるといい」
恐縮して遠慮する騎士二人に白い器に入ったプリンを手渡した。
グレース皇子の一言で素直に受け取った騎士の二人はおずおずと匙を手にして立ったままプリンを食した。
プラチナブロンドで碧眼の若い美少年騎士キャロルはプリンを一口食べると匙を咥えたままポッと頬を赤くして目を大きく開いた。
瞳をキラキラさせて無邪気な顔をしている。
とても美味しそうに幸せそうに食べる顔は可愛くてシャルロットは微笑ましくなった。
「初めて食べました。とても美味しいです、姫様」
もう一人の騎士アダムは穏やかにシャルロットに笑いかけた。
肩まであるワンレングスヘアに緑色の瞳に彫りの深い顔をした、これまた美形だ。
「おかわりはいかがですか」
「え!」
シャルロットは騎士キャロルにもう一つプリンを渡す。
キャロルは嬉しそうな顔をするが、横からアダムが苦笑いをする。
グレース皇子はふっと柔らかく笑い言った。
「構わん、シャルロットは騎士に餌付けするのが趣味だからな。遠慮するな、食べるといい」
「はい。えっと、姫様、いただきます!」
「ふふ、どうぞ」
好評なようだし、今度は騎士団のみんなにも作ろうか。
でも数が数だし大変だろうか…?シャルロットはワクワクしていた。
*
「グレース」
雨の昼下がり。
自室でいつものように書類に目を通しているとバルコニーに人影が突如現れた。
「クロウ?」
グレース皇子がバルコニーに目を移すと、そこには漆黒の髪と黄金の瞳を持つ美丈夫が気まずそうな顔をして口をもごもごさせながらグレース皇子の様子を伺うように立っていた。
幻狼クロウの仮の姿だ。
長くグレース皇子と離れて過ごした影響で力が尽きたんだろう。
仮の姿は省エネルギーらしい。
狼の姿ではないが、尻尾と耳がしゅんっと垂れ下がってるのが容易に想像できた。
遠く離れていて姿は見えずとも、互いの感覚を共有しており元気にやっていることは分かっているからさほど心配はしていなかった。
昔から兄弟喧嘩のような喧嘩を繰り返していたので、クロウの家出なんていうのも珍しくなかったからだ。
「ごめんなさい」
「……おいで、そろそろ昼食を取ろうと思っていたんだ。朝から仕事詰めだったんだ。先程、婚約者が軽食を持ってきてくれたんだが、お前も食べるか?」
グレース皇子が声を掛けると、侍女が近くのテーブルに料理の皿を置き紅茶の用意を始めた。
グレース皇子が席に座ると、クロウは仲直りができたことと美味しそうな料理を見て気分が上がったのか楽しそうに笑いながらグレース皇子の向かいに座った。
「わ、モンティクリスト?」
サンドイッチに卵液をつけて焼いた料理だ。
サンドイッチは一般的にあるのだが、グレース皇子は初めて目にする料理であった。
「知ってるのか?」
「昔の恋人がよく作ってくれたんだよ」
「ああ、お前が“人間”だった頃の話か?」
「懐かしいなあ、会いたいなぁ」
クロウはうわの空で小さくため息をついた。
思い出していたのは先日街で会ったあの少女の姿だった。
雨はしとしと降り続く。
恋い焦がれる幻狼クロウの感覚につられてグレース皇子は共鳴する。
こんな風に感覚を共有してしまうから厄介なのだ。
グレース皇子の父・クライシア王と契約を結んだ幻狼コボルトなんてまさにややこしいことになっている。
王が愛する正妃はグレース皇子の母親ただ一人。
それなのに王の幻狼コボルトが王妃ではない女官に恋をしてしまったからそれは大変だった。
幻狼コボルトが恋し妻としたのはバルキリー夫人。
王と言えど一夫一婦制が常識で側室制度もない国であったため、対外的には現王の公妾となっている。
貴族たちは額面通りに受け取っているが、実際には王と夫人は愛人関係ではない。
実にややこしい。
「お前、バルキリー夫人とコボルトの旅行に同行してたって本当か」
「楽しかったぞ、海も近くて」
「コハン団長が疲れ切っていたぞ、散々振り回したんだろ」
「あの人、第二騎士団長で獣人のくせに体力がないんだね~」
クロウは笑った。
グレース皇子は苦笑した。
「そうだ、クロウ、今度俺の婚約者を紹介しよう」
「良い感じの子なの?」
「ああ、お前もきっと気にいるよ」
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