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シャルロットと精霊博士のサンクスギビング・ターキーデー
精霊博士ベンジー
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グレース皇子が通うアカデミーには、世界中から集まった多種多様な若者が通っている。
シャルロットがアカデミーの校舎に入るのは初めてだった。
グレース皇子の親衛隊であるアーサーやアヴィ、それからゲーテも、一般の生徒としてアカデミーに入学し、グレース皇子を校内でもしっかりと護衛している。
「大学みたいね。うふふ、サークルみたいなものまであるのね」
エスター国には王族や貴族などは居ない。
このアカデミーに通う大半の生徒はお金持ちや政治家の子供。
その中に他国の王家から留学して来た王族の人間が混じっているような感じで、奨学金を利用して通ってる成績優秀な庶民の学生も1割程度在籍している。
「シャルロット、手を…」
グレース皇子は物珍しそうにはしゃぎながら彼方此方に視線を忙しなく動かしてるシャルロットの手を握る。
恋人繋ぎーー周りの人達の視線が痛かった。
「あはは、言い寄ってくる美女を次々と打った斬る、超絶無愛想なグレース皇子の奥さんだもん。みんな気になってたみたいだから注目されてるんだよ~」
アヴィが隣で笑ってる。
シャルロットも苦笑した。
「ふふ、そうだったのね…、ん?」
何者かの熱視線に、突然背筋がゾワゾワした。
「ふぎゃあああっ」
クロウの悲鳴が背後から聞こえた。
幻狼姿でシャルロット達の後ろを歩いていたクロウに突然白衣姿の男が飛び付いて羽交い締めにしたのだ。
エスター国には地域によってバラつきはあるが、魔人や獣人の割合が少なくて殆どがノーマルタイプの人間だ。
精霊が見える人間は少ない。
「幻狼だ~!まさか幻狼を拝める日が来るなんて!」
「ほえ~お腹は触っちゃいや~~ん~痴漢~~!」
クロウは泣き叫びシャルロットに助けを求めた。
オオカミに抱き着きベタベタ撫で回したりモフモフしたり、身体中をついばむようにキスしまくる白衣姿の男。隣にいたフクシアとグレイはドン引きして後退りしてる。
「ベンジャミン、良いところに来たな。丁度今からお前の研究所へ向かうところだった」
「おんやぁ~、グレース皇子様?……隣のご婦人は……うわさの妃殿下?とても可愛らしい方ですね」
2メートル近い大男だ。
少し猫背気味で、両目を長い前髪で隠している。
クセ毛で跳ねまくったブランヘア、ヨレヨレの白衣の胸元には懐中時計をぶら下げていた。
「シャルロット、こいつが精霊博士ベンジャミンだ。アカデミーの医学部に在籍している」
「はじめまして、妃殿下。ベンジャミン・シーボルトーー、ベンジーとお呼びください!」
少しオタクっぽい容姿だが、性格はとても明るくハキハキしているようだ。
「はじめまして、ベンジー。私はシャルロット。えっと……医学部で、精霊博士?」
「あははは、本業は医学者。精霊の研究は個人的な趣味だよ。二足のわらじなんだ」
今は本業そっちのけで精霊の研究に没頭してるらしい、とグレース皇子が補足してくれた。
シャルロットは挨拶をすませると手に持っていたバスケットを彼に差し出した。
「えっと……生まれたばかりの子幻狼に元気がないの、診てもらえないかしら?お近付きの印にチョコチップクッキーも焼いてきたのよ、よろしければどうぞ」
「わあ。わざわざありがとうございます。お安い御用ですよ」
ベンジャミンがバスケットの蓋をゆっくり開けると、中から真っ白な子幻狼スノウがキョトンとした顔をのぞかせた。
「ウワアア!幻狼だけでも珍しいのに……幻狼の赤ちゃんなんてめちゃくちゃレアじゃないっすか~!何だ、この生物~カワユス!!」
ベンジャミンは感激して泣き出してしまった。
「ああ!スノウがクッキーを全部食べちゃっているわ!」
スノウと一緒にバスケットに詰めていたクッキーは全滅。
ゲフッとスノウは満足げな顔で噯気を出すとペロッと舌を出して口元を舐めた。
そして、とぼけるように首をコックリと横に傾けている。
その口元や足元にはクッキーの食べかすが沢山ついていた。
「あはは、精霊は甘いものに目がないかねえ」
ベンジャミンは愛おしそうな目をしながらスノウの小さな顎を指で撫でた。
「それは私の子だ、よろしく」
グレイはシャルロットの前に出ると、首をコクっと下げて精霊博士へ我が子を託した。
まだまだ心配そうな顔は変わらない。
「オーケー、じゃあ早速だけど俺の研究室へおいで。診察してあげよう」
シャルロットがアカデミーの校舎に入るのは初めてだった。
グレース皇子の親衛隊であるアーサーやアヴィ、それからゲーテも、一般の生徒としてアカデミーに入学し、グレース皇子を校内でもしっかりと護衛している。
「大学みたいね。うふふ、サークルみたいなものまであるのね」
エスター国には王族や貴族などは居ない。
このアカデミーに通う大半の生徒はお金持ちや政治家の子供。
その中に他国の王家から留学して来た王族の人間が混じっているような感じで、奨学金を利用して通ってる成績優秀な庶民の学生も1割程度在籍している。
「シャルロット、手を…」
グレース皇子は物珍しそうにはしゃぎながら彼方此方に視線を忙しなく動かしてるシャルロットの手を握る。
恋人繋ぎーー周りの人達の視線が痛かった。
「あはは、言い寄ってくる美女を次々と打った斬る、超絶無愛想なグレース皇子の奥さんだもん。みんな気になってたみたいだから注目されてるんだよ~」
アヴィが隣で笑ってる。
シャルロットも苦笑した。
「ふふ、そうだったのね…、ん?」
何者かの熱視線に、突然背筋がゾワゾワした。
「ふぎゃあああっ」
クロウの悲鳴が背後から聞こえた。
幻狼姿でシャルロット達の後ろを歩いていたクロウに突然白衣姿の男が飛び付いて羽交い締めにしたのだ。
エスター国には地域によってバラつきはあるが、魔人や獣人の割合が少なくて殆どがノーマルタイプの人間だ。
精霊が見える人間は少ない。
「幻狼だ~!まさか幻狼を拝める日が来るなんて!」
「ほえ~お腹は触っちゃいや~~ん~痴漢~~!」
クロウは泣き叫びシャルロットに助けを求めた。
オオカミに抱き着きベタベタ撫で回したりモフモフしたり、身体中をついばむようにキスしまくる白衣姿の男。隣にいたフクシアとグレイはドン引きして後退りしてる。
「ベンジャミン、良いところに来たな。丁度今からお前の研究所へ向かうところだった」
「おんやぁ~、グレース皇子様?……隣のご婦人は……うわさの妃殿下?とても可愛らしい方ですね」
2メートル近い大男だ。
少し猫背気味で、両目を長い前髪で隠している。
クセ毛で跳ねまくったブランヘア、ヨレヨレの白衣の胸元には懐中時計をぶら下げていた。
「シャルロット、こいつが精霊博士ベンジャミンだ。アカデミーの医学部に在籍している」
「はじめまして、妃殿下。ベンジャミン・シーボルトーー、ベンジーとお呼びください!」
少しオタクっぽい容姿だが、性格はとても明るくハキハキしているようだ。
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「あははは、本業は医学者。精霊の研究は個人的な趣味だよ。二足のわらじなんだ」
今は本業そっちのけで精霊の研究に没頭してるらしい、とグレース皇子が補足してくれた。
シャルロットは挨拶をすませると手に持っていたバスケットを彼に差し出した。
「えっと……生まれたばかりの子幻狼に元気がないの、診てもらえないかしら?お近付きの印にチョコチップクッキーも焼いてきたのよ、よろしければどうぞ」
「わあ。わざわざありがとうございます。お安い御用ですよ」
ベンジャミンがバスケットの蓋をゆっくり開けると、中から真っ白な子幻狼スノウがキョトンとした顔をのぞかせた。
「ウワアア!幻狼だけでも珍しいのに……幻狼の赤ちゃんなんてめちゃくちゃレアじゃないっすか~!何だ、この生物~カワユス!!」
ベンジャミンは感激して泣き出してしまった。
「ああ!スノウがクッキーを全部食べちゃっているわ!」
スノウと一緒にバスケットに詰めていたクッキーは全滅。
ゲフッとスノウは満足げな顔で噯気を出すとペロッと舌を出して口元を舐めた。
そして、とぼけるように首をコックリと横に傾けている。
その口元や足元にはクッキーの食べかすが沢山ついていた。
「あはは、精霊は甘いものに目がないかねえ」
ベンジャミンは愛おしそうな目をしながらスノウの小さな顎を指で撫でた。
「それは私の子だ、よろしく」
グレイはシャルロットの前に出ると、首をコクっと下げて精霊博士へ我が子を託した。
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