シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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奪われたお城と皇子の愛を取り戻せ!?〜シャルロットの幸せウエディングパレード

奪われたグレース皇子の愛

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「何?ここ……」

 窓一つない地下牢だーー。
 王族や貴族を折檻する場所なのだろう、普通の地下牢よりは清潔で、床にも絨毯が敷かれてあってベッドまで付いていたが……何故自分がこんな場所に閉じ込められているのか、シャルロットには理解できなかった。

 あれから巡察隊や騎士団、官僚から四時間以上に渡る長い取り調べを受けた。
 みんな態度こそ柔らかかったが、何度否定しようがシャルロットを頑なに犯人だと決め込んでいたし、身に覚えのない余罪の証拠まで持ってきて長々と詰問してきた。

 ーー国庫金を横領したとか、施設のお金を横領し その証拠を消すために放火したのだとか、トンチンカン過ぎるし、拘束とか証拠だとか不自然なくらい用意周到過ぎるわ……。
 誰かが私を陥れようとしている……?
 でもどうしてこんな辻褄も合わないおかしな言い掛かりをみんなは信じ込んでるのーー?
 ちゃんとした裁判なんてものもなく、ほぼ言い掛かりのような状況証拠のみでーー最終的な王の判断も待たずに他国の大公爵の娘を、自国の皇子の婚約者を牢屋に入れるとか……あり得ないわ!

 下手すれば国交問題に発展するかもしれないのに、どうしてそれが平然とまかり通っているのか?

 牢屋の中で一人になった途端、シャルロットは冷静になった。

「……シャルロット」

 突然 カタンっと音がして背後を振り返ると、天井からロシアンブルーの猫が降ってきた。
 シャルロットの表情は明るくなる。

「アル……っ!」

 猫の姿のアルハンゲルはシャルロットに駆け寄り、ちょこんと脇に座った。
 冷たい牢屋の中で心細かったシャルロットは嬉しくて猫を思い切り抱きしめる。

「大丈夫か?シャルロット」

「え、ええ!」

「この牢屋には結界があって精霊達も入れない。だから俺が天井裏から入ってきたんだ」

「え?……」

 だから何度ウェスタに呼びかけても無反応なのか……。
 シャルロットの顔が曇る。

「ね、ねえ、急にお城のみんなはどうしちゃったの?人が変わってしまったみたい」

 シャルロットを見る侍女や騎士達の目さえ冷たかった。
 今までは友好的に接してくれていた人達だーーだから尚更悲しい。

「ユハとコボルトが言うには、みんな魔法で心を操られているらしい。それに記憶を改竄されている……」

「そんな……!でも、アルやユハは何ともないのね?」

 猫の姿のアルはクビに何かを巻き付けていた。
 それをシャルロットに見せるように頭を上げた。

「それ……私がこの前みんなにあげた精霊竹の御守りね?」

 精霊竹の竹ひごで六芒星を作り、その中に月光浴させた透明な水晶のかけらを入れた、オリヴィア小国の伝統的な御守りだ。
 シャルロットのお手製である。

「この御守りのお陰で俺たちには魔法が掛からなかったようだ。それから、精霊には元から人間の魔法なんて効かないしーー幻狼達も無事だ」

 シャルロットはホッとした。

 地下牢の中は音がよく響くーー。
 入口の方で男達の揉める声が聴こえ、猫のアルハンゲルは見つからないようにシャルロットのワンピースの裾の中に身を隠した。

 カツカツカツ

 靴の音が近付いてくる。
 シャルロットは生唾を飲み込んで、檻の向こうを見つめていた。

 そこに現れたのはグレース皇子だった。

「グレース様……!」

 シャルロットは笑顔になった。
 助けに駆け付けてくれたんだろうか?そう期待して二人を隔てる檻に飛び付いた。

「グレース様!……あの……、私……っ」

 グレース皇子の目は澱んでいた。
 シャルロットは驚いて言葉を失う。

 騎士達と同じあの瞳だ。

「グレース様?」

「気安く俺の名を呼ぶな!卑しい女め」

怒鳴り声が響いた。

「……え?」

 シャルロットを見つめる冷酷な目に、彼女の笑顔は瞬時に引き攣る。

「私利私欲のために…罪のない子供達の施設に火を放ったそうだな。人間の所業とは思えない……!」

「グレース様……?わっーー私はそんなことしてないわ!信じてください!」

 必死に訴え、グレース皇子に手を伸ばすと彼はシャルロットの手を思い切り払い除けた。

「グレースのバカァ~~~!」

 チワワの姿を解いてもらったのかーー人型のクロウが地下牢の階段を駆け足で降りてきて思い切りグレース皇子の身体に体当たりをした。
 グレース皇子は地面に倒れこむ。
 クロウはすぐに檻の前にしゃがみ込むと牢屋の鉄製の錠前を手に取って、思い切り素手で掴み引き千切った。

「シャルロット……!助けに来たよ!」

「……クロウっ」

 シャルロットは檻の中に入って手を伸ばしてきたクロウに抱き着いた。
 後ろでグレース皇子が戸惑っている。

「クロウ!待て!何をしてるんだ!コイツは放火と横領の罪を犯した重罪人……」

「おバカ!シャルロットは絶対にそんなことしてないって何回も言ってるでしょ!?檻に入れちゃうなんて信じられない!目を覚ましてよ!」

 クロウはグレース皇子に向かって怒鳴った。
 その目は怒りで赤く光っていた。

 魔法にかかって洗脳されてしまったグレース皇子にはクロウの言葉は届かない。

 クロウはシャルロットを横抱きにして檻の中を出た。
 グレース皇子は地下牢の入り口に向かって歩き出した彼の肩を掴み、それを制止した。

「目を覚ますのはお前の方だ……!何故その女に肩入れする!下手すればお前も罰を受けるぞ!」

「シャルロットが罰を受けるなら私も一緒に罰を受けるよ!シャルロットは私の番なんだもの!」

「何をーー」

 グレース皇子の頭からはシャルロットに関する記憶がごっそりと抜けているようだった。
 クロウは半泣きしながらグレース皇子を睨む。

「バカバカバカバカ!もういい!シャルロットは私が連れて行く!」

「待て!クロウ!」

「グレースなんか大嫌い!絶交だ!」

 クロウは地下牢の階段を駆け上がると、本殿の廊下を全力疾走した。
 第一騎士団の騎士らが追い掛けるが幻狼のスピードや体力には敵わない。

 シャルロットは胸に猫を抱えて、クロウの肩から背後を覗き込む。
 もう追っ手はいないようだ。

 *

 地下牢に一人取り残されたグレース皇子は目眩を覚えて頭を抱え込んでいた。
 そこに一人の少女が現れる。

「……レイナ」

 “我が恋人”レイナーーグレース皇子の記憶はそう書き換えられていた。
 シャルロット、あの卑しい女は父が決めた婚約者、政略結婚の相手。強欲な女で、グレース皇子とレイナに横槍を入れてくる……。

 頭の中がもやもやする。
 シャルロットを目にした途端、胸がざわめいた。

「あの子、逃げちゃったの………?」

 レイナはグレース皇子の腕に抱き着いた。

「ああ……」

 レイナは目を潤ませると、グレース皇子の胸の中に飛び込んだ。

「どうしよう……怖いわ……!あの子にまた報復でもされたら……!」

「大丈夫だ、心配は要らない。騎士らが後を追っている。捕まえて、もう一度牢屋に打ち込むさ、婚約もちゃんと解消してやる」

 自分の意志ではない事を口にするたびに頭に鈍痛がした。
 微かに自我は残っていた。だが、まるで何かに身体を乗っ取られたかのように自我を外に表すことができない。

 グレース皇子は虚ろな瞳でニッコリと彼女に笑いかけた。
 レイナは彼の胸の中で満足そうに笑った。
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