シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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奪われたお城と皇子の愛を取り戻せ!?〜シャルロットの幸せウエディングパレード

手に入れた切り札

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 天窓から月光が差し込む大月堂ーー。
 月長石の前には黒い外套を着た魔術師が複数人と、その中央にはゴルソン侯爵の姿があった。
 彼らから離れた場所で、グレース皇子は廃人状態となり虚ろな目をして壁にもたれかかっていた。

 月長石は普段なら乳白色なのだが、魔術師の印が描かれた魔法札を貼られてドス黒く変色してしまっている。

 大月堂は大きな広間、大規模なパーティーや行事の時のみ開放される場所だ。
 膨大な魔力を閉じ込めた巨大な岩のような形の月長石ーー古くからある国宝が飾られ、王族や一部の者のみが入室を許された特別な部屋がある。

 魔法の鍵が厳重に掛けられているが、侵入者達はグレース皇子を操り施錠を解いたんだろう。
 同じ部屋には他にも数々の国宝が眠っていた。

「うわー、すっごーい、財宝の山じゃない!」

 真っ赤なドレスに身を包んだレイナは目を輝かせ、声を弾ませた。
 彼女の隣にいた魔術師の1人が漆黒ジェムがぎっしりと詰め込まれた麻袋を見つけて笑った。

「これだ、昔 この国に強奪されたジェムは……!やはり処分せずに保管していたか!」

 魔術師たちは国際手配されている悪の組織。
 かつてクライシア大国内に潜伏していた魔術師らの出城は国王に見つかり襲撃されて潰された。

 その際に魔術師数名は捕まり処刑された、魔術師が魔法の動力として使用する暗黒ジェムや貴族や小国を襲い強奪した財宝もまとめて没収されていた。
 魔術師らの狙いは奪われた暗黒ジェムを取り返すことだった。

「馬車を手配させて運ばせよう」

 ゴルソン侯爵は笑っている。

 彼は昔から魔術師の組織と癒着していた。

 生家は男爵家、魔術師の力を借りて宰相にまで上り詰めたーー若い頃は先代王妃に寵愛された愛人だった彼は、王妃の力で侯爵の爵位をもらっていたのだ。

 いずれは政治に無頓着で無能なグレース皇子を王に擁立させて、陰で国を操る心算だったのにーーシャルロット姫がこの城にやってきてからグレース皇子は心を入れ替えてすっかり変わってしまった。
 それではまずかった。

 このままでは長年企んでいた計画も失敗に終わってしまうだろうと、ゴルソン侯爵は焦っていた。
 魔術師と利害が一致した彼は今回の暴挙に出たのだった。

 *

 キャロルは白いハンカチを取り出して、負傷し血を流しているシャルロットの腕に巻いた。

「ありがとう、キャロルさん」

「姫様!本当に……無茶はしないでください!怪我までして……!」

「ごめんなさい。でも、ちょっと剣の切っ先がかすって切っただけよ」

 キャロル達が操られた騎士を気絶させてくれたので、シャルロットは地面に倒れて伸びている騎士の頭を一人一人ハリセンで叩いて魔法を解いていった。

「ふう」

 ひと息ついた。

「お姫ちゃ~ん!おっさ~ん!」

 別行動していたユハやアダム2人と合流した。
 2人は何か紙の束を脇に抱えていた。

「うわー死屍累々……」

 ユハは倒れている騎士達を見て驚いていた。

「やっとね~切り札ゲットできたよん!これでゴルソン侯爵は終わりだ!ガハハ」

 悪役のような高笑いをするユハ。
 隣のアダムは苦笑していた。

「切り札……?」

「うん、いろいろね☆朝になったら、魔族特別法廷から人が派遣されるように手配したからーーもう大丈夫だよ」

『魔族特別法廷』ーーシャルロットには聞き慣れないワードを耳にした王は頷いた。

「今まで証拠が不十分で動いてくれなかったんだけど~!お姫ちゃんのおかげだよ~!ありがとう!」

「え?私は何も……」

「姫様が見つけてくれてカメリア妃のレシピ本。あれにゴルソン侯爵に関する告発文が、証拠を添えて書かれてあったんだ……。それをさっき然るべきところへ報告しました。恐らく、カメリア妃が書いたのでしょう」

「えっ……!」

 王の顔が悲しみに歪む。

「カメリア……!そんなことをしていたのか……!だから、ゴルソン侯爵に狙われたのか……!なぜ、そんなことを……」

 ーーゴルソン侯爵の件に関わらなければ、彼女は死ぬこともなかっただろう。


「ううん……姫様?」

 意識を失ってた騎士アーサーが目を覚ました。
 シャルロットは彼の顔を見るなり、閃いた。

「アーサーさん、透視の魔法が使えたわよね?グレース様がどこにいるのか分からないかしら?」

「え?……ああ……」

 アーサーは立ち上がると目を閉じて念じた。

 城の中は禍々しい気を放つものが多くて気が散るーーいつもより透視の魔法を使うのが困難だった。
 集中し、グレース皇子の気配を探った。

 見えたのはーー。

「月が見える巨大な磨りガラスの窓に……宝の山が見える。真っ黒な水晶の入った麻の袋……、シルバーの大きな二重扉……。皇子はそこにいる。ゴルソン侯爵や魔術師らも一緒だ……!」

「……大月堂の、保管室か……」

「行きましょう!グレース様の魔法も解かなきゃ!」

「姫様は安全な場所で待機してください!腕も怪我していますし……」

「私も行くわ!魔法を解けるのは私だけだもの……、それにグレース様を助けたい!じっとしていられないの、お願い!」

 シャルロットは頭を下げた。
 王は笑った。

「いいではないか。お前らがしっかりと姫を守れば、問題ないだろう」

 騎士達に向かって言った。
 騎士達は少し間を置いてから、顔を引き締め強く返事をした。

「……はい!陛下!」


「大丈夫だよ。シャルロットは私が守る」

 グレイはシャルロットの身体に擦り寄った。

「ええ」

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