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シャルロットと精霊博士のサンクスギビング・ターキーデー
学生祭・大パニック?
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『精霊展示会』
展示している精霊の売買もしているようだ。先程からスーツ姿の中肉中背の男が売り込みをしている……。
ケージの上部には値札が付いており、庶民の家が一棟買える値段のものから、馬一頭ほどの値段までピンキリだった。
学生祭にしては富裕層の客もちらほら見かけると思っていたが、これが目当てだったのか……。
『売約済み』の札が貼られてあるケージもあった。
シャルロットは怒りで震えた。
「許せない!……私が責任者に抗議するわ……!」
くるっと踵を返したシャルロットの手を、アーサーは掴んで引き留めた。
アーサーは至って冷静だった。
「姫様、いけません!相手の素性も知れないのに無闇に首を突っ込んでは…、あなたは一般人ではなくクライシア大国の妃殿下です。他国で問題を起こしてはいけません」
「アーサーさん……で、でも……放って置けないわ!」
「姫様の気持ちはわかります。でも、今はアーサーの言うことが正しいです、どうか抑えてください」
「キャロルさん……、でも……」
騎士達になだめられて、シャルロットは落ち着いた。
「帰ったら、グレース皇子達にも相談して打つ手を考えましょう」
「そうです。感情的に動いてもいい事はありません。どうか落ち着いて」
「はい……」
シャルロットは暗い顔をしてコクリと頷く。
展示会場を出るようにアーサーから促され入り口へ向かって歩き出したが、どうしても気になり振り返る。
精霊達は目にいっぱい涙を溜めて助けを求めるようにシャルロットを見つめていた。
シャルロットは心を痛めていた。
「ママ~!」
会場を出るとエステルが慌てた様子で走って来た。
「エステル?どうしたの?」
「スノウがいなくなっちゃった!」
「え!?」
「ごめんなさい~ママ~グレイ~」
エステルはオロオロと戸惑っていた。
グレイもこれには驚いた顔をしてる。
「それなら…、俺が透視の魔法で捜してみる…」
アーサーは目を閉じて意識を集中させた。
「ど、どう?」
やがて目を開くと、彼は東の方角を指差した。
「1階の……スイーツアートコンテストの会場の中だ」
「ええ~?もしかして甘い匂いに誘われて潜り込んじゃったのかなあ?」
「まだ入場前よね。早く連れ戻しに行かなきゃ!」
シャルロット達は走り出した。
*
一方、スイーツアートコンテストの会場前にはジュリアンが立っていた。
ぼんやりと会場を見つめていた彼女の足元に、いつのまにか白髪の幼児がポツリと立っていた。
「え?……ま、迷子?」
「ケーキ!美味しそう~」
幼児は会場を指差しニコニコしてる。
「あんた……ママかパパは?はぐれちゃったの?」
ジュリアンは屈んで幼児の目線に合わせて問う。
けれど幼児はニコニコしながら首をコクリと横に傾けだけだった。
「変わった髪色ね、外国人かな?」
突然、ニャアア~っとどこからか猫の鳴き声がした。
「にゃあ?」
幼児は真似をして、また首を傾げた。
ジュリアンは立ち上がると辺りを見渡した。
なんだか上の階が騒がしい。
上のフロアから立て続けにガラスが割れる音がした。
1階に居た客は一斉に上を見上げている。
ジュリアンは幼児を抱き上げて中庭に飛び出ると上を見上げる。
あそこは精霊展示会のあるフロアだ。
「え?」
2階にバルコニーの手すりに、電気を纏った立派なたてがみを持つ、巨大な黒馬が乗っている。
目を真っ赤に光らせ凶暴化していた。
その周りにも展示されていたはずの精霊が飛び出して、空へ向かって逃げていく。
「あれは……精霊!?どうして……?」
精霊展示会から精霊が逃げ出したのか……。
「スノウ……!」
呆然と立ち尽くすジュリアンの前に銀髪の美青年が走って来た。
白髪の幼児は笑顔で彼に抱き着く。
「お母ちゃん!」
「え?あんた……」
ジュリアンを目掛けて暴れ馬は急降下した。
「あっ、危ないわ!」
シャルロットは駆け足でジュリアンにタックルし、芝生の上に転がった。
暴れ馬は中庭に降り立ち、錯乱して鳴き叫ぶ。
「シャルロット……離れて」
銀髪の美青年は芝生の上に座り込むシャルロットとジュリアンの前に出ると、銀色の毛並みのオオカミに変化した。
ジュリアンは目を見張る。
「せっ……精霊なの?」
遅れてやって来た鮮やかなピンク色のオオカミも加勢する。
動けずにいたジュリアンとシャルロットの腕を騎士らは引っ張り、屋内へ避難させる。
ふと周りを見渡すと、客や学生たちがその場で皆 眠りについている。
「な、なっ……?」
何が何だかわからない。
そして2階から二つの影が降って来た……。
大鎌を持った大男ベンジャミンと、黒いオオカミ姿のクロウだった。
展示している精霊の売買もしているようだ。先程からスーツ姿の中肉中背の男が売り込みをしている……。
ケージの上部には値札が付いており、庶民の家が一棟買える値段のものから、馬一頭ほどの値段までピンキリだった。
学生祭にしては富裕層の客もちらほら見かけると思っていたが、これが目当てだったのか……。
『売約済み』の札が貼られてあるケージもあった。
シャルロットは怒りで震えた。
「許せない!……私が責任者に抗議するわ……!」
くるっと踵を返したシャルロットの手を、アーサーは掴んで引き留めた。
アーサーは至って冷静だった。
「姫様、いけません!相手の素性も知れないのに無闇に首を突っ込んでは…、あなたは一般人ではなくクライシア大国の妃殿下です。他国で問題を起こしてはいけません」
「アーサーさん……で、でも……放って置けないわ!」
「姫様の気持ちはわかります。でも、今はアーサーの言うことが正しいです、どうか抑えてください」
「キャロルさん……、でも……」
騎士達になだめられて、シャルロットは落ち着いた。
「帰ったら、グレース皇子達にも相談して打つ手を考えましょう」
「そうです。感情的に動いてもいい事はありません。どうか落ち着いて」
「はい……」
シャルロットは暗い顔をしてコクリと頷く。
展示会場を出るようにアーサーから促され入り口へ向かって歩き出したが、どうしても気になり振り返る。
精霊達は目にいっぱい涙を溜めて助けを求めるようにシャルロットを見つめていた。
シャルロットは心を痛めていた。
「ママ~!」
会場を出るとエステルが慌てた様子で走って来た。
「エステル?どうしたの?」
「スノウがいなくなっちゃった!」
「え!?」
「ごめんなさい~ママ~グレイ~」
エステルはオロオロと戸惑っていた。
グレイもこれには驚いた顔をしてる。
「それなら…、俺が透視の魔法で捜してみる…」
アーサーは目を閉じて意識を集中させた。
「ど、どう?」
やがて目を開くと、彼は東の方角を指差した。
「1階の……スイーツアートコンテストの会場の中だ」
「ええ~?もしかして甘い匂いに誘われて潜り込んじゃったのかなあ?」
「まだ入場前よね。早く連れ戻しに行かなきゃ!」
シャルロット達は走り出した。
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一方、スイーツアートコンテストの会場前にはジュリアンが立っていた。
ぼんやりと会場を見つめていた彼女の足元に、いつのまにか白髪の幼児がポツリと立っていた。
「え?……ま、迷子?」
「ケーキ!美味しそう~」
幼児は会場を指差しニコニコしてる。
「あんた……ママかパパは?はぐれちゃったの?」
ジュリアンは屈んで幼児の目線に合わせて問う。
けれど幼児はニコニコしながら首をコクリと横に傾けだけだった。
「変わった髪色ね、外国人かな?」
突然、ニャアア~っとどこからか猫の鳴き声がした。
「にゃあ?」
幼児は真似をして、また首を傾げた。
ジュリアンは立ち上がると辺りを見渡した。
なんだか上の階が騒がしい。
上のフロアから立て続けにガラスが割れる音がした。
1階に居た客は一斉に上を見上げている。
ジュリアンは幼児を抱き上げて中庭に飛び出ると上を見上げる。
あそこは精霊展示会のあるフロアだ。
「え?」
2階にバルコニーの手すりに、電気を纏った立派なたてがみを持つ、巨大な黒馬が乗っている。
目を真っ赤に光らせ凶暴化していた。
その周りにも展示されていたはずの精霊が飛び出して、空へ向かって逃げていく。
「あれは……精霊!?どうして……?」
精霊展示会から精霊が逃げ出したのか……。
「スノウ……!」
呆然と立ち尽くすジュリアンの前に銀髪の美青年が走って来た。
白髪の幼児は笑顔で彼に抱き着く。
「お母ちゃん!」
「え?あんた……」
ジュリアンを目掛けて暴れ馬は急降下した。
「あっ、危ないわ!」
シャルロットは駆け足でジュリアンにタックルし、芝生の上に転がった。
暴れ馬は中庭に降り立ち、錯乱して鳴き叫ぶ。
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ジュリアンは目を見張る。
「せっ……精霊なの?」
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ふと周りを見渡すと、客や学生たちがその場で皆 眠りについている。
「な、なっ……?」
何が何だかわからない。
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