シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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奪われたお城と皇子の愛を取り戻せ!?〜シャルロットの幸せウエディングパレード

感謝のフェアリーケーキとウエディングパレード

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「できたわ!」

 食堂のキッチンやフロアのテーブルの上には大量のフェアリーケーキ。

 ローズウォーターを使用してほんのり薔薇のいい香り、食べられる花びらで染色した可愛らしいピンク色のカップケーキの真ん中をくり抜き、レモン味のホイップクリームを注入。
 まんまるに盛られたクリームの上にくり抜いたケーキの破片を妖精の羽に見立ててトッピング。
 可愛らしいケーキだ。

 シャルロットは、何千個ものカップケーキ半日かけて食堂メンバーや城仕えの料理人たちと製造していた。

「よかったわ、間に合った……」

 1~2時間仮眠はとったが、ほとんど眠らずに一晩中ケーキを焼いていたシャルロットはクタクタだった。

 ーー今日はシャルロットとグレース皇子の結婚式当日。

「シャルロット様~!」

 甘い香りが立ち込めるキッチンに侍女らが3人慌てて駆け込んできた。
 そしてエプロン姿に紙には小麦粉が、ほっぺにクリームがついたシャルロットの腕を引っ張った。

「えっ…あ、もう朝?」

「もう!お着替えの時間ですよ~!」

「まあ!シャルロット様ったらクリームや小麦粉塗れだわ!さあさ、お風呂に入りましょうね~!」

 夢中で気付かなかった。
 昼過ぎから結婚式は始まる。

 直近の騒動で、結婚式の会場になるはずたった大月堂はめちゃくちゃに半壊してしまっており、延期もしくは中止となる話も出ていたのだがーー。

「私とグレース様の結婚式は城下でパレードを行いたいと思います!」

 シャルロットは提案した。
 それには官僚たちも驚いていた。

「姫様……?しかし」

「形になんてこだわらなくていいの。大事なのは中身だと思うわ」

 賛否は分かれたが、賛同してくれたグレース皇子がなんとかみんなを説得してくれて、この国では前例のないウェディングパレードが街で行われることが決定した。

 何千個も用意したカップケーキは街の人たちに配るために用意した。
 本殿の料理人や街のケーキ屋さんにも追加で用意してもらってる。

 ちゃんと足りるのか心配だ……。

 街の様子も、街中で行われる前代未聞の王族の結婚式にお祭り騒ぎのようだ。
 結婚祝いに花の精霊フラーが街中に真っ白な美しい薔薇を咲かせてくれた。真冬だと言うのに花で溢れかえっている。
 奇跡だと、街の人たちも大喜び。
 お店の前には屋台が並び、他所からも人や噂を聞いた精霊がわらわらと集まっているそうだ。

 15時に城を出発。街中をパレードして、ハロゲートのチャペルへ転移魔法で直行。
 そこでグレース皇子と親族のみで小さな挙式をする。

 *
 シャルロットの私室の窓際には、グレース皇子からもらったベビーイエローのテディベアが飾られていた。
 かれこれ3~4時間、化粧や着替えのために拘束されている。

 全体的に白を基調としたふんわりとしたフレアなドレス。
 裾には仕立て屋にあつらえてもらった太陽と星の大型な金の刺繍。ふわふわのゴージャスなファーがついたフード付きの真っ白な厚手のマントと、白い手袋、金色のブーツ。
 これがシャルロットの結婚式の衣装だ。

 それらに着替えて、再び椅子に座らされた。

「ふわぁ~!シャルロット…綺麗~」

 お化粧もしてもらった。
 ほぼ徹夜でクマがうっすらと出来ていたから侍女にはすごく怒られた。
 お白粉にピンク色のルージュ、血色よくするために頬にチークもはたいて、髪は編み込んでもらった。

「クロウとグレイも素敵ね」

 人の姿をした幻狼2匹も着飾っていた。
 お揃いの銀色の綺麗なスーツを着ていた。一緒にパレードに参加するのだ。

「いいなあ~オレもそれ着たかった!」

 フクシアは不満そうだ。

「だめだ、これは王族に仕える幻狼だけが着れる衣装だ」

「うう~。ん~でも、グレイ超かっこいいぜ~!いつもかっこいいけどなあ!いつもの千倍かっこいいよ~!だいすき~!」

「……」

「フクシア、私はどう?カッコいい?」

「クロウは~うーん、お孫さんにもコスチュームで~?めっちゃカッコいいよ~!」

「なにそれっ!ぜんぜん褒めてないよ!」

 グレイとフクシア、2人はいちゃつき出した。

 *

 時間きっちりに、待機室に控えていたシャルロットの元に王族の正装を着て、おめかししたグレース皇子が騎士達を引き連れて現れた。
 シャルロットとお揃いのファー付きの真っ白なマントを被り、手袋をしていた。

 1人掛けのソファーに座っていたシャルロットに手を差し伸べ、スマートにエスコートし立たせてあげた。

「シャルロット、すごく綺麗だな」

「ふふっ、グレース様もカッコいいわ」

 2人は照れたように笑い合った。
 そして手を繋ぎながら扉へ向かい、真っ赤な絨毯が敷かれた長い階段を降りた。
 真下には豪華な王室専用のランドー馬車が待機していた。

 この日のために造花の薔薇がゴージャスに飾られてあった。

「う~っ私がシャルロットと一緒に乗るんだ!」

「ハア?シャルロットは俺の妻になるんだ。俺がシャルロットの隣に座るのが当然だろ」

「私の奥さんだもん~グレースのバカァ!」

「幻狼用の馬車はちゃんとあるんだから、グレイとあっちに乗ればいいだろう」

「ふぇぇん、シャルロット~私と一緒に乗ろうよ~」

 パレードに使う馬車は二人乗りだった。
 それで馬車の前でグレース皇子とクロウは大声で喧嘩を始めてしまった。

 騎士や馬子を務めている騎士イルカルも困ったように笑ってる。

「もう…。喧嘩はやめてちょうだい。時間が押しちゃうわ。ほら、クロウ、乗りましょう?」

 シャルロットはクロウの背中を押した。

「シャルロット~…」

 てっきり一緒に乗ってくれると思って笑顔になり馬車に乗ったクロウだが、シャルロットはグレース皇子の腕を引っ張りクロウの隣へ座らせた。

 先頭の馬車に隣り合って乗るグレース皇子とクロウ。

「出発してください」

 シャルロットの声と共に馬車は走り出す。

「ほえ~」

 グレース皇子は顔を青くしてるしクロウは絶叫したが、2人に構わず馬車は遠くなる。
 シャルロットはクスクス笑うと、グレイと共に後方の馬車に乗り出発した。

「わあ、人がいっぱいね」

 城から出ると城門の前は人集り、それは街の方まで続いていた。
 老若男女、街の人たちが笑顔でこちらに手を振ったり拍手をし祝福していた。
 シャルロットもそれに応える。

「街の人たちの顔がちゃんと見れて良いわね。パレードにしてよかったわ」

 オリヴィア小国は田舎の小さい国だから国民達との距離感も近かったが、クライシア大国は国民と触れ合うどころかお城からもほとんど出ることが出来なかった。

 でもこれからグレース皇子と共に国を治めることになるならば、きちんと国民の顔を見て、街の様子にもしっかりと目を配るようにしなくてはーー、過去のような王室の悲劇や国民を苦しめるような苛政をもう二度と起こしてはいけない。ーーシャルロットは強く心に決めた。

 馬車の周りは馬に乗った騎士達が警護している。

「あっ!孤児院の子供達だわ」

 シャルロットは笑顔でパン屋さんの前に固まっていた子供達の集団に大きく手を振った。
 子供達は元気に手を振り返し、目立つようにぴょんぴょんと跳ねている。

 孤児院は騒動に巻き込まれて火事になってしまったが、あの後 ボロボロだった屋敷は壊して新たに建設中だ。詫びのつもりで仮の施設はシャルロットが自費で提供した。
 それと、孤児院には専属の家庭教師を雇い、子供達には計算や文字の読み書きを教えてもらっている。

 パレードは終わり、馬子を担当しているイルカルの転移魔法で馬車ごと北のハロゲートへ移動した。

「ん?」

 グレイはシャルロットの横顔をじっと見つめ、それから甘えるように肩にもたれかかった。
 クロウがヤキモチを焼いて前の馬車からものすごく睨んでいる。

「グレイ、眠いの?それとも酔ったのかしら」

「ううん。私は……シャルロットと契約してよかった……って思ったんだ。これからも私の主人あるじで居てくれ」

「ふふ。うん、私の方こそよろしくね」

 頭を撫でてあげるとグレイは無言だったが、可愛い笑顔を見せてくれた。

 チャペルに到着すると、クライシア大国の王や宰相、公爵家にユハやアルハンゲル、リリースと火の精霊ウェスタ。
 それにオリヴィア小国のシャルロットの家族らが待っていた。

 馬車を降りると、みんなに祝福されながら精霊薔薇が咲く道を歩く。

 ーー屋根に金色の大きな鐘が付いた小屋のような小さな聖堂の中に、シャルロットとグレース皇子、幻狼クロウは静かに入室した。
 遠くでみんなが見守る中でシャルロットとグレース皇子2人は誓いの言葉を述べて、婚姻を結ぶための特別な書類に互いの名をサインをすると、指輪を交換した。

「これで俺らは晴れて夫婦だな」

「そうね」

「あ、雪だ……」

 空からはらはらと粉雪が降ってきて、地面を白く染めていく。

「綺麗…」


 なんて幸せなホワイトウエディングだろう。
 シャルロットの目頭は熱くなった。

 粉雪のシャワーの中、祝福するようにチャペルの鐘が丘に鳴り響いていた。



【END】
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