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奪われたお城と皇子の愛を取り戻せ!?〜シャルロットの幸せウエディングパレード
バウムクーヘンのレモンカード添えと初恋の行方
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「は~ぁ~」
食堂の仕事がひと段落つくと、リリースはカウンターにもたれかかってうなだれていた。
火の精霊ウェスタはそんな彼女を気に掛け、近寄って声を掛けた。
「何よ、どうしたの?」
「ちょっとね~、さっき本殿の厨房へ行った時、父にばったり会っちゃったの」
「そういえば、家出中だったのよねえ。何か言われたの?」
リリースの父親は宰相をやっている。
本殿で働いてるから、嫌でも顔を合わせてしまう事がある。
お互いに意地の張り合いで今はギスギスしてて、父の姿を見かけたら猛ダッシュで逃げるような生活をしていたのだが……。
「あたし、ルシアに弟子入りして東の領地へ行って修行をしようって考えているの」
東の魔女と呼ばれるルシアは精霊や薬草、魔法などに詳しい老婆だ。
「あら?そういえばルシアは薬学に詳しかったわね」
「うん、シャルロットが精霊の赤ちゃんを産んだ時、産婆をしてたルシアにすごく感動してね。あたし、東の魔女になりたい!って思ったの」
リリースは熱く語った。
ウェスタは微笑ましそうに笑っている。
「夢ーー見つかったのね」
「うん……だから父に相談したのよ、わざわざ本殿まで会いに行ってね。ダメって話聞くなり即答よ。それだけじゃない、さっき会った時なんてね、新しい見合いの話まで持ち出して来たの」
せっかく自分のやりたい事が見つかったのにーー。
どうして親は子供を縛りたがるんだろう。
リリースはむしゃくしゃして、余っていたフルーツを口にした。
「どうしたの?元気がないっすね」
背後に気配がして、くるっと振り返ると私服姿のユーシンがいた。
リリースは驚愕して思い切り後退り、声にならない悲鳴をあげた。
「ゆっ……ユーシン?どうしたの?」
「えっと、クロウの畑で採れた野菜を運んできたんです。今日は騎士の仕事も無くてオフですよ」
「そう…、どこかへ出掛けるの?」
ユーシンは余所行きの外套を羽織っていた。
「ああ、街で父と母が王都まで来てるから一緒に食事するんです。帰国して、あまりのんびり出来なっかたので」
「へえ…」
「リリースさんは午後は暇?一緒に食事でもどう?」
ユーシンからのまさかのお誘いにまた驚愕するリリース。
「なっなんで、あんたの親と、しょしょ食事!?」
「シャルロット姫を誘っていたんだけど、護衛の都合で城を出る許可がおりなかったんだ。予約していた席が一つ余ってるし、気晴らしにどう?最近ペレー国の菓子職人がオープンした大人気のバウムクーヘン屋さんだよ。予約もなかなか取れないんだから」
ユーシンはニコニコ明るく笑ってる。
リリースはほっぺたを真っ赤にして冷や汗を全身にかいていた。
(これって……デートみたいな感じ?……保護者同伴だけど)
「行って来なさい、早く上がっていいわよ…今日は暇だし」
ウェスタが笑ってリリースの背中を押した。
*
城下の公園の噴水前にユーシンの義理の両親が立っていた。
彼らはにこやかに手を振っていた。
「おや、宰相閣下のお嬢さんかい。はじめまして」
「ど、どうも…、リリース・ミシュウです。はじめまして。東大陸の件聞きました、大変だったわね」
「はは、この通りピンピンしてますよ」
この感じの良い穏やかな老夫婦は東大陸に拉致されていたそうだ。
シャルロットやユーシンたちに救出され、こうして帰国している。
「わぁ~!ユーシン、来なさいよ。本当に樹木のような見た目ね!」
「わあ……美味しそう」
公園のすぐそばにバウムクーヘンの店はあった。テイクアウトもできるし、イートインコーナーまであるオシャレな外国風の外観のお店で、客層は男女問わず広い。
外のショーウィンドウからバウムクーヘンが作られている様が見物できた。
くるくると回転する鉄の棒に生地が流し込まれる。
そのまま回って、何層も生地が分かれて切り株の年輪のようになっていた。
あれはペレー国の伝統的なお菓子らしい。
「秋冬限定のレモンカード添えですって!持ち帰れるから、シャルロットやユハたちにも買ってあげましょうよ。レモンカードは瓶入りも売ってるわ」
レモンカードとはクライシア大国の伝統的な冬のジャム。
レモンジャムにバターと卵が入ってて、濃厚で甘酸っぱくて美味しいジャムだ。
「うん、そうっすね。店内だと紅茶も飲めるみたい。父さんたち、早く中へ入ろう」
夫妻は少し離れた場所からユーシンとリリースの様子をほのぼのと眺めていた。
「こうして見ると、二人は可愛らしいカップルみたいですわね」
夫人が笑ってる。
彼女の言葉にリリースは赤面した。ユーシンは隣で困ったようにヘラヘラ笑ってる。
落ち着いている店内。
カットされて出てきたバームクーヘン、小さなココットには綺麗なイエローのレモンカード。
そして美味しい紅茶にお砂糖とミルクを入れてクルクルとティースプーンで回した。
4人で木製のテーブルに着いて同じ紅茶とバウムクーヘンを食べていた。
「おいしい~!」
リリースは笑顔になった。
「よかった」
「今度は2人で来たらいいよ」
夫妻はニタニタと笑ってる。
リリースとユーシンは顔を見合わせて苦笑いしていた。
「……えっと、それで、今日は父さん達に話したいことがあって……」
ユーシンは真面目な顔になって切り出した。
「……俺、グレース皇子とシャルロット姫の護衛にーー、親衛隊を目指そうと思うんだ!試験とか選考とか色々あるから、本当になれるのかはわからないけど」
「ああ、シャルロット姫か……。彼女がお前が小さい頃から言ってた護りたい、大切な人なんだろう?いいさ、お前の好きなようにすれば良い」
「ゴメン、捨て子の俺を拾ってもらったのに、父さんたちには親孝行もできなくて」
「何言ってるんだ。お前が元気に、幸せに生きていることが私たちの幸せでもあるんだよ。それに親衛隊になれたら私達も鼻が高いよ。私達は一代貴族だから継ぐべきものもないし、お前がしたいことをすれば良い」
「そうよ。応援してるわ。でも、たまにはうちにも顔を見せに来なさいな」
『親衛隊』ーーユーシンの護りたい人。
ああ、そうか……、リリースはなんだか寂しい気分になった。
*
スイーツを堪能した後、夫妻とはすぐに別れることになった。
ユーシンは夫妻とハグをし合って、手土産を渡すと2人が乗り込んだ馬車に手を振った。
2人取り残されたリリースとユーシン。
「すごいわね、ちゃんと自分の夢の話を親に向かって言えて」
「緊張したっすけどね。リリースさんも夢があるの?」
リリースの表情は曇る。
「薬草や薬学が子供の頃から大好きなのよ。魔法もまあ得意だし。だから、東の魔女の後継者になりたいの。ルシアの元へ修行へ出るつもりよ。父は認めてくれないけれどね」
落ち込むリリースの頭をユーシンは優しく撫でた。
リリースは照れながら頭を抑える。
「あは、ゴメン。ーーあのさ、リリースさん、夢を諦めて親の言う通りに生きる道とーー父親と夢の話で真っ向から喧嘩するのってどっちが辛い?」
「……」
「1番自分にとって痛いと思う選択肢を大事にすると良いっすよ」
「あたしにとっていちばん……」
「自分の本音と違う選択肢を選んだら、きっと後悔するよ。悔いがないように、ねえ?」
「…ええ、そうね」
コクコクとリリースは黙って頷いた。
そしてまた2人で噴水の前を通り過ぎた。
(ルシアの元で修行ってことになれば……城勤めのユーシンさんとも離れ離れになってしまう)
リリースは自分の前を歩くユーシンの背中を見つめていた。
「あのね、ユーシン…、ユーシンってシャルロットの事が好きなのね?」
「え!?あ、好きって…多分リリースさんが思ってるような好きとは違うっす」
「でも、護りたいって」
「ああ、あれね。うん…まあ、不思議な縁ってやつかな?シャルロット姫様は俺の大事な人だよ、ううん……家族、みたいな」
「??…そ、そう。そっか」
(よくわからないけど、女性として好きな人って意味じゃないんだ…)
ユーシンは説明に困っているようだ。
リリースもそれは理解できなかった。
「……ねえ、ユーシン!」
リリースはスーハーと深呼吸をしたり、ゴホンと咳払いをすると、何かを決心したかのように眉尻を上げてユーシンの腕を引っ張った。
ユーシンはリリースに振り返る。
彼の腕を取ってみたが、いざとなると言葉に詰まる。
でも、今度いつ2人きりになれるかわからないし、今なら胸で燻ってる気持ちを言えそう。
言葉にするのは怖いけれど、苦しくて吐き出したいのだ。
「好き、よ」
「え?」
ユーシンはびっくりしてる。
「あたしはユーシンのことが好き、その…ユーシンと恋人になりたいって意味で」
固く握った手のひらが汗ばんでいる。
脚と唇がガクガク震える、顔は耳まで真っ赤でのぼせそうだ。
「……えっと、……その、ごめん!」
即答だった。
リリースはよろめく。一方後ろへ下り、呆然としていた。
ユーシンはとても困った顔をしていた。
「あたしのことが……嫌いなの?」
「そうじゃない!気持ちは嬉しいよ……でも」
これも即答だった。
ユーシンは口籠もり、そして重い口を開く。
「俺は、誰とも恋人になるつもりはないんです。怖いんです。人と深い仲になるのがーー大切な人をいつか喪ってしまうことが……。自分にとって大切な人が増えるたびに、いつも怯えてしまう」
「なにそれ…」
「…ゴメン、俺の問題っす」
リリースはうつむいて、泣きそうになるのを堪えて顔を上げた。
「呆れたっ!もっとマシなレディーの振り方はないの?騎士のくせに、俺が守ってやる!とか言えるような気概はないの!?」
「……」
「あんたね、未来のことばかり杞憂して取り越し苦労しちゃって、目の前にいる人との今を蔑ろにし過ぎよ!大切な人が、護りたい人がいるから強くなろうって思えるような発想はないの?弱虫ね!、こんな男だとは思わなかったわ!」
リリースはユーシンに背を向けて、迎えに来た馬車に乗り込んだ。
ユーシンは立ち尽くし、唖然としていた。
馬車の中。
テイクアウト用の箱に入ったバウムクーヘンを膝の上に乗せたまま、ポロポロと泣いていた。
*
夕方。
夜のオープン前の人の引けた食堂へ戻ると、ユハとアルハンゲル、ウェスタ、シャルロットがテーブルを囲いながら紅茶を飲んでいた。
「おかえりー☆リリース」
能天気そうなユハの顔を見たら、なんだか怒りが湧いてきた。
リリースはユハの頭を軽く叩くと、テーブルの真ん中にバウムクーヘンの箱を荒っぽく置いた。
「まあ、美味しそう~!わあ、レモンカードもあるわ」
「お土産よ、食べなさい」
「リリースは?」
「要らないわ!」
「なにイライラしてるんだよ~、腹減ってるなら食えば良いじゃん」
リリースの様子を気に掛けたシャルロットはそっと席を立ち、キッチンの中にある椅子に一人でポツンと座ったリリースの元へ駆け寄る。
「どうしたの?リリース」
「ウワァーン!シャルロット~!」
シャルロットの胸に縋り、リリースは大声をあげてワンワンと泣き出した。
苦笑するシャルロットはリリースの背中をポンポン叩き、なだめた。
「ウエーン!あたしは!もう…夢に…仕事に生きるわ~!バカ~!」
「よ、よくわからないけど…頑張ってね…」
恋破れたリリースはボロボロに泣きまくり、泣いたらお腹が減ったようでバウムクーヘンをガツガツと食べ出した。
食堂の仕事がひと段落つくと、リリースはカウンターにもたれかかってうなだれていた。
火の精霊ウェスタはそんな彼女を気に掛け、近寄って声を掛けた。
「何よ、どうしたの?」
「ちょっとね~、さっき本殿の厨房へ行った時、父にばったり会っちゃったの」
「そういえば、家出中だったのよねえ。何か言われたの?」
リリースの父親は宰相をやっている。
本殿で働いてるから、嫌でも顔を合わせてしまう事がある。
お互いに意地の張り合いで今はギスギスしてて、父の姿を見かけたら猛ダッシュで逃げるような生活をしていたのだが……。
「あたし、ルシアに弟子入りして東の領地へ行って修行をしようって考えているの」
東の魔女と呼ばれるルシアは精霊や薬草、魔法などに詳しい老婆だ。
「あら?そういえばルシアは薬学に詳しかったわね」
「うん、シャルロットが精霊の赤ちゃんを産んだ時、産婆をしてたルシアにすごく感動してね。あたし、東の魔女になりたい!って思ったの」
リリースは熱く語った。
ウェスタは微笑ましそうに笑っている。
「夢ーー見つかったのね」
「うん……だから父に相談したのよ、わざわざ本殿まで会いに行ってね。ダメって話聞くなり即答よ。それだけじゃない、さっき会った時なんてね、新しい見合いの話まで持ち出して来たの」
せっかく自分のやりたい事が見つかったのにーー。
どうして親は子供を縛りたがるんだろう。
リリースはむしゃくしゃして、余っていたフルーツを口にした。
「どうしたの?元気がないっすね」
背後に気配がして、くるっと振り返ると私服姿のユーシンがいた。
リリースは驚愕して思い切り後退り、声にならない悲鳴をあげた。
「ゆっ……ユーシン?どうしたの?」
「えっと、クロウの畑で採れた野菜を運んできたんです。今日は騎士の仕事も無くてオフですよ」
「そう…、どこかへ出掛けるの?」
ユーシンは余所行きの外套を羽織っていた。
「ああ、街で父と母が王都まで来てるから一緒に食事するんです。帰国して、あまりのんびり出来なっかたので」
「へえ…」
「リリースさんは午後は暇?一緒に食事でもどう?」
ユーシンからのまさかのお誘いにまた驚愕するリリース。
「なっなんで、あんたの親と、しょしょ食事!?」
「シャルロット姫を誘っていたんだけど、護衛の都合で城を出る許可がおりなかったんだ。予約していた席が一つ余ってるし、気晴らしにどう?最近ペレー国の菓子職人がオープンした大人気のバウムクーヘン屋さんだよ。予約もなかなか取れないんだから」
ユーシンはニコニコ明るく笑ってる。
リリースはほっぺたを真っ赤にして冷や汗を全身にかいていた。
(これって……デートみたいな感じ?……保護者同伴だけど)
「行って来なさい、早く上がっていいわよ…今日は暇だし」
ウェスタが笑ってリリースの背中を押した。
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城下の公園の噴水前にユーシンの義理の両親が立っていた。
彼らはにこやかに手を振っていた。
「おや、宰相閣下のお嬢さんかい。はじめまして」
「ど、どうも…、リリース・ミシュウです。はじめまして。東大陸の件聞きました、大変だったわね」
「はは、この通りピンピンしてますよ」
この感じの良い穏やかな老夫婦は東大陸に拉致されていたそうだ。
シャルロットやユーシンたちに救出され、こうして帰国している。
「わぁ~!ユーシン、来なさいよ。本当に樹木のような見た目ね!」
「わあ……美味しそう」
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外のショーウィンドウからバウムクーヘンが作られている様が見物できた。
くるくると回転する鉄の棒に生地が流し込まれる。
そのまま回って、何層も生地が分かれて切り株の年輪のようになっていた。
あれはペレー国の伝統的なお菓子らしい。
「秋冬限定のレモンカード添えですって!持ち帰れるから、シャルロットやユハたちにも買ってあげましょうよ。レモンカードは瓶入りも売ってるわ」
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「うん、そうっすね。店内だと紅茶も飲めるみたい。父さんたち、早く中へ入ろう」
夫妻は少し離れた場所からユーシンとリリースの様子をほのぼのと眺めていた。
「こうして見ると、二人は可愛らしいカップルみたいですわね」
夫人が笑ってる。
彼女の言葉にリリースは赤面した。ユーシンは隣で困ったようにヘラヘラ笑ってる。
落ち着いている店内。
カットされて出てきたバームクーヘン、小さなココットには綺麗なイエローのレモンカード。
そして美味しい紅茶にお砂糖とミルクを入れてクルクルとティースプーンで回した。
4人で木製のテーブルに着いて同じ紅茶とバウムクーヘンを食べていた。
「おいしい~!」
リリースは笑顔になった。
「よかった」
「今度は2人で来たらいいよ」
夫妻はニタニタと笑ってる。
リリースとユーシンは顔を見合わせて苦笑いしていた。
「……えっと、それで、今日は父さん達に話したいことがあって……」
ユーシンは真面目な顔になって切り出した。
「……俺、グレース皇子とシャルロット姫の護衛にーー、親衛隊を目指そうと思うんだ!試験とか選考とか色々あるから、本当になれるのかはわからないけど」
「ああ、シャルロット姫か……。彼女がお前が小さい頃から言ってた護りたい、大切な人なんだろう?いいさ、お前の好きなようにすれば良い」
「ゴメン、捨て子の俺を拾ってもらったのに、父さんたちには親孝行もできなくて」
「何言ってるんだ。お前が元気に、幸せに生きていることが私たちの幸せでもあるんだよ。それに親衛隊になれたら私達も鼻が高いよ。私達は一代貴族だから継ぐべきものもないし、お前がしたいことをすれば良い」
「そうよ。応援してるわ。でも、たまにはうちにも顔を見せに来なさいな」
『親衛隊』ーーユーシンの護りたい人。
ああ、そうか……、リリースはなんだか寂しい気分になった。
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スイーツを堪能した後、夫妻とはすぐに別れることになった。
ユーシンは夫妻とハグをし合って、手土産を渡すと2人が乗り込んだ馬車に手を振った。
2人取り残されたリリースとユーシン。
「すごいわね、ちゃんと自分の夢の話を親に向かって言えて」
「緊張したっすけどね。リリースさんも夢があるの?」
リリースの表情は曇る。
「薬草や薬学が子供の頃から大好きなのよ。魔法もまあ得意だし。だから、東の魔女の後継者になりたいの。ルシアの元へ修行へ出るつもりよ。父は認めてくれないけれどね」
落ち込むリリースの頭をユーシンは優しく撫でた。
リリースは照れながら頭を抑える。
「あは、ゴメン。ーーあのさ、リリースさん、夢を諦めて親の言う通りに生きる道とーー父親と夢の話で真っ向から喧嘩するのってどっちが辛い?」
「……」
「1番自分にとって痛いと思う選択肢を大事にすると良いっすよ」
「あたしにとっていちばん……」
「自分の本音と違う選択肢を選んだら、きっと後悔するよ。悔いがないように、ねえ?」
「…ええ、そうね」
コクコクとリリースは黙って頷いた。
そしてまた2人で噴水の前を通り過ぎた。
(ルシアの元で修行ってことになれば……城勤めのユーシンさんとも離れ離れになってしまう)
リリースは自分の前を歩くユーシンの背中を見つめていた。
「あのね、ユーシン…、ユーシンってシャルロットの事が好きなのね?」
「え!?あ、好きって…多分リリースさんが思ってるような好きとは違うっす」
「でも、護りたいって」
「ああ、あれね。うん…まあ、不思議な縁ってやつかな?シャルロット姫様は俺の大事な人だよ、ううん……家族、みたいな」
「??…そ、そう。そっか」
(よくわからないけど、女性として好きな人って意味じゃないんだ…)
ユーシンは説明に困っているようだ。
リリースもそれは理解できなかった。
「……ねえ、ユーシン!」
リリースはスーハーと深呼吸をしたり、ゴホンと咳払いをすると、何かを決心したかのように眉尻を上げてユーシンの腕を引っ張った。
ユーシンはリリースに振り返る。
彼の腕を取ってみたが、いざとなると言葉に詰まる。
でも、今度いつ2人きりになれるかわからないし、今なら胸で燻ってる気持ちを言えそう。
言葉にするのは怖いけれど、苦しくて吐き出したいのだ。
「好き、よ」
「え?」
ユーシンはびっくりしてる。
「あたしはユーシンのことが好き、その…ユーシンと恋人になりたいって意味で」
固く握った手のひらが汗ばんでいる。
脚と唇がガクガク震える、顔は耳まで真っ赤でのぼせそうだ。
「……えっと、……その、ごめん!」
即答だった。
リリースはよろめく。一方後ろへ下り、呆然としていた。
ユーシンはとても困った顔をしていた。
「あたしのことが……嫌いなの?」
「そうじゃない!気持ちは嬉しいよ……でも」
これも即答だった。
ユーシンは口籠もり、そして重い口を開く。
「俺は、誰とも恋人になるつもりはないんです。怖いんです。人と深い仲になるのがーー大切な人をいつか喪ってしまうことが……。自分にとって大切な人が増えるたびに、いつも怯えてしまう」
「なにそれ…」
「…ゴメン、俺の問題っす」
リリースはうつむいて、泣きそうになるのを堪えて顔を上げた。
「呆れたっ!もっとマシなレディーの振り方はないの?騎士のくせに、俺が守ってやる!とか言えるような気概はないの!?」
「……」
「あんたね、未来のことばかり杞憂して取り越し苦労しちゃって、目の前にいる人との今を蔑ろにし過ぎよ!大切な人が、護りたい人がいるから強くなろうって思えるような発想はないの?弱虫ね!、こんな男だとは思わなかったわ!」
リリースはユーシンに背を向けて、迎えに来た馬車に乗り込んだ。
ユーシンは立ち尽くし、唖然としていた。
馬車の中。
テイクアウト用の箱に入ったバウムクーヘンを膝の上に乗せたまま、ポロポロと泣いていた。
*
夕方。
夜のオープン前の人の引けた食堂へ戻ると、ユハとアルハンゲル、ウェスタ、シャルロットがテーブルを囲いながら紅茶を飲んでいた。
「おかえりー☆リリース」
能天気そうなユハの顔を見たら、なんだか怒りが湧いてきた。
リリースはユハの頭を軽く叩くと、テーブルの真ん中にバウムクーヘンの箱を荒っぽく置いた。
「まあ、美味しそう~!わあ、レモンカードもあるわ」
「お土産よ、食べなさい」
「リリースは?」
「要らないわ!」
「なにイライラしてるんだよ~、腹減ってるなら食えば良いじゃん」
リリースの様子を気に掛けたシャルロットはそっと席を立ち、キッチンの中にある椅子に一人でポツンと座ったリリースの元へ駆け寄る。
「どうしたの?リリース」
「ウワァーン!シャルロット~!」
シャルロットの胸に縋り、リリースは大声をあげてワンワンと泣き出した。
苦笑するシャルロットはリリースの背中をポンポン叩き、なだめた。
「ウエーン!あたしは!もう…夢に…仕事に生きるわ~!バカ~!」
「よ、よくわからないけど…頑張ってね…」
恋破れたリリースはボロボロに泣きまくり、泣いたらお腹が減ったようでバウムクーヘンをガツガツと食べ出した。
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