シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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奪われたお城と皇子の愛を取り戻せ!?〜シャルロットの幸せウエディングパレード

シャルロットと不思議なレシピ本

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シャルロットは前世、幼い頃に両親や祖父母からよく絵本を与えられていた。
お姫様が素敵な王子様と出会って恋をして結ばれるお話だった。
煌びやかな宝石を身につけて可愛いドレスを着て、美味しそうなお菓子を食べて、優雅に暮らしてて、王子様はすごくかっこよくてーー女の子なら誰もが憧れるはずだろう。

(お姫様って実際は、絵本のように絶対幸せなものでもないのよね…)

シャルロットの故郷オリヴィア小国は王族でも比較的ゆるい感じだったが、クライシア大国は一般的に自由に恋愛や結婚なんかできないし、幼い頃から勉強やお稽古ごと尽くし、作法やマナーにうるさいし、常に護衛や侍女が付いててプライベートなんて皆無。行動に制限はあるし、自由に外へ出ることもできない。

グレース皇子とのデートも、基本的に騎士や執事達が同伴している。
特に最近は護衛が厳しくなっていた。
室内であっても第一騎士団の騎士らが張り付いているのだ。
グレース皇子はイライラが隠せない。

「お前らは下がっていいぞ」

グレース皇子はギロッとシャルロットの背後に立つ護衛のキャロルを睨んだ。
キャロルは負けじと叫ぶように言った。

「私は姫様の騎士です、しっかりと護衛いたします!」

シャルロットはグレース皇子と手を恋人繋ぎし、お城のガーデン内を散歩していた。

「邪魔だな」

「グレース様、キャロルさん達もお仕事なんだから。仕方ないわ」

王族にプライベートは無いのだ。

「騎士の護衛を付けるなら外出の許可をくれても良いじゃ無いか?」

「姫様がお城から出るのは当面禁止だとーー陛下のご命令です」

「……厳しいわね」

シャルロットには詳細は教えてくれなかったのだが、今お城の中がゴタついているようだ。
護衛が厳しくなったのもそれが理由だった。

グレース皇子はシャルロットの手を引いて、城の離れにある王室の図書館の中に駆け込む。
後を付いてきた騎士を外へ追い出し、睨んだ。

「……姫と図書館に入るから、お前らは外を見張ってろ」

「お、皇子……」

キャロルとアダムは顔を見合わせ苦笑いした。

「グレース様…」

「ハァ……やっと姫と二人きりになれた」

手は繋がれたままだ。
二人は奥にある部屋へ進み、窓辺の長椅子に座った。

「図書館なんて初めて来たわ!広いのね~!」

「ここは王族しか入れない部屋だ。ここなら騎士も入ってこれないぞ」

グレース皇子は満足げに笑う。

「まあ、そうなの。あ、これって幻狼の本?」

本棚に平積みされていた巨大な絵本には、大きく幻狼の絵が描かれてあった。
シャルロットは楽しそうに部屋の中をうろつく。

王室の歴史書、幻狼や精霊について書かれた文献、貴族の名簿ーー重要な書物や文献が保管されている部屋のようだ。

部屋に入った瞬間、細かな光の玉がシャルロットの目の前に飛び出してきた。

「……きゃ!」

「姫?どうした?」

「え?光がーー」

グレース皇子には見えていないようだ。
光の玉はクルッと宙に舞い上がり、本棚の前を飛び、とある一冊の本の前に留まった。
まるでシャルロットを導いているようだ。

「……?」

不思議に思い手を伸ばすが届かない。
部屋の片隅にあった踏み台を引っ張り出してシャルロットはのぼった。

光が導いた一冊の本を手に取ってみると、異国風のデザインの表紙に異国の文字。表紙の隅にはクライシア大国の文字で『カメリア』と手書きで記載があった。

中を開くと異国の文字が並び、柔らかいタッチの料理のイラストがいくつも描かれてあった。

(『カメリア』…?グレース皇子のお母様の名前だわ)

ぼんやりとしていたから踏み台から足を踏み外して落ちかけてしまう。
それを咄嗟にグレース皇子は支えた。

「ぐ、グレース様…」

「大丈夫か?」

「ええ、見て、グレース様。これ、グレース様のお母様の本よ」

「……ああ、お母様の故郷の料理のレシピを書き記したノートだな。滅んだお母様の国のお城に長く仕えていた料理人が故郷の味を引き継いでいくために書いてくれたらしい…。俺が子供の頃はこの本を見ながらお母様がよく料理を作ってくれたんだ。なんだ…、ここに保管されていたのか」

「わあ~、ねえグレース様!このレシピ本、私がもらっても良いかしら?」

「ああ…、しかし、言語が違うから読めないだろう。お母様の母国語は俺も少しなら会話はできるが、文字は読めない」

「そうね…」

シャルロットは困ったように本を見つめた。

ニヴルヘイムランドーー通称氷の国と呼ばれていた、北大陸の更に北にある小さな島国。
数十年前にクライシア大国との戦に敗れて国は滅んでしまっている。
グレース皇子の母は、ニヴルヘイム国のお姫様だった。


「……姫の護衛をしてるアダム。あいつの母系が、俺のお母様の母国ニヴルヘイム出身の貴族だ。翻訳を頼んでみてはどうだ?」

「まあ、そうなのね。アダムさんに聞いてみるわ!」

素敵な本を手に入れてシャルロットは嬉しそうに笑った。

*

「わかりました。私がこのレシピ本を翻訳しましょう。ニヴルヘイム語は分かります」

アダムは快く引き受けてくれた。

「ありがとう!お礼はちゃんとするわね!」

「でしたら…姫様が作った焼き菓子をいただけますか?今度実家へ帰省するので、手土産に持って帰りたいんです」

「あら、お菓子でいいの?」

「ええ、実家の姉に姫様の話を手紙でしたら、食べたがっていましたから…。最近姉が子供を産んだんです。そのお祝いで帰省する予定なんですよ」

「まあ!めでたいわね。喜んで作らせていただくわ」

「じゃあ、プリンが良いですよ。姫様のプリンは世界一です!」

横にいたキャロルがはしゃいでいた。
シャルロットとアダムはつられて笑う。

「あ、ここで良いわよ。2人とも、今日も護衛ありがとうございます。アダムさん、それではよろしくお願いします」

シャルロットは月守の入り口で一礼をすると、いつものように護衛と別れた。
彼女が立ち去って騎士のキャロルは大きく伸びをした。

「このまま食堂へ行こうぜ、アダム。今夜はカレーが出る日だって、ユハが言っていたろ!数量限定で人気だから早く行かなきゃ無くなっちゃう!」

キャロルは楽しそうに本殿の廊下を歩いていた。
アダムは笑いながら、ふとシャルロットから預かったレシピ本をパラパラとめくっていた。

「………ん?」

本の半分のページは様々な料理のレシピや、食材についての知識や料理法、文化や歴史について手書きの記述があったがーー残り半分は筆跡の違う、女性らしい細やかな字で、何か文章が綴られていた。

ーーこれを貴方に読んでいただくために。
命が今にも尽きそうな今、最後の力を振り絞り このレシピ本に魔法をかけました。
あなたを導くための魔法を。どうかこの本を手に取ったあなた、力を貸してください。
どうかあの人を、私の愛する人を助けて欲しいの。

最初のページには大陸一番に難解とされているニヴルヘイム語で、その文だけ書かれてあった。
文章の終わりに記された名前、『カメリア』…死んだ妃の名前だ。

彼女も魔人だ、このレシピ本からは微かに魔法の気配がした。
どうやらこの本がシャルロットを通じ、この国でニヴルヘイム語が読める数少ない人間である自分の手に渡ってきた事は偶然ではないようだ。

恐らく、カメリア妃がそうなるように魔法をかけていたのだ。

「こ、これは……!」

「アダム~?どうしたんだ?」

「いや……」

パラパラとカメリア妃がニヴルヘイム語で記したページを読むアダムの顔が曇っていく。
キャロルは首を傾げていた。

「食堂にはユハがいるよな?…」

「ああ」

「急ごう」

「え?アダム!どうしたんだよ?」

突然本を大事そうに抱えたまま走り出したアダムを、キャロルは追い掛けた。

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