シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

文字の大きさ
上 下
210 / 262
シャルロットと精霊博士のサンクスギビング・ターキーデー

グレイの幸せ

しおりを挟む
研究所は吹き抜けで広かったけれど足の踏み場がないくらい本が山積みで、書類が散乱していた。
食べかけのパンや汚れた服がテーブルの上を埋め尽くし、なんとか客用のソファーとその周辺だけは片付けられている。

ソファーに横並びに座るオオカミ3匹とシャルロット、テーブルの上にちょこんと座っているスノウ。
傍目に見れば面白い図だった。

精霊博士ベンジャミンはスノウの前脚をギュッと握ったり、顎の下を押したりと真面目な顔で触診していた。
彼はスノウの口をぱかっと開けて覗き込んだ。

「お」

何かを発見したようだ。
そして今度はグレイの口を同じように両手で開ける。

「舌が真っ黒に変色してる、これはホゲホゲって言う魔物の毒だね。グレイ、最近 何か変なもの拾い食いしなかった?栗のような真っ黒い棘だらけの実とか」

ベンジャミンが紙の切れ端に描いたのは、栗のイガイガの中に目玉が入った気味の悪いモンスター。

「……街路樹の下に落ちてた栗を拾って食べた。苦くて不味かったから一個だけ」

「あれ食べるとね、身体の中に寄生して魔力を奪われちゃうんだ。グレイを経由してスノウの体内に入っちゃったみたい。まあ大人のグレイには害はないけど、まだ自分で魔力を作れない赤ちゃんには危ないかな」

ベンジャミンは寄生型魔物に効果がある解毒の実を倉庫から持って来た。
シャルロットはそれを受け取ると、小鉢で摩り下ろしハチミツとクラッシュナッツを加えて食べやすく加工した。

そしてスプーンで掬ってスノウの口に入れた。
スノウは食べてくれたが微妙な顔をしつつも、モグモグと咀嚼してる。
ついでに隣のグレイの口にも入れて食べさせてあげた。

「1週間くらいで完全に毒は抜けるよ、後遺症も無いと思う」

「ほんとね、舌がピンク色に変わったわ」

「やったあ!よかったなあ!我が子よ~」

フクシアも嬉しそう。

「すごいわね、精霊に詳しいのね」

「まあね~、俺のお祖父ちゃんが権威のある有名な精霊博士だったんだ。色々と教えてもらったんだよ」

「まあ、そうだったのね」

彼は一瞬だけ顔を曇らせ、そして次の瞬間には興奮しながらシャルロットに食いついた。

「そう言えば聞きましたよ!妃殿下、あなた、魔力もない人間ながら幻狼の子供を産んだンデスってね!?」

「え……エステルのこと?そうだけど……」

「俺はずっと……!精霊の子供を産んだ人間の存在なんて作り話だと思ってました!そそそそそれがっ……今俺の目の前に!」

ガッチリと手を握られ、間近に迫ってくるベンジャミンの顔。
シャルロットはフリーズしてしまった。

「あ……あの……?」

「どうやって精霊の子を身籠るんですか?身体の変化は?人間の妊娠出産との違いは!?どうやって……」

マシンガンで撃たれまくっているような質問責めに戸惑った。
学者のハートに火を付けてしまったのか……。

そして彼はシャルロットの顔をガッチリと掴み、口を無理やりこじ開けた。
禍々しい笑顔は目と鼻の先にあって恐怖した。

「~~!?」

「精霊の子を産んだ貴重な検体!研究のために妃殿下の唾液を摂取してもいいですか?それから血液検査に~身体検査、尿検査に膣鏡検査も~!脳の検査も必要かな~?ヒャヒャヒャ」

「!?」

シャルロットは顔面蒼白。
注射器やクスコを手に迫り来るマッドサイエンティストの狂気の笑みーー。

「だめぇ!」

クロウが果敢にもシャルロットの前に飛び出し、肉球でベンジャミンの顔をパンチした。

「く、クロウ……」

「シャルロットに手を出したら許さない!お前のお尻を噛んでやるんだから!」

「じゃあ、クロウが代わりに俺の研究のために身を捧げてくれる?」

「いいよっ、その代わりにシャルロットに変なことしちゃダメだからね!」

「クロウ……」

騒がしいやりとりをしている側で、グレイはすっかり元気になったスノウの身体をグルーミングしていた。

「お母ちゃん~」

甘えたような声。
スノウは幸せそうにグレイのお腹にすり寄った。

「……」

クライシア大国のお城でブロンズ像の姿で何年も閉じ込められていたあの頃。
自分がこうやって子供を成して親になるとは考えていなかった、想像すらできなかった。

過去のあれこれはどんなに後悔しても拭えずーー自分は幸せになっちゃいけないってずっと思っていた。

凍てついた心を溶かしてくれたのはシャルロットと、番のフクシアだった。

「グレイ~もう拾い食いすんなよな~」

「うん……」

ずっと子供を望んでいたフクシアもすごく幸せそうに笑ってるーーグレイはつられて微笑した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...