シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

文字の大きさ
上 下
209 / 262
シャルロットと精霊博士のサンクスギビング・ターキーデー

精霊博士ベンジー

しおりを挟む
グレース皇子が通うアカデミーには、世界中から集まった多種多様な若者が通っている。
シャルロットがアカデミーの校舎に入るのは初めてだった。

グレース皇子の親衛隊であるアーサーやアヴィ、それからゲーテも、一般の生徒としてアカデミーに入学し、グレース皇子を校内でもしっかりと護衛している。

「大学みたいね。うふふ、サークルみたいなものまであるのね」

エスター国には王族や貴族などは居ない。
このアカデミーに通う大半の生徒はお金持ちや政治家の子供。
その中に他国の王家から留学して来た王族の人間が混じっているような感じで、奨学金を利用して通ってる成績優秀な庶民の学生も1割程度在籍している。


「シャルロット、手を…」

グレース皇子は物珍しそうにはしゃぎながら彼方此方に視線を忙しなく動かしてるシャルロットの手を握る。
恋人繋ぎーー周りの人達の視線が痛かった。

「あはは、言い寄ってくる美女を次々と打った斬る、超絶無愛想なグレース皇子の奥さんだもん。みんな気になってたみたいだから注目されてるんだよ~」

アヴィが隣で笑ってる。
シャルロットも苦笑した。

 「ふふ、そうだったのね…、ん?」

何者かの熱視線に、突然背筋がゾワゾワした。

「ふぎゃあああっ」

クロウの悲鳴が背後から聞こえた。
幻狼姿でシャルロット達の後ろを歩いていたクロウに突然白衣姿の男が飛び付いて羽交い締めにしたのだ。

エスター国には地域によってバラつきはあるが、魔人や獣人の割合が少なくて殆どがノーマルタイプの人間だ。
精霊が見える人間は少ない。

「幻狼だ~!まさか幻狼を拝める日が来るなんて!」

「ほえ~お腹は触っちゃいや~~ん~痴漢~~!」

クロウは泣き叫びシャルロットに助けを求めた。
オオカミに抱き着きベタベタ撫で回したりモフモフしたり、身体中をついばむようにキスしまくる白衣姿の男。隣にいたフクシアとグレイはドン引きして後退りしてる。

「ベンジャミン、良いところに来たな。丁度今からお前の研究所へ向かうところだった」

「おんやぁ~、グレース皇子様?……隣のご婦人は……うわさの妃殿下?とても可愛らしい方ですね」

2メートル近い大男だ。
少し猫背気味で、両目を長い前髪で隠している。
クセ毛で跳ねまくったブランヘア、ヨレヨレの白衣の胸元には懐中時計をぶら下げていた。

「シャルロット、こいつが精霊博士ベンジャミンだ。アカデミーの医学部に在籍している」

「はじめまして、妃殿下。ベンジャミン・シーボルトーー、ベンジーとお呼びください!」

少しオタクっぽい容姿だが、性格はとても明るくハキハキしているようだ。

「はじめまして、ベンジー。私はシャルロット。えっと……医学部で、精霊博士?」

「あははは、本業は医学者。精霊の研究は個人的な趣味だよ。二足のわらじなんだ」

今は本業そっちのけで精霊の研究に没頭してるらしい、とグレース皇子が補足してくれた。
シャルロットは挨拶をすませると手に持っていたバスケットを彼に差し出した。

「えっと……生まれたばかりの子幻狼に元気がないの、診てもらえないかしら?お近付きの印にチョコチップクッキーも焼いてきたのよ、よろしければどうぞ」

「わあ。わざわざありがとうございます。お安い御用ですよ」

ベンジャミンがバスケットの蓋をゆっくり開けると、中から真っ白な子幻狼スノウがキョトンとした顔をのぞかせた。

「ウワアア!幻狼だけでも珍しいのに……幻狼の赤ちゃんなんてめちゃくちゃレアじゃないっすか~!何だ、この生物~カワユス!!」

ベンジャミンは感激して泣き出してしまった。

「ああ!スノウがクッキーを全部食べちゃっているわ!」

スノウと一緒にバスケットに詰めていたクッキーは全滅。
ゲフッとスノウは満足げな顔で噯気おくびを出すとペロッと舌を出して口元を舐めた。
そして、とぼけるように首をコックリと横に傾けている。

その口元や足元にはクッキーの食べかすが沢山ついていた。

「あはは、精霊は甘いものに目がないかねえ」

ベンジャミンは愛おしそうな目をしながらスノウの小さな顎を指で撫でた。

「それは私の子だ、よろしく」

グレイはシャルロットの前に出ると、首をコクっと下げて精霊博士へ我が子を託した。
まだまだ心配そうな顔は変わらない。

「オーケー、じゃあ早速だけど俺の研究室へおいで。診察してあげよう」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...